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Internally Flawless
26 安堵 4
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「スイさん?」
その手を握り返して、ユキが言う。それから、スイが震えているのに気付いたのか、肩を抱く。
「ごめん。……今頃……」
多分、ずっと、気を張っていたのだろう。三人きりになって初めて恐怖を実感しているのだと思う。
「怖かった?」
アキがミラー越しに顔を見ながらそう言うと、スイの視線がこちらに向いて小さく頷く。
「も。大丈夫だよ。俺たちがいる」
できるだけ優しい声で言うと、スイの頬をはらりと涙が零れた。
「スイさん。泣かないでよ?」
スイの細い身体を優しく抱きしめるユキ。
ユキはまだ、古家のことを知らない。だから、身を守れる強さを持っているスイがこんな風に脅える本当の意味が分からないと思う。最初に二人が喧嘩をしたときも、アキが心配し過ぎなのだと思っていたそのスタンスの違いは、古家のことを知っているか、知っていないかの違いだ。
「嫌な奴なんて。もう、スイさんに近づけたりしないよ? 安心して?」
でも、知らなくてもユキはスイを守るだろう。
「大井に、身体……触られて……股間押し付けられて、気持ち悪い。シャワー浴びたい。でも、肩……ひりひり痛いし……。なんで、コーヒーなんてなげられるんだよ……。この服も、ヤダ。靴重い。作戦あったのに、動きにくい……。
あいつに……キス……された。最悪。ごめん。ごめんね。あいつ……ケンジ……酷いこと言うんだ。アキ君のこと、冷たそうだって……zっ。ユキ君のこと、乱暴そうだって。何も知らないくせに! アキ君も、ユキ君も……誰よりも優しいのに。
キスマーク……みられて。男に脚開いてんのかって言われて……悪いことかな? 俺はアキ君が好きだから……好きな人だからセックスしたいって思うだけなのに、好きな人に抱かれちゃ駄目なの?
俺が悪いのかな? 俺は、アキ君とユキ君だけでいいんだ……それなのに……あいつら、勝手なこと言うんだよ。俺のこと、ほしいとか、飼いたいとか……綺麗とか。そんなの……っ。……いらない……」
珍しく自分の思いを饒舌に語るスイに、ユキは驚いているようだった。ちら。と、ユキが視線を寄越す。その視線に微かに頷くと、ユキはスイの唇に口づけて、言葉を止めた。
「んん……」
そのキスを従順に受け入れて、スイが鼻から吐息を漏らす。少し長めのキスの間、アキは車の進行方向だけを見ていた。
「スイさん」
唇を離すと、ユキが静かに言う。
「怖かったね? わかった。いいよ。泣いても、愚痴っても。俺、全部ちゃんと受け止めるよ?」
スイを腕の中に収めて、ぎゅっと、抱きしめて、その背中を撫でる手付きは兄の自分から見ても百点満点をつけられるくらいに優しくて、力強かった。
「でも、さ。これだけは知っといて? スイさんは何にも悪くないんだからな? スイさんが綺麗だったり、可愛かったりするのは事実だから仕方ないけど、飼いたいとか頭おかしいだろ? 綺麗な人とか、可愛い人が好きだと思ったら、優しくしたいのが普通なんだよ。俺はスイさんのこと守りたいし、べったべたに優しくして甘やかしたい。俺のこと、もっと好きになってほしい」
ユキの腕の中に収まったスイは素直に何度も頷いている。その姿がまた、堪らなく愛らしい。
自分もユキと同じだ。
アキは思う。
ずっと、好きになる前から優しくしたいと思い続けていた。その人を傷つけるのが自分でなければいいと思っていた。その人を傷つけるものから守ってあげたかった。
結局自分はすれ違ってスイを傷つけたりもしたけれど、気持ちが変わることはない。
「ユキ君……」
「ね? スイさん。もっとさ。俺に優しくさせて? べったべたに甘やかさせて? もっと、もっと、スイさんのこと幸せにさせて? 怖いことなんて全部、俺がぶっ壊してあげるし、全部忘れさせてあげるよ」
ユキの低い声はきっと、スイの心の中まで届くと思う。途中から、スイの震えは止まっていた。
それでも、ユキはずっと、その背中を優しく撫でている。きっと、スイが愛おしくて堪らないのだと、その仕草で分かる。
そうして、しばらく、二人は抱き合ったままでいた。
その手を握り返して、ユキが言う。それから、スイが震えているのに気付いたのか、肩を抱く。
「ごめん。……今頃……」
多分、ずっと、気を張っていたのだろう。三人きりになって初めて恐怖を実感しているのだと思う。
「怖かった?」
アキがミラー越しに顔を見ながらそう言うと、スイの視線がこちらに向いて小さく頷く。
「も。大丈夫だよ。俺たちがいる」
できるだけ優しい声で言うと、スイの頬をはらりと涙が零れた。
「スイさん。泣かないでよ?」
スイの細い身体を優しく抱きしめるユキ。
ユキはまだ、古家のことを知らない。だから、身を守れる強さを持っているスイがこんな風に脅える本当の意味が分からないと思う。最初に二人が喧嘩をしたときも、アキが心配し過ぎなのだと思っていたそのスタンスの違いは、古家のことを知っているか、知っていないかの違いだ。
「嫌な奴なんて。もう、スイさんに近づけたりしないよ? 安心して?」
でも、知らなくてもユキはスイを守るだろう。
「大井に、身体……触られて……股間押し付けられて、気持ち悪い。シャワー浴びたい。でも、肩……ひりひり痛いし……。なんで、コーヒーなんてなげられるんだよ……。この服も、ヤダ。靴重い。作戦あったのに、動きにくい……。
あいつに……キス……された。最悪。ごめん。ごめんね。あいつ……ケンジ……酷いこと言うんだ。アキ君のこと、冷たそうだって……zっ。ユキ君のこと、乱暴そうだって。何も知らないくせに! アキ君も、ユキ君も……誰よりも優しいのに。
キスマーク……みられて。男に脚開いてんのかって言われて……悪いことかな? 俺はアキ君が好きだから……好きな人だからセックスしたいって思うだけなのに、好きな人に抱かれちゃ駄目なの?
俺が悪いのかな? 俺は、アキ君とユキ君だけでいいんだ……それなのに……あいつら、勝手なこと言うんだよ。俺のこと、ほしいとか、飼いたいとか……綺麗とか。そんなの……っ。……いらない……」
珍しく自分の思いを饒舌に語るスイに、ユキは驚いているようだった。ちら。と、ユキが視線を寄越す。その視線に微かに頷くと、ユキはスイの唇に口づけて、言葉を止めた。
「んん……」
そのキスを従順に受け入れて、スイが鼻から吐息を漏らす。少し長めのキスの間、アキは車の進行方向だけを見ていた。
「スイさん」
唇を離すと、ユキが静かに言う。
「怖かったね? わかった。いいよ。泣いても、愚痴っても。俺、全部ちゃんと受け止めるよ?」
スイを腕の中に収めて、ぎゅっと、抱きしめて、その背中を撫でる手付きは兄の自分から見ても百点満点をつけられるくらいに優しくて、力強かった。
「でも、さ。これだけは知っといて? スイさんは何にも悪くないんだからな? スイさんが綺麗だったり、可愛かったりするのは事実だから仕方ないけど、飼いたいとか頭おかしいだろ? 綺麗な人とか、可愛い人が好きだと思ったら、優しくしたいのが普通なんだよ。俺はスイさんのこと守りたいし、べったべたに優しくして甘やかしたい。俺のこと、もっと好きになってほしい」
ユキの腕の中に収まったスイは素直に何度も頷いている。その姿がまた、堪らなく愛らしい。
自分もユキと同じだ。
アキは思う。
ずっと、好きになる前から優しくしたいと思い続けていた。その人を傷つけるのが自分でなければいいと思っていた。その人を傷つけるものから守ってあげたかった。
結局自分はすれ違ってスイを傷つけたりもしたけれど、気持ちが変わることはない。
「ユキ君……」
「ね? スイさん。もっとさ。俺に優しくさせて? べったべたに甘やかさせて? もっと、もっと、スイさんのこと幸せにさせて? 怖いことなんて全部、俺がぶっ壊してあげるし、全部忘れさせてあげるよ」
ユキの低い声はきっと、スイの心の中まで届くと思う。途中から、スイの震えは止まっていた。
それでも、ユキはずっと、その背中を優しく撫でている。きっと、スイが愛おしくて堪らないのだと、その仕草で分かる。
そうして、しばらく、二人は抱き合ったままでいた。
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