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DoRow
前編 3
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幼いころの自分は、この世界に必要のない人間だった。ユキは思う。一番初めの記憶は、父親に殴られた時のことだ。多分、3歳くらいだと思う。
いつも庇ってくれる兄は父のいいつけで酒を買いに行かされていた。『泣いちゃだめだよ? ちゃんと、静かにしているんだぞ?』と、弟を怯えさせないよう優しく言い残して兄はいなくなってしまった。言いつけは守ったけれど、ギャンブルに負けてイライラしていた父親に部屋の片隅で怯えて小さくなっていただけで殴られた。痛くて、悲しくて、泣き出した自分をさらに殴ろうとした父を見ても、母は厭らしい笑いを浮かべるだけで助けてはくれなかった。けれど、酒を買って帰ってきた兄はそれを放り出して自分を庇ってくれた。何度『どけ』と、殴られても、彼が自分を放すことはなかった。
兄はいつでも自分を守ってくれた。自分を庇って動けなくなるまで殴られても、『ユキは何も悪くない。心配すんな』と、笑ってくれた。
だから、ユキはアキが大好きだった。ユキの世界はアキがいるから成り立っていた。ユキに大切なものを与えてくれたのはいつだってアキだった。
家を出ようと言われた時も、兄についていく以外の選択肢なんてユキにはなかった。泊るところがなくて寒くても、食べるものがなくて腹が減っても、臭い汚いと罵られても、親元に帰りたいと思ったことは一度もなかった。ただ、アキが笑って『ただいま』と言ってくれるのを、ずっと待っている日々だった。
それでも、両親のそばにいるときより、ユキは幸せだった。
それだけは、鮮明に覚えていた。
浮浪児狩り。
そう揶揄される政府の政策が、その頃盛んに行われていたのを知ったのは、ずっと後になってのことだ。親のないストリートチルドレンを“保護”して、政府管轄の施設に収容する。いわゆる、ごみ掃除。
いつも庇ってくれる兄は父のいいつけで酒を買いに行かされていた。『泣いちゃだめだよ? ちゃんと、静かにしているんだぞ?』と、弟を怯えさせないよう優しく言い残して兄はいなくなってしまった。言いつけは守ったけれど、ギャンブルに負けてイライラしていた父親に部屋の片隅で怯えて小さくなっていただけで殴られた。痛くて、悲しくて、泣き出した自分をさらに殴ろうとした父を見ても、母は厭らしい笑いを浮かべるだけで助けてはくれなかった。けれど、酒を買って帰ってきた兄はそれを放り出して自分を庇ってくれた。何度『どけ』と、殴られても、彼が自分を放すことはなかった。
兄はいつでも自分を守ってくれた。自分を庇って動けなくなるまで殴られても、『ユキは何も悪くない。心配すんな』と、笑ってくれた。
だから、ユキはアキが大好きだった。ユキの世界はアキがいるから成り立っていた。ユキに大切なものを与えてくれたのはいつだってアキだった。
家を出ようと言われた時も、兄についていく以外の選択肢なんてユキにはなかった。泊るところがなくて寒くても、食べるものがなくて腹が減っても、臭い汚いと罵られても、親元に帰りたいと思ったことは一度もなかった。ただ、アキが笑って『ただいま』と言ってくれるのを、ずっと待っている日々だった。
それでも、両親のそばにいるときより、ユキは幸せだった。
それだけは、鮮明に覚えていた。
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