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Nc2t2C
3 勝者は嗤う 2
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「ちーちゃんおまたせ♡」
そんな緊張感を打ち消すように、甘ったるい声が響く。その場にいた全員がその声に反応して、そちらに注目した。
「……え?」
不意に注目を浴びて、派手なキャバ嬢は驚きを隠せないでいる。
「何? どうしたの?」
しばらく、そうしてきょろきょろ。と、周りの様子をうかがっていたキャバ嬢は代議士がスイの手を握っているのに気づくと、表情を変えて、二人の方へ歩み寄ってきた。
「ちーちゃん。こいつなに?」
スイの目の前に指を突きつけて、彼女は言う。嫉妬なのか、それとも同じ現金引き出し機を共有しなければならなくなるかもしれない相手への牽制なのかはわからないけれど、敵意をむき出しにしている。
その言葉にようやく我に返ったように代議士はスイの腕を離した。
「なんでもないんだよ。姫ちゃん。警備のことでちょっとだけお話してただけだよ」
取り繕うように代議士が答える。しかし、キャバ嬢はそんな言葉など耳に入っていないようだった。スイがユキの手を握ったままでいることに気付くと、彼女はあからさまに顔を顰めてから、スイの顔をじっと見つめた。
「ふうん」
代議士がしたのと同じようにスイの頭の先からつま先までをじっくり眺めてから、彼女はバカにしたような鼻息を吐いた。
「ちーちゃんは、こういう鳥ガラみたいな人が好きなの?」
テーブル席の椅子に座ったままの代議士の膝の上に座って、その顎をするり。と撫でる。それから、その顔を両手で包んで、自分の胸の方へと向けさせた。
「ちーちゃんは、ママのミルクが一番好きじゃないのかな?」
なんだよ。この茶番は?
と、ユキは心の中で毒づいた。
キャバ嬢のいない間にスイにちょっかいを出してくるジジイも、そのジジイを責めながらユキに色目を使ってくる女も気持ちが悪い。これが仕事だというなら、対価が安すぎる。たとえ幾ら積まれたとしても、二度とこいつらの仕事を請けることはないだろう。
「姫ちゃん。この人とちょっとお話があるから、まっててくれるかな?」
代議士の声が一段低くなる。
ちら。と、その顔を覗き見ると、まだ、顔は笑っているけれど、眼光はさっきまでとは違って鋭い。その男が政界の重鎮まで上り詰めた男だと、その顔を見れば納得できる。
「えー?」
しかし、そんな代議士の表情の変化にキャバ嬢は気付いていないようだった。
「ママの言うこと聞けない子に育てた覚えはないよ?」
頬を膨らませて、キャバ嬢が言う。こうやって大抵の我儘は聞かせてきたのだろう。
「所詮は若いだけで三流か」
吐き捨てるように言って、代議士はキャバ嬢を押しのけて立ち上がった。
「なに? ちーちゃん?」
そのまま彼女の腕を掴んで、警備のリーダーに引き渡す。
「これはもういらん。後始末は秘書にさせるから、放り出しておけ」
その命令には一言『承知しました』と、応えて、リーダーは従う。彼は、目線でさっきキャバ嬢の化粧室に付き添った女性ハウンドに合図して、彼女を引き渡した。
「え? 何? なんで? ちーちゃん?」
腕を掴まれ、引きずられながら、彼女はまだ、状況が理解できていないようだった。そこそこ美人だと思っていた顔が、歪む。
「早く連れていけ。喧しい」
代議士は、まるで、汚物でも見るかのような顔で彼女を見るてから、ひらり。と、手を振って背を向けた。その言葉にも、仕草にも、背中にも、表情にも、一片の慈悲もない。
キャバ嬢の方は『今なら許してあげる』とか。『本性をバラされてもいいの』とか。喚いているが、代議士は意に介さなかった。彼女程度が流すことができる風聞などいくらでももみ消せると思っているのだろう。
そんな緊張感を打ち消すように、甘ったるい声が響く。その場にいた全員がその声に反応して、そちらに注目した。
「……え?」
不意に注目を浴びて、派手なキャバ嬢は驚きを隠せないでいる。
「何? どうしたの?」
しばらく、そうしてきょろきょろ。と、周りの様子をうかがっていたキャバ嬢は代議士がスイの手を握っているのに気づくと、表情を変えて、二人の方へ歩み寄ってきた。
「ちーちゃん。こいつなに?」
スイの目の前に指を突きつけて、彼女は言う。嫉妬なのか、それとも同じ現金引き出し機を共有しなければならなくなるかもしれない相手への牽制なのかはわからないけれど、敵意をむき出しにしている。
その言葉にようやく我に返ったように代議士はスイの腕を離した。
「なんでもないんだよ。姫ちゃん。警備のことでちょっとだけお話してただけだよ」
取り繕うように代議士が答える。しかし、キャバ嬢はそんな言葉など耳に入っていないようだった。スイがユキの手を握ったままでいることに気付くと、彼女はあからさまに顔を顰めてから、スイの顔をじっと見つめた。
「ふうん」
代議士がしたのと同じようにスイの頭の先からつま先までをじっくり眺めてから、彼女はバカにしたような鼻息を吐いた。
「ちーちゃんは、こういう鳥ガラみたいな人が好きなの?」
テーブル席の椅子に座ったままの代議士の膝の上に座って、その顎をするり。と撫でる。それから、その顔を両手で包んで、自分の胸の方へと向けさせた。
「ちーちゃんは、ママのミルクが一番好きじゃないのかな?」
なんだよ。この茶番は?
と、ユキは心の中で毒づいた。
キャバ嬢のいない間にスイにちょっかいを出してくるジジイも、そのジジイを責めながらユキに色目を使ってくる女も気持ちが悪い。これが仕事だというなら、対価が安すぎる。たとえ幾ら積まれたとしても、二度とこいつらの仕事を請けることはないだろう。
「姫ちゃん。この人とちょっとお話があるから、まっててくれるかな?」
代議士の声が一段低くなる。
ちら。と、その顔を覗き見ると、まだ、顔は笑っているけれど、眼光はさっきまでとは違って鋭い。その男が政界の重鎮まで上り詰めた男だと、その顔を見れば納得できる。
「えー?」
しかし、そんな代議士の表情の変化にキャバ嬢は気付いていないようだった。
「ママの言うこと聞けない子に育てた覚えはないよ?」
頬を膨らませて、キャバ嬢が言う。こうやって大抵の我儘は聞かせてきたのだろう。
「所詮は若いだけで三流か」
吐き捨てるように言って、代議士はキャバ嬢を押しのけて立ち上がった。
「なに? ちーちゃん?」
そのまま彼女の腕を掴んで、警備のリーダーに引き渡す。
「これはもういらん。後始末は秘書にさせるから、放り出しておけ」
その命令には一言『承知しました』と、応えて、リーダーは従う。彼は、目線でさっきキャバ嬢の化粧室に付き添った女性ハウンドに合図して、彼女を引き渡した。
「え? 何? なんで? ちーちゃん?」
腕を掴まれ、引きずられながら、彼女はまだ、状況が理解できていないようだった。そこそこ美人だと思っていた顔が、歪む。
「早く連れていけ。喧しい」
代議士は、まるで、汚物でも見るかのような顔で彼女を見るてから、ひらり。と、手を振って背を向けた。その言葉にも、仕草にも、背中にも、表情にも、一片の慈悲もない。
キャバ嬢の方は『今なら許してあげる』とか。『本性をバラされてもいいの』とか。喚いているが、代議士は意に介さなかった。彼女程度が流すことができる風聞などいくらでももみ消せると思っているのだろう。
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