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告。新入生諸君

2 電算部部長という事象 2

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「部会を始める」

 言葉と同時に、小華はいつもの無表情に戻る。まるで、すん。と、音が聞こえてきそうだ。
 髪色や瞳の色が暖色系なのにも関わらず、小華と短時間一緒にいると冷たい印象を持つ人が多い。それは、彼女の表情筋が完璧にコントロールされているように見えるからだ。さっきまでの菩薩のような笑顔も、笑顔でありながら怒っているような視線も、今の無の顔もすべて意識のコントロール下に置かれていると、彼女を深く知らないものは思う。

「諸君」

 教卓に一番近い席の椅子を引っ張って来て、座って腕を組んで彼女は一同を見回した。メンバーたちもそれぞれ自分の定位置に座る。

「我電算部は現在危機的状況にある」

 表情を変えることなく彼女は宣言した。

「昨年は部活停止期間で免除されていたが、本年度は活動実績の提出を求められている」

 女神川学園高校文化祭『日輪祭』。外部の展覧会やコンテストに出場しない『文化部』は必ず文化祭に置いて何らかの活動が義務付けられていた。名目上は『文化部』に属する電算部も例外ではない。そして、電算部が外部のコンテストや展覧会への参加実績がないことくらい、部員なら誰でも知っていることだ。もちろん、小華とてそれを皆が知っていることが分かっていて、それでも、敢えて口に出して言ったのだ。

「であるからして。だ」

 部活動を部活動として成立させるためにはいくつかの決まりがあるが、重要なポイントは二つ。部員数と活動実績。
 部員数は5人以上とすでにクリアされているのだが、昨年度初めの不祥事で半年間の部活動停止期間があった電算部にはもう一つの活動実績がない。もちろん、彼らは何もしていないわけではない。ほぼ毎日部活はある。ただ、それは学校に活動実績として認められるものではなかった。
 特戦学部の『文化部』には、そんな部活が少なくない。

「今年は日輪祭への参加を申請する」

 そんな部活を救済するための機会が文化祭である『日輪祭』だった。
 日輪祭の2日目に行われる体育祭の部活対抗競技に3種目以上に参加すると、成績に関わらず活動実績として認められる。燈が所属する電算部が目指しているのはその体育祭の出場だ。

「もちろん、異論は認めん」

 またしても、無表情のまま、小華が言った。
 表情は変わらない。変わらないのだ。

「そして。分かっていると思うが」

 彼女の後ろに炎が沸き立ったように見えた。少なくとも、そこに集まっている5人には見えたのだ。

「出るからには優勝する」

 彼女をして、冷たいという連中は知らない。彼女の中にあるこの激情を。
 その強さと激しさに憧れたことも、燈が廃部寸前のこの電算部に残った理由だし、恐らくそれはほかの4人も同じだと思う。

「……で……あるわけだが。一つ大きな問題があることは諸君も知っているだろう」

 ため息のような大きな吐息を吐き出しながら、彼女は続ける。まるで演説のようだと思う。

「個人戦1種目。ペア戦1種目は問題ないが、団体戦が問題だ」

 体育祭は文化祭の花だ。体育科には多くの有望な選手が在籍しているし、芸能科は既に活躍しているアイドルが在籍している。だから、ネット配信やテレビでの放映もあるほどだ。
 在校生、父兄はもちろん、来年度以降の入学希望者、スポーツクラブや芸能事務所のスカウトマンまでが注目する一大イベントだ。
 そのため、種目は多岐にわたっている。その中でも、最も人気が高い種目が特戦学部限定種目だった。未来のスレイヤーたちの姿が見られるため、一般入場のチケットはプラチナチケットになっている。

「個人戦は全員参加。ペア戦はバランスを見て組み合わせを決める。
 ただ、団体戦は1チーム10人が原則だ。10人で登録してあれば、1人の欠員は認められているから、実質参加人数は9人ということになる」

 そこで、彼女はお手上げ。という表情と仕草を作って見せた。

「我部の部員が何人かは。諸君らも知っているだろう?」

 にやり。と、笑った表情に焦りの色はない。
 危機的状況にあるにもかかわらず。だ。
 日輪祭の体育祭に出場できず、実績が認められなかった場合、電算部は同好会に格下げになる。もともと、特戦の『文化部』は補助金をもらって活動しているわけではないから、金銭面では問題がない。ただ、現在使用しているA号電算室が使用できる回数が減ってしまうし、外部への実習回数も制限されることになる。それは、何としても避けたい。
 それでもなお。小華は焦ってはいない。
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