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Nc2t2C
2 見せつけられるだけの簡単なお仕事 3
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そこは、大型ショッピングモール近くの某有名パティシエが手掛けた某有名カフェの窓際の席だった。目の前は海。風もなく波も穏やかで快晴。絶好のロケーションだ。
4人掛けのテーブルの窓側の席に妙に若作りのおっさんが座っている。その向かいには肌の露出面積が広い女性が座って、店の名前にもなっているオーナーパティシエのケーキをフォークで切り分けて、おっさんに差し出していた。所謂『あーん』と、言うやつだ。見た目的にも実年齢も『介護?』という年の差だけれど、彼らは要介護者と介護士ではない。
平日とはいえ、人気のカフェだ。スイーツのことに詳しいアキの話によると、普通なら行列ができるらしい。しかし、カフェの中にはそのおっさんとまあまあ美人(化粧の下がどんな惨状なのかはわからない)と、オーナーの某有名パティシエ本人。それから、数人の黒服しかいない。
カフェの入口には『店内の改装工事のため本日臨時休業』。と張り紙がされている。おっさんと派手なおねーちゃんがいる席の窓以外はロールカーテンが閉まっていて、外からは中が見えない。そうでなくても、駐車場の入口にはロープが張られて立ち入り禁止だ。『それなら、張り紙なんてしなくていいんじゃね?』と、少しばかり不貞腐れてユキは思っていた。
かなり回りくどくなってしまったが、オーナーパティシエと、アキ、ユキ、スイとほか数名の黒スーツの見守る中、政権交代リーチ状態の政治家(72)と、実年齢より随分と若作りではあるけれど政治家の孫と言っていいくらいの歳の飲食店店員(28)は味には定評のあるスイーツを堪能していた。
もちろん、二人に血縁関係はない。
ないからこその『貸し切り』なのだ。
店の閉店後、下のお世話(介護ではない)までしてくれる(もちろん金次第で)タイプの飲食店の店員と老いてなおお盛んなジジイのデートなんて、大して珍しいネタではない。けれど、現在進行形でゴリゴリと社会的地位の足元を削られ続けている代議士にはそんなありふれたゴシップでも命取りになりかねない。当たり前の話だが、デート自体を控えればいい。なんなら、おうちデートなら勝手にすればいい。しかし、どちらが言い出したのかはわからないし、興味もないのだが、半年前に予約したスイーツ店の貸し切り権をどうしても逃したくなかったらしい。
もちろん、普段、彼には公費で警護がつく。現在のこの国では政治家や企業役員の暗殺は珍しくないからだ。色にボケたとはいえ、権力は健在。彼がいなくなれば政治の権力図は大きく塗り替えられる。
しかし、目の前で繰り広げられる状況を警察組織の人間に見られるのにはさすがに抵抗があったのだろう。
4人掛けのテーブルの窓側の席に妙に若作りのおっさんが座っている。その向かいには肌の露出面積が広い女性が座って、店の名前にもなっているオーナーパティシエのケーキをフォークで切り分けて、おっさんに差し出していた。所謂『あーん』と、言うやつだ。見た目的にも実年齢も『介護?』という年の差だけれど、彼らは要介護者と介護士ではない。
平日とはいえ、人気のカフェだ。スイーツのことに詳しいアキの話によると、普通なら行列ができるらしい。しかし、カフェの中にはそのおっさんとまあまあ美人(化粧の下がどんな惨状なのかはわからない)と、オーナーの某有名パティシエ本人。それから、数人の黒服しかいない。
カフェの入口には『店内の改装工事のため本日臨時休業』。と張り紙がされている。おっさんと派手なおねーちゃんがいる席の窓以外はロールカーテンが閉まっていて、外からは中が見えない。そうでなくても、駐車場の入口にはロープが張られて立ち入り禁止だ。『それなら、張り紙なんてしなくていいんじゃね?』と、少しばかり不貞腐れてユキは思っていた。
かなり回りくどくなってしまったが、オーナーパティシエと、アキ、ユキ、スイとほか数名の黒スーツの見守る中、政権交代リーチ状態の政治家(72)と、実年齢より随分と若作りではあるけれど政治家の孫と言っていいくらいの歳の飲食店店員(28)は味には定評のあるスイーツを堪能していた。
もちろん、二人に血縁関係はない。
ないからこその『貸し切り』なのだ。
店の閉店後、下のお世話(介護ではない)までしてくれる(もちろん金次第で)タイプの飲食店の店員と老いてなおお盛んなジジイのデートなんて、大して珍しいネタではない。けれど、現在進行形でゴリゴリと社会的地位の足元を削られ続けている代議士にはそんなありふれたゴシップでも命取りになりかねない。当たり前の話だが、デート自体を控えればいい。なんなら、おうちデートなら勝手にすればいい。しかし、どちらが言い出したのかはわからないし、興味もないのだが、半年前に予約したスイーツ店の貸し切り権をどうしても逃したくなかったらしい。
もちろん、普段、彼には公費で警護がつく。現在のこの国では政治家や企業役員の暗殺は珍しくないからだ。色にボケたとはいえ、権力は健在。彼がいなくなれば政治の権力図は大きく塗り替えられる。
しかし、目の前で繰り広げられる状況を警察組織の人間に見られるのにはさすがに抵抗があったのだろう。
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