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Nc2t2C
5 億が一にでも 1
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街を行きかう人混みの中、二人の方に向けられたセイジの背中をスイは見ていた。その唇が『ほんとだいじょうぶかな』という形に動く。声は聞こえないほどの小さな声だった。
やっぱり、優しいんだよな。
ユキは口に出さずに呟く。
元々警戒心が強いスイの友人をユキはタバコ屋のシゲさんと、シロくらいしか知らない。紹介してくれないという意味ではない。仕事の知り合いならともかく、引きこもりのスイには名前を教え合う程度の知り合いすらほとんどいなかったからだ。もちろん、彼が友人を作らなかったのは孤独を愛しているわけでも、人間が嫌いだからでもない。ただ、彼は裏切られた傷が痛んで、人を信じることに臆病になっていた。
だから、アキとユキと出会って、世界とのつながりを取り戻してからのスイは止まっていた時間を取り戻そうとしているように、二人の周りにいる人とのつながりも大切にしてくれていた。
でも。
セイジの後姿を見送る横顔を見つめる。
セイジ自身のどこか憎めない人柄のせいもあるけれど、スイがセイジを無条件に信じてくれているのは、彼がアキやユキの友人だからだと、ユキにだってわかっていた。それが、二人に対する信頼の表れだということも理解している。
それでも、思ってしまう。
心配しすぎ。
じゃない?
色白の頬。項にかかる後れ毛。長いまつ毛。綺麗な翡翠色の瞳。
アキとユキだけがスイの特別で、セイジはスイにとってただの友人だということも。優しい彼が世話を焼いてくれる彼女もいないセイジを心配しているだけだということも。セイジを心配するのが半分くらいはアキとユキのためだということも。全部わかってはいるのだ。
わかっているけれど、面白くはない。
今は、もっと。
こっち。見て。
二人だけのときには自分を見てほしい。
ただでさえ、独り占めできないスイをこれ以上他人に奪われたくない。
「ご飯食べに行こうか」
ユキの視線に気付いたのか、そうでないのかは分からないけれど、スイはユキを振り返った。表情に出したつもりはないけれど、ユキの顔を見て、スイが笑う。ものすごく、かわいい。
「時間。大事にしなきゃ」
きっと、ユキの視線にも、ちょっとだけはみ出してしまったヤキモチにも、スイは気付いていたのだと、ユキは思う。そうでないとしたら、他の人の百手先まで見通せるその高性能な頭の中で、ユキと同じことを考えていたのだろうか。
二人きりでいる時間が愛おしいのだ。と。
答えがどちらでもいい。どちらだと想像するのも、ユキにとっては幸せだった。
「何食べようか?」
スイが顔を見上げている。名前と同じ色の宝石のような瞳が、夜の街明かりを映して、きらきら。と、瞬いていた。
「あ……」
やっぱり、優しいんだよな。
ユキは口に出さずに呟く。
元々警戒心が強いスイの友人をユキはタバコ屋のシゲさんと、シロくらいしか知らない。紹介してくれないという意味ではない。仕事の知り合いならともかく、引きこもりのスイには名前を教え合う程度の知り合いすらほとんどいなかったからだ。もちろん、彼が友人を作らなかったのは孤独を愛しているわけでも、人間が嫌いだからでもない。ただ、彼は裏切られた傷が痛んで、人を信じることに臆病になっていた。
だから、アキとユキと出会って、世界とのつながりを取り戻してからのスイは止まっていた時間を取り戻そうとしているように、二人の周りにいる人とのつながりも大切にしてくれていた。
でも。
セイジの後姿を見送る横顔を見つめる。
セイジ自身のどこか憎めない人柄のせいもあるけれど、スイがセイジを無条件に信じてくれているのは、彼がアキやユキの友人だからだと、ユキにだってわかっていた。それが、二人に対する信頼の表れだということも理解している。
それでも、思ってしまう。
心配しすぎ。
じゃない?
色白の頬。項にかかる後れ毛。長いまつ毛。綺麗な翡翠色の瞳。
アキとユキだけがスイの特別で、セイジはスイにとってただの友人だということも。優しい彼が世話を焼いてくれる彼女もいないセイジを心配しているだけだということも。セイジを心配するのが半分くらいはアキとユキのためだということも。全部わかってはいるのだ。
わかっているけれど、面白くはない。
今は、もっと。
こっち。見て。
二人だけのときには自分を見てほしい。
ただでさえ、独り占めできないスイをこれ以上他人に奪われたくない。
「ご飯食べに行こうか」
ユキの視線に気付いたのか、そうでないのかは分からないけれど、スイはユキを振り返った。表情に出したつもりはないけれど、ユキの顔を見て、スイが笑う。ものすごく、かわいい。
「時間。大事にしなきゃ」
きっと、ユキの視線にも、ちょっとだけはみ出してしまったヤキモチにも、スイは気付いていたのだと、ユキは思う。そうでないとしたら、他の人の百手先まで見通せるその高性能な頭の中で、ユキと同じことを考えていたのだろうか。
二人きりでいる時間が愛おしいのだ。と。
答えがどちらでもいい。どちらだと想像するのも、ユキにとっては幸せだった。
「何食べようか?」
スイが顔を見上げている。名前と同じ色の宝石のような瞳が、夜の街明かりを映して、きらきら。と、瞬いていた。
「あ……」
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