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DoRow
後編 5
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「あ! そだ」
声と同時にユキは立ち上がった。不意に頭に『いいこと』がひらめいたからだ。そして、スイの手を引いて、鼻歌交じりにベランダのほうに歩き出す。
「……ユキ君? なに?」
ユキに手を引かれるまま、ベランダに出て、スイが不思議そうに見上げてくる。綺麗な翡翠色の瞳。誰にも渡したくないと思う。
「あー。そこの七三!!」
ベランダに出て、少し離れた電柱の影にいる男に、ユキは大声で呼びかけた。
「……あ……ユキ君?」
いきなりの行動に、スイが困惑している。
「地味スーツの七三のおっさん! はい。きょろきょろしない。あんただよ!」
自分に言われていることに気付いてから、周りを見回して、ほかに誰の姿もないことに気付いて、あからさまに挙動不審になった七三男をユキは指さした。
「この人に付きまとっても、無駄だから! この人は全部!! 俺たちがいただきます!」
そう言ってから、ユキはスイを引き寄せて、その唇にキスをした。ちゅ。と、可愛い音がするバードキス。
何事かと後ろから覗いていたアキが、また、頭を抱える。でも、それは一瞬で、諦めたように。いや、何かを決意したように、二人に歩み寄った。
「……は……アキ君?」
それから、ユキのキスから唇を解放されたスイをユキから奪い取って、その唇にユキより深いキスをする。多分、舌まで入れていたと思う。ちょっと、嫉妬した。
「大丈夫。スイさんのこと、絶対に渡したりしないよ?」
ほかの誰も目に入ってないみたいに、スイを見つめて、アキが言う。その言葉に、ぼ。とスイの顔が赤く上気する。
「奪えるもんなら奪ってみな?」
スイをぎゅっ。と、抱きしめたまま、にやりと、アキは笑った。なんか、少し、カッコよくてモヤる。
俺が思いついたのに真似してる。
と、思ってから。やっぱり。
俺を守ってくれたヒーローだから、カッコいいのは当たり前か。
と、一番古い記憶の中の、父親から守ってくれたヒーローの背中を思い出した。
「この人が欲しいなら、俺たちが相手だ」
いつものワンコの顔から、戦闘用の狼の顔になって、ユキはアキからスイを奪い返した。一瞬アキがむっとするけれど、気にしない。スイはアキのものではない。二人のものだ。
「いつでも、おいでよ。ただし……命の保証はしないけど」
そこまで言って、今度は余裕の微笑みを残して、ユキはスイを子供抱きで抱え上げて、ベランダを後にした。宣言された男は固まったまま動けずにいる。
「これで、よし」
部屋に入って、スイを下ろすと、その顔は真っ赤になっていた。
「……二人とも……。隣の奥さん……ベランダで洗濯物干してた……んだけど」
お隣の小さなお子さんのいるご夫婦の奥さんが洗濯物を干すためにベランダにいたことにはユキだって気づいてはいた。それでも、引き下がれなかったのだから仕方ない。けれど、それが、スイには相当に恥ずかしかったらしい。顔が真っ赤だ。
「も。ちょっと、その。穏便に……できなかった?」
でも、その顔が恥ずかしいだけではなくて、少し嬉しそうなのが堪らなく可愛い。
「無理! だって、スイさん俺と兄貴のだもん。ちゃんと、宣言しとかないと!」
そのスイがあまりに可愛いから、ユキはその頬にちゅ。と、キスを送った。
「あいつ、また来たら、言ってよね? 俺が追っ払うし。彼氏の役目です!」
ユキの言葉に、少しだけ恥ずかしそうに、すごく嬉しそうに笑うスイ。
「ありがと。じゃ、お願いしようかな」
ユキと、アキの袖をぎゅっと握って、幸せそうなスイが頷く。そんな可愛い恋人の顔に、にへら。と、朝から笑いが止まらない兄弟であった。
声と同時にユキは立ち上がった。不意に頭に『いいこと』がひらめいたからだ。そして、スイの手を引いて、鼻歌交じりにベランダのほうに歩き出す。
「……ユキ君? なに?」
ユキに手を引かれるまま、ベランダに出て、スイが不思議そうに見上げてくる。綺麗な翡翠色の瞳。誰にも渡したくないと思う。
「あー。そこの七三!!」
ベランダに出て、少し離れた電柱の影にいる男に、ユキは大声で呼びかけた。
「……あ……ユキ君?」
いきなりの行動に、スイが困惑している。
「地味スーツの七三のおっさん! はい。きょろきょろしない。あんただよ!」
自分に言われていることに気付いてから、周りを見回して、ほかに誰の姿もないことに気付いて、あからさまに挙動不審になった七三男をユキは指さした。
「この人に付きまとっても、無駄だから! この人は全部!! 俺たちがいただきます!」
そう言ってから、ユキはスイを引き寄せて、その唇にキスをした。ちゅ。と、可愛い音がするバードキス。
何事かと後ろから覗いていたアキが、また、頭を抱える。でも、それは一瞬で、諦めたように。いや、何かを決意したように、二人に歩み寄った。
「……は……アキ君?」
それから、ユキのキスから唇を解放されたスイをユキから奪い取って、その唇にユキより深いキスをする。多分、舌まで入れていたと思う。ちょっと、嫉妬した。
「大丈夫。スイさんのこと、絶対に渡したりしないよ?」
ほかの誰も目に入ってないみたいに、スイを見つめて、アキが言う。その言葉に、ぼ。とスイの顔が赤く上気する。
「奪えるもんなら奪ってみな?」
スイをぎゅっ。と、抱きしめたまま、にやりと、アキは笑った。なんか、少し、カッコよくてモヤる。
俺が思いついたのに真似してる。
と、思ってから。やっぱり。
俺を守ってくれたヒーローだから、カッコいいのは当たり前か。
と、一番古い記憶の中の、父親から守ってくれたヒーローの背中を思い出した。
「この人が欲しいなら、俺たちが相手だ」
いつものワンコの顔から、戦闘用の狼の顔になって、ユキはアキからスイを奪い返した。一瞬アキがむっとするけれど、気にしない。スイはアキのものではない。二人のものだ。
「いつでも、おいでよ。ただし……命の保証はしないけど」
そこまで言って、今度は余裕の微笑みを残して、ユキはスイを子供抱きで抱え上げて、ベランダを後にした。宣言された男は固まったまま動けずにいる。
「これで、よし」
部屋に入って、スイを下ろすと、その顔は真っ赤になっていた。
「……二人とも……。隣の奥さん……ベランダで洗濯物干してた……んだけど」
お隣の小さなお子さんのいるご夫婦の奥さんが洗濯物を干すためにベランダにいたことにはユキだって気づいてはいた。それでも、引き下がれなかったのだから仕方ない。けれど、それが、スイには相当に恥ずかしかったらしい。顔が真っ赤だ。
「も。ちょっと、その。穏便に……できなかった?」
でも、その顔が恥ずかしいだけではなくて、少し嬉しそうなのが堪らなく可愛い。
「無理! だって、スイさん俺と兄貴のだもん。ちゃんと、宣言しとかないと!」
そのスイがあまりに可愛いから、ユキはその頬にちゅ。と、キスを送った。
「あいつ、また来たら、言ってよね? 俺が追っ払うし。彼氏の役目です!」
ユキの言葉に、少しだけ恥ずかしそうに、すごく嬉しそうに笑うスイ。
「ありがと。じゃ、お願いしようかな」
ユキと、アキの袖をぎゅっと握って、幸せそうなスイが頷く。そんな可愛い恋人の顔に、にへら。と、朝から笑いが止まらない兄弟であった。
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