遠くて近い世界で

司書Y

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1 サミシイ 2

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 第三次世界大戦。
 技術革新によって核兵器は無力化され、国際同盟の強制力の強化によって大量虐殺兵器は事実上使用が不可能になり、戦局は次第により前時代的且つ、非合理的な人間力とも呼べるような能力に頼る部分が多くなっていった。その方が、より精神的肉体的苦痛を感じる人間が増えるのにも関わらず。である。
 兎も角も、戦局を優位に進めるには、戦闘に参加するものの個人的であり、身体的な能力が少しでも高いこと。そして、そのクオリティが部隊全体で、ある程度一定水準以上であることが求められるようになる。
 つまりは、だ。
 ボタンを押すという簡単なお仕事では済まない戦闘を行うために、優秀な戦闘能力を有する部隊を作り上げる必要がある。ということである。しかも、部隊を構成するメンバー全員をある一定水準に揃えた方が、能力を発揮しやすく、そのためには一定の戦闘能力の水準の人材自体を育成する必要があるということになる。
 回りくどい言い方になったのだが、ユキを接収した輩が考えていたのはおそらくそんな理屈だ。

 戦略技術研究所。
 通称・戦技研。
 勝者がなかった第三次世界大戦後の世界を三分した冷戦状態の中、隠されたわけでもなく、かといって誰かにアピールすることもなく、ひっそりと発足した機関だ。彼らの表向きの目的は、人の持つ可能性を自国の防衛のために使う。というものだが、真の目的は、人という種が持つ潜在的な能力を生存本能によるリミッターをかけることなく使える人材を育てることだった。
 簡単に言うなら、戦技研は精神的にも肉体的にも壊れるまで国家のために戦い続ける兵士を作り出すことを目的とした機関だ。

 ユキはその実験の『被害者』だ。
 親元から逃げ出して、アキと二人で街の片隅で小さくなって必死に毎日を生きていたころ、戦技研の『人材集め』の一環である、『浮浪者狩り』に引っかかってしまったのだ。
 街に吐いて捨てるほどいた浮浪者同然のストリートチルドレンを保護という名目で連れ去って兵士に変える実験に使う。たとえ失敗して死んだとしても誰も文句を言うような親はいない。

 集められた子供たちには過酷な訓練が待っていた。
 もちろん、ユキにも。だ。
 生き残ることができたのは、運が良かっただけだ。才能があったことも確かだが、おそらく、それだけでは生き残れなかっただろうと、ユキは思う。
 それでも。だ。
 ユキは生き残って、アキと再会できた。
 再会できたことは、幸運ではない。
 アキが、命を。平穏を。青春と呼ばれる時間のすべてを。ユキを取り戻すために捧げてくれたからだ。

 アキから引き離されて10年。すべてを諦めて、全部の扉を閉めて、自分は何も感じない人形なのだと自分自身を騙して、仲間から居場所を奪って、教官を欺いて、よく知りもしない相手を殺して、殺して、殺して。すり減って小さくなって消えかけていたユキを、アキは見つけてくれた。アキのことすら忘れていたユキの中に残っていた欠片を救い上げて大切に元の形に戻してくれた。
 だから、ユキはアキが大好きで、大切だ。

 そして、アキがユキをもとの形に戻してくれたから、ユキはスイと出会うことができた。
 アキよりも大切にしたいと願う人に出会ったのは生まれて初めてで、多分もうほかの人は現れない。と、言い切ることができた。
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