【これはファンタジーで正解ですか？】燈編

告。新入生諸君

1 石田燈 2

　季節は春。よく晴れてうららかな午後。
　国立女神川学園高校23号棟の二階。特殊戦闘科の一般教室から特別教室がある校舎への渡り廊下は放課後、部室として使われている特別教室へと向かう学生がちらほらと歩いている。
　温かな陽光が廊下を明るく照らしている。開け放たれた窓から入ってくる心地よい風に髪を弄らせながら、燈は歩いていた。
　ちらり。と目をやると、今が盛りと桜が咲き誇っている。その花びらが一枚。ひらひら。と、待って燈の鼻先を掠めた。
　花びらの向かう先、掲示板には競うように部活の勧誘のチラシが貼られている。新聞部。軽音部。文芸部。美術部。何故か、図書委員会の委員募集まで貼りだされていた。

「新入生……か」

　概ね平穏な放課後。
　午前中は始業式があり、その後は新入生のオリエンテーションのために在校生は授業がない。だから、燈は慣れた道をその場所に向かって歩いていたのだ。
　ふと、掲示板の片隅に、ある掲示物を見つけて、燈はため息を漏らした。

「今年……入ってくれんのかね」

　何の色気も飾り気もない半紙に墨で書き殴られた文字。

　告。新入生諸君。
　当方、初心者歓迎。
　女神川学園高校電算部。
　希望者はＡ号電算室まで。
　部長：特戦3年混合Ａ組　李小華。

　本気で勧誘する気があるのかと疑わざるを得ない。イラストもなければ、説明もない。あの部長に説明を求めても無駄だとはわかっているけれど、ひどすぎるとため息が出るのを燈は止められなかった。これでは、興味の持ちようがない。そもそも、この女神川学園特殊戦闘科対象の部活はかなり普通の感覚とはかけ離れているというのに、これではだまし討ちをしているようなものだと思う。

「……ま。どうせ、部活の詳細。知ってるやつしか来ないか……や。知ってたら来ねえか」

　燈はため息と一緒に言葉を吐き出す。

「私は知らなかったよ～？」

　誰も聞いていないと思って吐き出した言葉には、しかし、背後から答えが返ってきた。

「雫」

　振り返るとそこには、燈より背の高い女子が立っていた。スカートが短い。もはやパンツを隠す気があるのかとツッコミを入れたくなる短さだ。その上、ブレザーのボタンは無理矢理に留めているレベルの胸のデカさ。長い髪を後ろで結って、微笑む顔は美少女と言って差し支えはない。一見少し童顔な印象を与える透明な青い目は、よく見ると光彩が縦に割れ、まるで爬虫類のように見える。

「燈ちゃん。お疲れ～」

　冷たい印象を与える瞳の色とは対照的な人懐っこい笑顔を浮かべて、燈の同級生、女神川学園高校、特戦2年混合A組。神野雫（かみのしずく）は言った。ひらひら。と、手を振っている。