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おまじないって、お呪いって書くよね?

おまじないって、お呪いって書くよね? 8

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「俺より全然多かったじゃん」

「あ? だって、お前と違って義理ばっかだし」

 燈にチョコをくれる人は大抵『作りすぎたから』とか、『試作品。毒見して』とか、『友情の証』とか、枕詞をつけてくれる。紅二も、友人は少なくない。どちらかというと、多いほうだと思う。ただ、ノリの違いなのか友人同士で送りあったりはしていないらしい。紅二にチョコを送ってくる相手は本気度が違う。

「……無自覚。怖」

 ぼそり。と、紅二が言う。

「え?」

 呆れたようなガーネットの色の瞳がようやく燈の方を見た。
 
「まあ、いいや。気付いていない方が俺としては都合がいいし」

 仕方ないな。と、ため息交じりの表情は妙に大人びて見える。どきり。と、心臓が跳ねた。

「でもさ。俺には一番に頂戴?」

 そのくせ、直後に子犬のような笑顔。本当に、この年下の幼馴染はズルい。

「な……なにをだよ」

 どきどき。と、鼓動が早くなる。顔が熱くなるから恥ずかしくて、視線を逸らした。

「あーちゃんのホワイトデー」

 紅二の言葉にはっとして、顔を向けると、紅二は微笑んでいた。その顔に胸がぎゅ。と、苦しくなって、燈はまた、目を逸らす。慌てていたからだろうか、動かした手があたって、ティーカップに半分以上残っていたお茶が零れた。

「……お……お前にやるために作ったわけじゃ」

 思わず言ってしまった言葉に、ヤバい。と、思う。

 どうして、素直に『うん』と、言えないんだろう。
 本当は紅二のために。紅二のためだけに作ったのに。

 泣きたくなって、俯く。テーブルの上にはティーカップから零れたお茶が溜まっていた。それを拭く気すら起きない。ただ、冷めたせいか色が変わったお茶を見ながら、言葉を探す。
 カップから零れたお茶が行き場を求めて流れる。その先には、さっき翡翠に頼まれて買ってきたものが置いてあった。魔道素材用の人工宝石の原石。

「……え?」

 いつ、そこに出したのか、覚えていない。さっきからあっただろうかと考えるけれど、思い出せない。
 引き寄せられるように、流れるお茶がその石の方へ流れていく。そして、燈の見ている目の前で、それは石を濡らした。

「……あ」

 途端に、また、その液体の色が変わる。飲んでいた時は薄い茶色だった。それは冷えて黒みを帯びた緑色に変わっていた。そして、宝石に触れた部分から、赤に変わる。一緒にその石も赤く変化した。
 同時に、ふわり。と、芳香。
 心が落ち着く、いい香りだ。

「……あの」

 頭に浮かんだのは、優しい年上の友人の笑顔だった。頑張れ。と、言ってくれている気がした。

「一番最初に。一番大きいの。やるよ。紅二に」

 だから、勇気を振り絞って、燈は言った。その言葉は燈の中にずっとあったみたいに、すんなりと口から零れた。

「お前も。一番大きいの。くれたし。甘いの。好きだろ」

 顔は見られない。それだけ言うのがやっとだった。

「うん。すごく。好きだ」

 その言葉に驚いて顔を上げると、頬を染めて、紅二が笑っていた。あの頃のままの、けれど、すごく幸せそうで、嬉しそうな笑顔だった。

「甘いの。ね」

 その笑顔に燈も笑顔を返す。それも、燈の中にずっとあった笑顔だった。
 だから、今はこれで、いいのかな。と、思う。少しずつでいい。心の中に在るものを、伝えていけたらいい。
 と、思ってから、はっとした。

「……本当に持っている力?」

 テーブルの上に零れたお茶を見る。それはまるで初恋のようなピンク色に変わっていた。

「ホントに……?」

 呟く燈に紅二が不思議そうな表情を向けている。
 まさか。とは思うけれど、翡翠のが言っていたのは。と、考えて少しだけ背筋が寒くなった。

 ぴぴぴ。

 その時、オーブンのタイマーが鳴った。あと、残り5分を知らせるタイマーだ。

「あーちゃん。もうすぐできるよ~」

 ふと、見下ろすと、お茶は元の色に戻っていた。最初と同じ淡い茶色。

「まさか。ね」

 けれど、拾い上げた石の色は、ピンクに染まったままだった。
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