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Internally Flawless
幕間 夜想曲 『夜伽話』
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◆翡翠◆
目を閉じて、翡翠は微睡んでいた。いや、殆ど気を失っていたのだと思う。苦痛ばかりの毎日の中で、唯一の救いは眠っている時間だった。
その時間すら悪夢に蝕まれることもある。そんな時に見る夢は大抵、3人で連の誕生日を祝うような幸せだった頃の夢だった。幸せなはずのその夢は目覚めると翡翠の心を余計に苛む。なぜ、こんなことになってしまったのだろうと、考えない日は一日もなかったし、もう戻れない過去にそれでも戻りたいと思わない日はなかった。
意識が途切れても、翡翠が行為から解放されるわけではなかった。泰斗が満足しなければ、行為が終わることはない。散々玩具で弄ばれた後の翡翠は憔悴しきっているけれど、それを見ていただけの泰斗は却って欲望をその身の内で圧縮させていたから、翡翠の意識があるうちに終わることは一度もなかったし、意識をなくした翡翠の身体をその後どれだけ貪りつくしていたのか、想像するのも恐ろしかった。
途切れた意識がふと一瞬浮上する。身体はいつも通り揺さぶられていた。もう、下半身には感覚がない。多分、意識がない間、何時間も侵され続けていたのだろう。
ああ。まだ、続いている。
と、思う。けれど、心は身体から離れてしまっていて、まるで人ごとのようだった。
だらしなく鼻にかかった子猫のような声が聞こえる。どこかの男娼が身体を思うさま犯されて、厭らしく善がっているのだ。『いやだ』とか、『やめて』とか、言っているが、声は甘く蕩けきって、とても否定しているようには聞こえない。かえって、『もっとして』と、煽っているようだった。
その声が自分の声だと気付くのに時間は要らなかった。
耳を塞ぎたくなる。
まるで、だらしなく男を誘う淫売の声だ。
そんなことを思ってから、また、意識が遠くなってきた時だ。
ずん。と、大きく突き上げられて、翡翠の口からひときわ高い悲鳴のような声が上がった。
半覚醒の視界の先に、泰斗の姿が揺れる。その顔が耳元に近付いてきた。
愛している。翡翠。
泰斗の声だ。こんなふうに意識がなくなるまで、拒絶する翡翠を押さえ付け、犯しながらいつもいつも繰り返される言葉。
でも、そこに意味なんてない。彼は壊れている。『愛している』という言葉の意味が分からなくなっているのだ。
すまない。すまない。
しかし、続いた言葉はいつもとは違っていた。
翡翠……俺は壊れてる。
愛しているんだ。
……すまない。
お前を離してやれない。
とても小さく、不明瞭な囁きは意識のはっきりしない翡翠には、うまく理解ができなかった。
何を言っているのだろう。
思うけれど、身体を支配する快楽と薬が邪魔をする。
翡翠。
すまない。
逃げてくれ。
俺を殺して。逃げてくれ。
意味は理解できていなかった。けれど、その声は、いつも翡翠を抱いている泰斗の声ではなかった。幸せだったあの頃、幼い自分の頭を撫でて、この世界に幸せというものがあると教えてくれたその人の声だった。
こんな愛し方しかできない俺を憎んでくれ。俺から逃げて……幸せになってくれ。
身体が揺さぶられている。きっと、その優しい声とは裏腹に、まだ、行為は続いているのだ。
乱暴で、一方的で、欺瞞に満ちた狂ったセックス。それなのに、聞こえる声は違っている。
酷く重く感じる瞼を翡翠は微かに開いた。
翡翠。愛しているよ。
その目には昏い穴は見えなかった。翡翠を大切にしてくれていたあの頃の泰斗の顔だった。
「泰斗……さ……ん?」
やはり、行為は続いている。自分の腹にはもう何度出したか分からない精液が溜まっていて、ぐちゃぐちゃと嫌らしい音を立てる後孔は多分、何度も射精されただろう泰斗の精液が溢れだしていた。
けれど、その顔は優しいあの頃の泰斗だったのだ。
「……お……と……さん」
だから、翡翠は微笑みかけた。
「翡翠……俺の……」
言葉の続きは翡翠の耳には届かなかった。
目を閉じて、翡翠は微睡んでいた。いや、殆ど気を失っていたのだと思う。苦痛ばかりの毎日の中で、唯一の救いは眠っている時間だった。
その時間すら悪夢に蝕まれることもある。そんな時に見る夢は大抵、3人で連の誕生日を祝うような幸せだった頃の夢だった。幸せなはずのその夢は目覚めると翡翠の心を余計に苛む。なぜ、こんなことになってしまったのだろうと、考えない日は一日もなかったし、もう戻れない過去にそれでも戻りたいと思わない日はなかった。
意識が途切れても、翡翠が行為から解放されるわけではなかった。泰斗が満足しなければ、行為が終わることはない。散々玩具で弄ばれた後の翡翠は憔悴しきっているけれど、それを見ていただけの泰斗は却って欲望をその身の内で圧縮させていたから、翡翠の意識があるうちに終わることは一度もなかったし、意識をなくした翡翠の身体をその後どれだけ貪りつくしていたのか、想像するのも恐ろしかった。
途切れた意識がふと一瞬浮上する。身体はいつも通り揺さぶられていた。もう、下半身には感覚がない。多分、意識がない間、何時間も侵され続けていたのだろう。
ああ。まだ、続いている。
と、思う。けれど、心は身体から離れてしまっていて、まるで人ごとのようだった。
だらしなく鼻にかかった子猫のような声が聞こえる。どこかの男娼が身体を思うさま犯されて、厭らしく善がっているのだ。『いやだ』とか、『やめて』とか、言っているが、声は甘く蕩けきって、とても否定しているようには聞こえない。かえって、『もっとして』と、煽っているようだった。
その声が自分の声だと気付くのに時間は要らなかった。
耳を塞ぎたくなる。
まるで、だらしなく男を誘う淫売の声だ。
そんなことを思ってから、また、意識が遠くなってきた時だ。
ずん。と、大きく突き上げられて、翡翠の口からひときわ高い悲鳴のような声が上がった。
半覚醒の視界の先に、泰斗の姿が揺れる。その顔が耳元に近付いてきた。
愛している。翡翠。
泰斗の声だ。こんなふうに意識がなくなるまで、拒絶する翡翠を押さえ付け、犯しながらいつもいつも繰り返される言葉。
でも、そこに意味なんてない。彼は壊れている。『愛している』という言葉の意味が分からなくなっているのだ。
すまない。すまない。
しかし、続いた言葉はいつもとは違っていた。
翡翠……俺は壊れてる。
愛しているんだ。
……すまない。
お前を離してやれない。
とても小さく、不明瞭な囁きは意識のはっきりしない翡翠には、うまく理解ができなかった。
何を言っているのだろう。
思うけれど、身体を支配する快楽と薬が邪魔をする。
翡翠。
すまない。
逃げてくれ。
俺を殺して。逃げてくれ。
意味は理解できていなかった。けれど、その声は、いつも翡翠を抱いている泰斗の声ではなかった。幸せだったあの頃、幼い自分の頭を撫でて、この世界に幸せというものがあると教えてくれたその人の声だった。
こんな愛し方しかできない俺を憎んでくれ。俺から逃げて……幸せになってくれ。
身体が揺さぶられている。きっと、その優しい声とは裏腹に、まだ、行為は続いているのだ。
乱暴で、一方的で、欺瞞に満ちた狂ったセックス。それなのに、聞こえる声は違っている。
酷く重く感じる瞼を翡翠は微かに開いた。
翡翠。愛しているよ。
その目には昏い穴は見えなかった。翡翠を大切にしてくれていたあの頃の泰斗の顔だった。
「泰斗……さ……ん?」
やはり、行為は続いている。自分の腹にはもう何度出したか分からない精液が溜まっていて、ぐちゃぐちゃと嫌らしい音を立てる後孔は多分、何度も射精されただろう泰斗の精液が溢れだしていた。
けれど、その顔は優しいあの頃の泰斗だったのだ。
「……お……と……さん」
だから、翡翠は微笑みかけた。
「翡翠……俺の……」
言葉の続きは翡翠の耳には届かなかった。
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