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Nc2t2C
4 街は火曜日 4
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「また、被害者出たの?」
少し険しい顔になってスイが続けて尋ねる。
ユキは世間のニュースや情報にはあまり興味はない。何かの事件が起こって、レンタル登録されるとしても、アキやスイのように情報収集をして、それを精査し検証し、論理を駆使して事件解決の助けになるようなハウンドは多くはない。ハウンドに望まれているのは捜査力ではなく、ほとんどの場合、戦闘能力だ。
だから、ユキは基本的に平常時の情報収集をほとんどしない。簡単に言えば新聞は読まない。国営放送のニュースなどは見ない。ネットニュースすら読まない。必要になったときだけ、必要になった分の情報をスイが教えてくれる。『スイさんに甘えんな』と、アキは言う。けれど、そんなアキも口先だけで、それをユキに強要はしなかった。ユキと同世代の若者で社会情勢に関心を持って情報収集をしているものなど多くはないからだ。
「うん。まあ、あんま、話せないけど。そんなかんじ」
そんなユキでもそのニュースのことは知っている。
キングスクラウンの事件が大騒ぎされていたころ、初めての被害者が見つかった。それは、殺人事件だった。先述した通り、2日に一度は殺人事件が起こるような街だから、キングスクラウンの事件の陰に隠れて、その事件はそれほど大きくは報道されなかった。
ただ、スイはその時から少し気になっていたようだ。喧嘩の末に殺してしまった。とか、やくざ同士の抗争で。とか、痴情のもつれで。とかであれば、スイでもよくある話だと、聞き流すところだったと思う。
「また……なかったの?」
スイは一段声のトーンを下げる。そうすると、その声は街の雑踏に同化するように聞き取りづらくなった。けれど、セイジには聞こえていたようで、否定とも肯定ともつかない苦笑いを浮かべた。
警察の発表では、最初の被害者は暴力の世界からは遠い場所で暮らす一般的な男子大学生で、19歳と若かった。ただ、独自ルートからの情報に基づいて、過激な記事を書く一部のネットニュースでは被害者の死体の一部が『著しく損壊していた』と報道されていた。
それが、スイがこのニュースに興味を持った理由だ。
スイはもちろん、ネットのニュースを鵜呑みにしたりはしない。けれど、彼はフェイクニュースや過度な誇張の中に紛れる真実を、ほかの人が分からない方法で見つけ出す。それが彼の最強の武器だった。
「……嫌な感じのする。事件だね」
ため息のような吐息交じりでスイが呟く。
すでに被害者は4人。被害者は全て半径5km圏内で見つかっている。警察の警戒が厳しくなっているというのにも関わらず。である。
スイは2人目の被害者が出た時点で、独自の調査を始めたようだった。そうやって彼は依頼がなくても独自に様々な事件について調べたりしている。あくまで個人的に。であって、深入りはしていなかったようだったのだが。
「……うん。もしかしたら、協力依頼するかもしれない」
ぽりぽり。と、頭を掻きながらセイジが言う。単に頭が痒いからなのか、気まずいのを誤魔化すためなのかはわからない。
セイジはスイの情報収集能力の高さを心得ている。縄張り意識とか、プライドとか、そんなものよりも事件解決を優先するタイプでもある。ただ、彼の上司がどう考えるかは別の話だ。本格的な『捜査』にハウンドを使うかは意見の分かれるところだろう。それがわかっているから、簡単にスイにお願いします。とは言えないのだ。
「うん。協力できることがあったら、言って」
少し険しい顔になってスイが続けて尋ねる。
ユキは世間のニュースや情報にはあまり興味はない。何かの事件が起こって、レンタル登録されるとしても、アキやスイのように情報収集をして、それを精査し検証し、論理を駆使して事件解決の助けになるようなハウンドは多くはない。ハウンドに望まれているのは捜査力ではなく、ほとんどの場合、戦闘能力だ。
だから、ユキは基本的に平常時の情報収集をほとんどしない。簡単に言えば新聞は読まない。国営放送のニュースなどは見ない。ネットニュースすら読まない。必要になったときだけ、必要になった分の情報をスイが教えてくれる。『スイさんに甘えんな』と、アキは言う。けれど、そんなアキも口先だけで、それをユキに強要はしなかった。ユキと同世代の若者で社会情勢に関心を持って情報収集をしているものなど多くはないからだ。
「うん。まあ、あんま、話せないけど。そんなかんじ」
そんなユキでもそのニュースのことは知っている。
キングスクラウンの事件が大騒ぎされていたころ、初めての被害者が見つかった。それは、殺人事件だった。先述した通り、2日に一度は殺人事件が起こるような街だから、キングスクラウンの事件の陰に隠れて、その事件はそれほど大きくは報道されなかった。
ただ、スイはその時から少し気になっていたようだ。喧嘩の末に殺してしまった。とか、やくざ同士の抗争で。とか、痴情のもつれで。とかであれば、スイでもよくある話だと、聞き流すところだったと思う。
「また……なかったの?」
スイは一段声のトーンを下げる。そうすると、その声は街の雑踏に同化するように聞き取りづらくなった。けれど、セイジには聞こえていたようで、否定とも肯定ともつかない苦笑いを浮かべた。
警察の発表では、最初の被害者は暴力の世界からは遠い場所で暮らす一般的な男子大学生で、19歳と若かった。ただ、独自ルートからの情報に基づいて、過激な記事を書く一部のネットニュースでは被害者の死体の一部が『著しく損壊していた』と報道されていた。
それが、スイがこのニュースに興味を持った理由だ。
スイはもちろん、ネットのニュースを鵜呑みにしたりはしない。けれど、彼はフェイクニュースや過度な誇張の中に紛れる真実を、ほかの人が分からない方法で見つけ出す。それが彼の最強の武器だった。
「……嫌な感じのする。事件だね」
ため息のような吐息交じりでスイが呟く。
すでに被害者は4人。被害者は全て半径5km圏内で見つかっている。警察の警戒が厳しくなっているというのにも関わらず。である。
スイは2人目の被害者が出た時点で、独自の調査を始めたようだった。そうやって彼は依頼がなくても独自に様々な事件について調べたりしている。あくまで個人的に。であって、深入りはしていなかったようだったのだが。
「……うん。もしかしたら、協力依頼するかもしれない」
ぽりぽり。と、頭を掻きながらセイジが言う。単に頭が痒いからなのか、気まずいのを誤魔化すためなのかはわからない。
セイジはスイの情報収集能力の高さを心得ている。縄張り意識とか、プライドとか、そんなものよりも事件解決を優先するタイプでもある。ただ、彼の上司がどう考えるかは別の話だ。本格的な『捜査』にハウンドを使うかは意見の分かれるところだろう。それがわかっているから、簡単にスイにお願いします。とは言えないのだ。
「うん。協力できることがあったら、言って」
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