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告。新入生諸君
1 石田燈 3
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「疲れるほどなんもしてねえよ」
雫のお決まりの文句に燈はお決まりの返事を返す。
「今年も同じクラスだね。よろしく」
そっけない燈の態度に気を悪くするような様子も一切なく、雫は答えた。特戦科は毎年成績でクラス分けが変わる。だから、二人とも成績優秀なクラスであるA組のまま2年に上がれたのは僥倖と言えた。
「実技はともかく……よく座学で落とされなかったな。お前」
別に嫌味が言いたかったわけではない。ただ、本気でそう思う。雫は戦闘のセンスは抜群なのだが、理論は全くゴミだ。カスだ。頭で考えて優位に立つようなやり方には疎く、本能のままに相手を制圧する。けれど、学校の授業においてはそれでは誰も納得はしてくれない。それを、雫も理解していた。
「期末試験頑張ったもん。李先輩がテストヤマ賭けてくれたし。すごいの。全部当たったんだよ」
燈のあとをついて歩きながら、雫はふんぞり返った。
「あー。そう。よかったな」
別にお前はすごくねえだろ。と、言葉は飲み込んだ。雫にそんなことを言っても通じないことくらい、この一年の付き合いで燈にだってわかっている。どこから見てもスタイル抜群で顔もいい癖にこの残念な性格が災いして彼氏の一人どころか、告白すらされたことはないのだ。男には。もちろん。燈も、雫のことを女だと、いや、恋愛対象だと思ったことはない。こんなのが彼女だったら面倒くさいことこの上ないだろう。
「それより。ねえ。もうすぐ体験入部期間になるよね。新入生来るかな?」
雫の言葉に、燈はもう一度ポスターを見た。
電算部の現在の部員数は3年が2人。2年が4人の6人。寂しいことこの上ない。かつては部員80人を数えた大所帯だったのだが、現在では小隊を組むことすら怪しい。だから、新入生の勧誘は、急務だ。それなのに、あのなんの情報も魅力もない勧誘ポスター。ため息が出ない方がおかしい。
「さあな。確か、和先輩の弟が入るとか、入らないとか言ってなかったっけ?」
ツッコミどころしかないポスターから視線を逸らして、燈は歩き始めた。雫も後からついてくる。
「あー。うん。そういえば言ってたね。どんなコかな? 強いコだといいね」
弁当以外入っていないカバンをぶんぶん。と、振って、歩きながら雫が言った。
「んー。ま。強いかどうかはどうでもいい」
ひらひら。と、手を振って燈は答える。
去年の春、ここの扉を開けた自分たちもカラのついたままのヒヨコのようなものだった。今だって一人前とは言い難いけれど、少なくともランクは低くても実践に参加できる程度にはなっている。
だから、今、強いかどうかは問題ではない。
「ウチにいたら勝手に強くなんだろ」
目的地だった教室の重そうなスチールの引き戸の前に立って、燈は雫を振り返った。そして、に。と笑う。
「うん。そだね」
大抵のことはアイコンタクトで分かるようになった戦友は、同じく、に。と笑っていた。
雫のお決まりの文句に燈はお決まりの返事を返す。
「今年も同じクラスだね。よろしく」
そっけない燈の態度に気を悪くするような様子も一切なく、雫は答えた。特戦科は毎年成績でクラス分けが変わる。だから、二人とも成績優秀なクラスであるA組のまま2年に上がれたのは僥倖と言えた。
「実技はともかく……よく座学で落とされなかったな。お前」
別に嫌味が言いたかったわけではない。ただ、本気でそう思う。雫は戦闘のセンスは抜群なのだが、理論は全くゴミだ。カスだ。頭で考えて優位に立つようなやり方には疎く、本能のままに相手を制圧する。けれど、学校の授業においてはそれでは誰も納得はしてくれない。それを、雫も理解していた。
「期末試験頑張ったもん。李先輩がテストヤマ賭けてくれたし。すごいの。全部当たったんだよ」
燈のあとをついて歩きながら、雫はふんぞり返った。
「あー。そう。よかったな」
別にお前はすごくねえだろ。と、言葉は飲み込んだ。雫にそんなことを言っても通じないことくらい、この一年の付き合いで燈にだってわかっている。どこから見てもスタイル抜群で顔もいい癖にこの残念な性格が災いして彼氏の一人どころか、告白すらされたことはないのだ。男には。もちろん。燈も、雫のことを女だと、いや、恋愛対象だと思ったことはない。こんなのが彼女だったら面倒くさいことこの上ないだろう。
「それより。ねえ。もうすぐ体験入部期間になるよね。新入生来るかな?」
雫の言葉に、燈はもう一度ポスターを見た。
電算部の現在の部員数は3年が2人。2年が4人の6人。寂しいことこの上ない。かつては部員80人を数えた大所帯だったのだが、現在では小隊を組むことすら怪しい。だから、新入生の勧誘は、急務だ。それなのに、あのなんの情報も魅力もない勧誘ポスター。ため息が出ない方がおかしい。
「さあな。確か、和先輩の弟が入るとか、入らないとか言ってなかったっけ?」
ツッコミどころしかないポスターから視線を逸らして、燈は歩き始めた。雫も後からついてくる。
「あー。うん。そういえば言ってたね。どんなコかな? 強いコだといいね」
弁当以外入っていないカバンをぶんぶん。と、振って、歩きながら雫が言った。
「んー。ま。強いかどうかはどうでもいい」
ひらひら。と、手を振って燈は答える。
去年の春、ここの扉を開けた自分たちもカラのついたままのヒヨコのようなものだった。今だって一人前とは言い難いけれど、少なくともランクは低くても実践に参加できる程度にはなっている。
だから、今、強いかどうかは問題ではない。
「ウチにいたら勝手に強くなんだろ」
目的地だった教室の重そうなスチールの引き戸の前に立って、燈は雫を振り返った。そして、に。と笑う。
「うん。そだね」
大抵のことはアイコンタクトで分かるようになった戦友は、同じく、に。と笑っていた。
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