16 / 123
おまじないって、お呪いって書くよね?
おまじないって、お呪いって書くよね? 9
しおりを挟む
蛇足。
「で? あれは何なんだ?」
ドアの隙間から二人の姿を見ていた翡翠に、紫苑は聞こえるか聞こえないかという音量で声をかけた。
「ん。素直になるおまじない。かな」
ドアを離れて、翡翠は答える。それから、もう少しだけ二人きりにしてやろうと、紫苑を廊下の奥の事務室へと促す。
「燈。素直じゃないから」
隣に並んで歩きながら、紫苑は身長差で随分と下に見える翡翠の表情を伺う。彼は、いつも通り、少し寂し気に。けれど、柔らかく微笑んでいる。
「やっぱり、お茶の成分だけじゃ無理だったみたいだ」
その視線がふと。紫苑の視線に気づいたように見返してくる。綺麗な翡翠の色の瞳だ。
「あの石は?」
その瞳は確かに、紫苑に向いている。けれど、それは、紫苑を通り越してどこか遠くを見ているように感じられた。
「アレクサンドライト。人工のヤツだけど。石言葉は『秘めた思い』。科学のつもりなんだけど、詩的だね。
効果は見ての通りだけど。薬として販売するにはちょっとお高すぎ」
くすり。と、笑って、翡翠が言う。笑顔には違いない。しかしやはり、どこか影を帯びているように感じられるのは、気のせいではない。
「あと。少しだけ。少しだけだけど、おまじないかけといた」
出会ったときから、翡翠はこうだった。笑っていてもどこか寂し気で、他人の気持ちのことには真剣に悩む癖に、自分のことはどうでもいいような発言をすることがある。理由も分かってはいるけれど、紫苑は翡翠の心のその部分に触れることができないでいた。
「おまじない? 呪い。じゃなくてか?」
紫苑の言葉に、翡翠は苦笑する。
「ああ。うん。そっちのが近いかな」
悪戯っぽい表情を浮かべる翡翠。もちろん、男性だということは分かっているし、年齢も紫苑より年上だ。それでも、まるで何も知らない少女のように見えるときがある。
そんなとき、紫苑の心は、大きくざわつくのだ。
「あれ。自白剤の一種だし」
「は?」
驚く紫苑ににこり。と、微笑んで、翡翠は背を向けた。
「まあ、いいや。製法は俺しか知らないし。これは……ボツ」
それから、そんなことを言うのだ。
「さあてと。そろそろ。焼けるかなあ」
何もなかったかのように紅二と燈がいる部屋に向かう翡翠を、やっぱり、彼は普通ではないと、複雑な思いで見守る紫苑だった。
「で? あれは何なんだ?」
ドアの隙間から二人の姿を見ていた翡翠に、紫苑は聞こえるか聞こえないかという音量で声をかけた。
「ん。素直になるおまじない。かな」
ドアを離れて、翡翠は答える。それから、もう少しだけ二人きりにしてやろうと、紫苑を廊下の奥の事務室へと促す。
「燈。素直じゃないから」
隣に並んで歩きながら、紫苑は身長差で随分と下に見える翡翠の表情を伺う。彼は、いつも通り、少し寂し気に。けれど、柔らかく微笑んでいる。
「やっぱり、お茶の成分だけじゃ無理だったみたいだ」
その視線がふと。紫苑の視線に気づいたように見返してくる。綺麗な翡翠の色の瞳だ。
「あの石は?」
その瞳は確かに、紫苑に向いている。けれど、それは、紫苑を通り越してどこか遠くを見ているように感じられた。
「アレクサンドライト。人工のヤツだけど。石言葉は『秘めた思い』。科学のつもりなんだけど、詩的だね。
効果は見ての通りだけど。薬として販売するにはちょっとお高すぎ」
くすり。と、笑って、翡翠が言う。笑顔には違いない。しかしやはり、どこか影を帯びているように感じられるのは、気のせいではない。
「あと。少しだけ。少しだけだけど、おまじないかけといた」
出会ったときから、翡翠はこうだった。笑っていてもどこか寂し気で、他人の気持ちのことには真剣に悩む癖に、自分のことはどうでもいいような発言をすることがある。理由も分かってはいるけれど、紫苑は翡翠の心のその部分に触れることができないでいた。
「おまじない? 呪い。じゃなくてか?」
紫苑の言葉に、翡翠は苦笑する。
「ああ。うん。そっちのが近いかな」
悪戯っぽい表情を浮かべる翡翠。もちろん、男性だということは分かっているし、年齢も紫苑より年上だ。それでも、まるで何も知らない少女のように見えるときがある。
そんなとき、紫苑の心は、大きくざわつくのだ。
「あれ。自白剤の一種だし」
「は?」
驚く紫苑ににこり。と、微笑んで、翡翠は背を向けた。
「まあ、いいや。製法は俺しか知らないし。これは……ボツ」
それから、そんなことを言うのだ。
「さあてと。そろそろ。焼けるかなあ」
何もなかったかのように紅二と燈がいる部屋に向かう翡翠を、やっぱり、彼は普通ではないと、複雑な思いで見守る紫苑だった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
俺は魔法使いの息子らしい。
高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。
ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。
「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」
と、親友の父から衝撃の告白。
なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。
母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。
「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」
と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。
でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。
同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。
「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」
「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」
腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡
※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
天才有名音楽家少年は推し活中
翡翠飾
BL
小学生の頃から天才音楽家として有名で、世界を回って演奏していった美少年、秋谷奏汰。そんな彼の推しは、人気男性アイドルグループメンバー、一条佑哉。奏汰は海外から日本の佑哉の配信を欠かさず見て、スマチャもし、グッズも買い集め、演奏した各地で布教もした。
そんなある日、奏汰はやっとの思いで 望んでいた日本帰国を15歳で果たす。
けれどそれを嗅ぎ付けたテレビ局に是非番組に出てほしいと依頼され、天才少年としてテレビに映る。
すると、何とその番組にドッキリで一条佑哉が現れて?!!
天才美少年によるミステリアス人気アイドルへの、推し活BL。
※後半から学園ものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる