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告。新入生諸君
2 電算部部長という事象 1
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鼎が開けたまま引き戸は閉まってはいなかった。だから、音がしなかったのは当たり前かもしれない。ただ半人前とはいえ、実戦経験もある2年生4人はそこら辺にいる野生動物より感覚は鋭い。しかも、異形であるクロもそこにいた。それでも、誰一人として、その存在には気づいていなかったのだ。
「私が何だって?」
全くなんの気配もさせないまま、その人はそこにいた。
李小華(リー・シャオファ)。女神川学園高校特戦3年混合A組。電算部部長。
オレンジに近い色の長いストレートの髪に、まさにピジョンブラッドというに相応しいルビーの色の意志の強そうな瞳。まるで彫刻のように整った顔立ちは石膏のように白い。小柄で決して逞しいとは言えないが、2年生では隙を見つけるのは不可能だ。
彼女は腕組みをして、薄く笑いを浮かべている。柔和な微笑みだ。
「あ……」
それでも、鼎は固まっていた。
彼女がこの電算部の絶対的支配者だからだ。
どこからどうみても、菩薩のようだと形容して問題ない笑顔だけれど、わかる。わからないなら、電算部では生き残れない。
「お……お疲れさまです」
固まったまま、ぎぎ。と、音がしそうなほどぎこちなく鼎の顔が笑顔になった。
小華の身長は鼎より20㎝は小さい。それでも、その人物に全く自分が敵わないのだと、鼎は知っている。
「私が何だって?」
小華は二度言った。その意味が、理解できない鼎ではない。
一同を見回す小華から、2年生は皆、す。と、視線を逸らした。助けを求める鼎の哀れな視線からも。だ。
「……いえ。その」
もちろん、小華の質問にありのままに答えを言うわけにもいかない。かといって、嘘をついてもバレる。経験上、それはわかっていた。だから、鼎は口籠る。
「李。そのくらいにしておけ」
盛大に目を泳がせている鼎に代わって和彦がため息まじりに言った。
「そんなことじゃ、今年もすぐに新入生に逃げられるぞ?」
「ということはだ。和彦。去年、新入生が4人しか残らなかったのは私のせいだっていうのか?」
和彦の言葉に若干食い気味に、笑顔は崩さず、小華は言った。片眉が僅かに上げる。
「別にそんなことは言ってないだろう? ただ『あんなこと』があっても残ってた8人が半分になったのは事実だ」
涼しい顔で和彦は答えた。
小華は基本的に人の話を聞かない。正確に言うと自分の聞きたいことしか聞かない。
けれど、小華が聞いていてもいなくても、和彦もお構いなしだ。たしかに、小華は誰の指図も受けない女帝だけれど、結局部を運営しているのはこの宰相・和彦の力だ。小華が納得していてもしていなくても、『伝えたから』の一言で全てを済ませてしまう。
その力関係について、2年生はこの一年間で熟知している。いや、熟知させられた。
「大して役に立たない新入生を8人私達2人でフォローできたって?」
とはいっても、和彦が何と言ったとしても、小華が話を聞くようになるというわけではない。だから、こんな会話が始まると2年生は壁になる。聞いてはいる。けれど、口は挟まない。それが、女神川学園高校電算部の生きる知恵だった。
「李の見る目は信じてるよ。今年の2年は精鋭だ」
にこり。と、優雅に笑って和彦は小華の視線を受け流す。
「ただ、俺たち2人で面倒を見られるのが4人だけだったんだ。2年生がこれ以上減ったら新入生を受け入れられない」
正鵠を射た和彦の言葉に小華はその顔をまじまじと見つめている。その瞳の色は炎のように見える。何も知らない人が見たら怒っているように見えるかもしれない。
「……まあ。いい」
しかし、気に入らなければ、正しかろうと間違っていようと絶対に譲らない小華には珍しいことに、彼女は何も言い返さなかった。それが、かえって不気味だ。
「私が何だって?」
全くなんの気配もさせないまま、その人はそこにいた。
李小華(リー・シャオファ)。女神川学園高校特戦3年混合A組。電算部部長。
オレンジに近い色の長いストレートの髪に、まさにピジョンブラッドというに相応しいルビーの色の意志の強そうな瞳。まるで彫刻のように整った顔立ちは石膏のように白い。小柄で決して逞しいとは言えないが、2年生では隙を見つけるのは不可能だ。
彼女は腕組みをして、薄く笑いを浮かべている。柔和な微笑みだ。
「あ……」
それでも、鼎は固まっていた。
彼女がこの電算部の絶対的支配者だからだ。
どこからどうみても、菩薩のようだと形容して問題ない笑顔だけれど、わかる。わからないなら、電算部では生き残れない。
「お……お疲れさまです」
固まったまま、ぎぎ。と、音がしそうなほどぎこちなく鼎の顔が笑顔になった。
小華の身長は鼎より20㎝は小さい。それでも、その人物に全く自分が敵わないのだと、鼎は知っている。
「私が何だって?」
小華は二度言った。その意味が、理解できない鼎ではない。
一同を見回す小華から、2年生は皆、す。と、視線を逸らした。助けを求める鼎の哀れな視線からも。だ。
「……いえ。その」
もちろん、小華の質問にありのままに答えを言うわけにもいかない。かといって、嘘をついてもバレる。経験上、それはわかっていた。だから、鼎は口籠る。
「李。そのくらいにしておけ」
盛大に目を泳がせている鼎に代わって和彦がため息まじりに言った。
「そんなことじゃ、今年もすぐに新入生に逃げられるぞ?」
「ということはだ。和彦。去年、新入生が4人しか残らなかったのは私のせいだっていうのか?」
和彦の言葉に若干食い気味に、笑顔は崩さず、小華は言った。片眉が僅かに上げる。
「別にそんなことは言ってないだろう? ただ『あんなこと』があっても残ってた8人が半分になったのは事実だ」
涼しい顔で和彦は答えた。
小華は基本的に人の話を聞かない。正確に言うと自分の聞きたいことしか聞かない。
けれど、小華が聞いていてもいなくても、和彦もお構いなしだ。たしかに、小華は誰の指図も受けない女帝だけれど、結局部を運営しているのはこの宰相・和彦の力だ。小華が納得していてもしていなくても、『伝えたから』の一言で全てを済ませてしまう。
その力関係について、2年生はこの一年間で熟知している。いや、熟知させられた。
「大して役に立たない新入生を8人私達2人でフォローできたって?」
とはいっても、和彦が何と言ったとしても、小華が話を聞くようになるというわけではない。だから、こんな会話が始まると2年生は壁になる。聞いてはいる。けれど、口は挟まない。それが、女神川学園高校電算部の生きる知恵だった。
「李の見る目は信じてるよ。今年の2年は精鋭だ」
にこり。と、優雅に笑って和彦は小華の視線を受け流す。
「ただ、俺たち2人で面倒を見られるのが4人だけだったんだ。2年生がこれ以上減ったら新入生を受け入れられない」
正鵠を射た和彦の言葉に小華はその顔をまじまじと見つめている。その瞳の色は炎のように見える。何も知らない人が見たら怒っているように見えるかもしれない。
「……まあ。いい」
しかし、気に入らなければ、正しかろうと間違っていようと絶対に譲らない小華には珍しいことに、彼女は何も言い返さなかった。それが、かえって不気味だ。
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