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おまじないって、お呪いって書くよね?

おまじないって、お呪いって書くよね? 3

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「……ごめん」

「なんで? 燈と一緒にお菓子作れる日が来るなんて、楽しいよ?」

 優し気に微笑む人。
 翡翠は料理が上手い。どこに出しても恥ずかしくない。
 彼氏がたくさんチョコレートを貰ってきたとして、その相手に翡翠の作るお菓子を配ったなら、もう二度と手出ししようとは思わなくなると思う。
 けれど、その日。翡翠は甘いものは作らない。2月14日も。3月14日も。緑風堂は定休日だ。

「なにがいいかな? ああ。そうだ。ブラウニーはどう? 数作りやすいよ」

 スイーツの材料をしまってある棚を確認しながら翡翠が言う。その横顔には気分を害しているような素振りは全くない。もちろん、年下の友人の頼みを迷惑に思うような人物でないことくらい燈にはわかっている。けれど、その笑顔の下に隠したものも燈にはよくわかっていて、分かっていてこんな頼みごとをすることに罪悪感。

「うん。俺よくわかんないし。スイさんのおススメがいい」

 悪いと思いながらも、燈はもう、翡翠に頼るしかなかったのだ。
 もともと、燈は不器用というわけでもない。だから、翡翠が書いてくれたレシピ通りにすればお菓子だって作れると高を括っていた。それなのに、どうしても美味しくならない。ただ甘いだけで、美味しくはないのだ。
 何が違うのだろうと、何度も作ったけれど、翡翠が作るようにはできなかった。

 でも。それでは困る。
 困るのだ。

「うん。じゃ。やろうか。……あ。でも、も少し待っててくれる?」

 材料を棚から選びながら、思い出したように翡翠が言う。

「もう一人、お菓子作り習いたいって人。いるから……あ。てか、待っている間に買い出し行ってきてくれるかな? アーモンド買ってきてくれる?」

 手招きされて、燈は立ち上がった。我儘なお願いをしている自覚はあるから、嫌なんて言えるわけがない。近所のスーパーならすぐに行けるし、大体、教えてくださいなんて言いながら、材料まで全部用意してもらおうなんて都合がいいことを考えてはいなかった。

「うん。行ってくる。他にほしいものあったら、買い出ししてくるよ。お礼も兼ねて」

「ありがと。んー。じゃ……ちょっと遠くまで行ってもらわないといけないけど。もう、注文してお金は払ってあるから、受け取ってきてほしいものがあるんだ」

 そう言って、翡翠は財布の中から小さな封筒を取り出して、さらにその中に入っている紙片を取り出す。渡された紙片を見て、燈は首を傾げた。

「え? これ。お菓子に使うの?」

「や。それは違うけど。おまじない。かな」

 そう言って、翡翠はまた、少しだけ意地悪く微笑んだ。
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