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6 串カツと地ビール 4
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「あそこは……もういいかな?」
その店に通っていたことに今は触れたくなくて、ユキは言葉を濁す。何も今日でなくてもいいのに。と、頭の中では恨み言を呟いた。
「え~? なんで? まりんも、ななちゃんも待ってるよ?」
なんとなく、覚えがある名前が出てきて、ユキはひくり。と、息を飲んだ。ちらり。と、スイの顔を見ると、すん。とした顔でビールグラスを傾けている。余所行きの表情になっているが、特に感情の変化は見えない。
「私だってワンチャンあるかな? って思ってたのに」
ぐい。と、グループの中の女子が体を寄せてくる。
彼女の名前はいまだ思い出せないが、あの店では何度か会った記憶はある。成人(現在この国では18歳から)はしていると思うが、童顔で下手をすると中学生くらいに見えないこともない、容姿の整った子だ。本人もそれを自分の武器だと理解していて、メイクもばっちりと決まっている。
「ユキ君、緑の髪好きだって聞いて、わざわざ染めたんだよ?」
その言葉どおり、彼女の髪は緑色だった。
「ね。なんで来てくんないの?」
その店に通っていたのは、スイと恋人同士になる前だ。少し派手めの店で、その店一角には一夜の相手を探す者たちが集まるスペースがある。誰もが知っているわけではないけれど、その界隈では知っているものも少なくはない。
彼らとはそこで出会った。
と、言っても、彼らとは特に何もない。飲んでいるときに声をかけられただけだ。
ただ、彼女の言う通りユキは所謂ワンナイトの相手でも、一目でそれとわかるほど、スイと共通点ごある相手だけを選んでいたと思う。その点でいって、彼らの中にユキの好みの相手はいなかった。もちろん。スイ自身が恋人になってくれた現在ではそんな店に通う必要すらなくなっている。
「や……うん。あのときは……いろいろあって……」
しかし、スイに触れられない欲求不満の解消のために、その店に通っていた。なんて、この場で言えるはずがない。
言えるはずないけれど、スイの方は見られない。
「いろいろ? ユキ君なら彼女なんていくらでもできそうなのに、あんな店必要ないじゃん。ユキ君に選ばれるとかって、女のコの間でステータスだったんだよ。二度目絶対ないってのが、また、レア度増すらしくて……」
「あー! えと」
段々発言がヤバい方向に進んできてユキは、思わず声を上げていた。
「その……」
突然、ユキが声を上げたから、会話が途切れる。なんとなく、店内のざわめきも小さくなって、注目を集めているのに、言い訳も見つからなくて、ユキはいたたまれなくて、俯いた。
誰も何も言わない。
しばしの沈黙。
とん。と、スイがグラスを置く音が妙にはっきりと聞こえた。
「ええっとぉ。……あ、あれ?」
その沈黙が気不味かったのか、最初に声をかけてきた男が言った。なんだか、言い方がわざとらしい。
「ユキ君のお連れさん?」
ユキの影に隠れるようにして、ビールを飲んでいたスイに今気づいたような体で彼が続ける。別に話題が変われば彼にとっては何ても良かったのだろうと思う。
けれど、それはどちらかというと状況を悪化させる一言だった。
「こんばんわ」
声をかけられて、スイは微笑んだ。
その店に通っていたことに今は触れたくなくて、ユキは言葉を濁す。何も今日でなくてもいいのに。と、頭の中では恨み言を呟いた。
「え~? なんで? まりんも、ななちゃんも待ってるよ?」
なんとなく、覚えがある名前が出てきて、ユキはひくり。と、息を飲んだ。ちらり。と、スイの顔を見ると、すん。とした顔でビールグラスを傾けている。余所行きの表情になっているが、特に感情の変化は見えない。
「私だってワンチャンあるかな? って思ってたのに」
ぐい。と、グループの中の女子が体を寄せてくる。
彼女の名前はいまだ思い出せないが、あの店では何度か会った記憶はある。成人(現在この国では18歳から)はしていると思うが、童顔で下手をすると中学生くらいに見えないこともない、容姿の整った子だ。本人もそれを自分の武器だと理解していて、メイクもばっちりと決まっている。
「ユキ君、緑の髪好きだって聞いて、わざわざ染めたんだよ?」
その言葉どおり、彼女の髪は緑色だった。
「ね。なんで来てくんないの?」
その店に通っていたのは、スイと恋人同士になる前だ。少し派手めの店で、その店一角には一夜の相手を探す者たちが集まるスペースがある。誰もが知っているわけではないけれど、その界隈では知っているものも少なくはない。
彼らとはそこで出会った。
と、言っても、彼らとは特に何もない。飲んでいるときに声をかけられただけだ。
ただ、彼女の言う通りユキは所謂ワンナイトの相手でも、一目でそれとわかるほど、スイと共通点ごある相手だけを選んでいたと思う。その点でいって、彼らの中にユキの好みの相手はいなかった。もちろん。スイ自身が恋人になってくれた現在ではそんな店に通う必要すらなくなっている。
「や……うん。あのときは……いろいろあって……」
しかし、スイに触れられない欲求不満の解消のために、その店に通っていた。なんて、この場で言えるはずがない。
言えるはずないけれど、スイの方は見られない。
「いろいろ? ユキ君なら彼女なんていくらでもできそうなのに、あんな店必要ないじゃん。ユキ君に選ばれるとかって、女のコの間でステータスだったんだよ。二度目絶対ないってのが、また、レア度増すらしくて……」
「あー! えと」
段々発言がヤバい方向に進んできてユキは、思わず声を上げていた。
「その……」
突然、ユキが声を上げたから、会話が途切れる。なんとなく、店内のざわめきも小さくなって、注目を集めているのに、言い訳も見つからなくて、ユキはいたたまれなくて、俯いた。
誰も何も言わない。
しばしの沈黙。
とん。と、スイがグラスを置く音が妙にはっきりと聞こえた。
「ええっとぉ。……あ、あれ?」
その沈黙が気不味かったのか、最初に声をかけてきた男が言った。なんだか、言い方がわざとらしい。
「ユキ君のお連れさん?」
ユキの影に隠れるようにして、ビールを飲んでいたスイに今気づいたような体で彼が続ける。別に話題が変われば彼にとっては何ても良かったのだろうと思う。
けれど、それはどちらかというと状況を悪化させる一言だった。
「こんばんわ」
声をかけられて、スイは微笑んだ。
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