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おまじないって、お呪いって書くよね?
おまじないって、お呪いって書くよね? 9
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蛇足。
「で? あれは何なんだ?」
ドアの隙間から二人の姿を見ていた翡翠に、紫苑は聞こえるか聞こえないかという音量で声をかけた。
「ん。素直になるおまじない。かな」
ドアを離れて、翡翠は答える。それから、もう少しだけ二人きりにしてやろうと、紫苑を廊下の奥の事務室へと促す。
「燈。素直じゃないから」
隣に並んで歩きながら、紫苑は身長差で随分と下に見える翡翠の表情を伺う。彼は、いつも通り、少し寂し気に。けれど、柔らかく微笑んでいる。
「やっぱり、お茶の成分だけじゃ無理だったみたいだ」
その視線がふと。紫苑の視線に気づいたように見返してくる。綺麗な翡翠の色の瞳だ。
「あの石は?」
その瞳は確かに、紫苑に向いている。けれど、それは、紫苑を通り越してどこか遠くを見ているように感じられた。
「アレクサンドライト。人工のヤツだけど。石言葉は『秘めた思い』。科学のつもりなんだけど、詩的だね。
効果は見ての通りだけど。薬として販売するにはちょっとお高すぎ」
くすり。と、笑って、翡翠が言う。笑顔には違いない。しかしやはり、どこか影を帯びているように感じられるのは、気のせいではない。
「あと。少しだけ。少しだけだけど、おまじないかけといた」
出会ったときから、翡翠はこうだった。笑っていてもどこか寂し気で、他人の気持ちのことには真剣に悩む癖に、自分のことはどうでもいいような発言をすることがある。理由も分かってはいるけれど、紫苑は翡翠の心のその部分に触れることができないでいた。
「おまじない? 呪い。じゃなくてか?」
紫苑の言葉に、翡翠は苦笑する。
「ああ。うん。そっちのが近いかな」
悪戯っぽい表情を浮かべる翡翠。もちろん、男性だということは分かっているし、年齢も紫苑より年上だ。それでも、まるで何も知らない少女のように見えるときがある。
そんなとき、紫苑の心は、大きくざわつくのだ。
「あれ。自白剤の一種だし」
「は?」
驚く紫苑ににこり。と、微笑んで、翡翠は背を向けた。
「まあ、いいや。製法は俺しか知らないし。これは……ボツ」
それから、そんなことを言うのだ。
「さあてと。そろそろ。焼けるかなあ」
何もなかったかのように紅二と燈がいる部屋に向かう翡翠を、やっぱり、彼は普通ではないと、複雑な思いで見守る紫苑だった。
「で? あれは何なんだ?」
ドアの隙間から二人の姿を見ていた翡翠に、紫苑は聞こえるか聞こえないかという音量で声をかけた。
「ん。素直になるおまじない。かな」
ドアを離れて、翡翠は答える。それから、もう少しだけ二人きりにしてやろうと、紫苑を廊下の奥の事務室へと促す。
「燈。素直じゃないから」
隣に並んで歩きながら、紫苑は身長差で随分と下に見える翡翠の表情を伺う。彼は、いつも通り、少し寂し気に。けれど、柔らかく微笑んでいる。
「やっぱり、お茶の成分だけじゃ無理だったみたいだ」
その視線がふと。紫苑の視線に気づいたように見返してくる。綺麗な翡翠の色の瞳だ。
「あの石は?」
その瞳は確かに、紫苑に向いている。けれど、それは、紫苑を通り越してどこか遠くを見ているように感じられた。
「アレクサンドライト。人工のヤツだけど。石言葉は『秘めた思い』。科学のつもりなんだけど、詩的だね。
効果は見ての通りだけど。薬として販売するにはちょっとお高すぎ」
くすり。と、笑って、翡翠が言う。笑顔には違いない。しかしやはり、どこか影を帯びているように感じられるのは、気のせいではない。
「あと。少しだけ。少しだけだけど、おまじないかけといた」
出会ったときから、翡翠はこうだった。笑っていてもどこか寂し気で、他人の気持ちのことには真剣に悩む癖に、自分のことはどうでもいいような発言をすることがある。理由も分かってはいるけれど、紫苑は翡翠の心のその部分に触れることができないでいた。
「おまじない? 呪い。じゃなくてか?」
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「ああ。うん。そっちのが近いかな」
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そんなとき、紫苑の心は、大きくざわつくのだ。
「あれ。自白剤の一種だし」
「は?」
驚く紫苑ににこり。と、微笑んで、翡翠は背を向けた。
「まあ、いいや。製法は俺しか知らないし。これは……ボツ」
それから、そんなことを言うのだ。
「さあてと。そろそろ。焼けるかなあ」
何もなかったかのように紅二と燈がいる部屋に向かう翡翠を、やっぱり、彼は普通ではないと、複雑な思いで見守る紫苑だった。
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