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Internally Flawless
25 苛烈 3
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「……アキ君?」
おそるおそる問いかけると、大きなため息が返ってくる。
「ちゃんと、対策した結果がこれ?」
すごく明るい声だった。それが、余計にアキが怒っているのを感じさせて怖い。
「……や。その。大井が捕まったから……えと。計画が狂ったっていうか……」
大井一久が捕まる前と後、実は殆ど計画は変わっていない。
この作戦はケンジが言っていた通り、居場所の分からなかったナオトとユカリを探すためのものだった。潜入捜査のハウンドが拉致されて、時間をかけて探すことができなくなってしまったための苦肉の策だ。
当初の予定では大井一久に監禁されていた9人も探す予定だった。
大東亜商船の掲示板を全て検証して、行方不明の人物の売却された先を特定する作業は難しくなかったが、売られた先はわかっても、その人物がいる場所を特定するのはかなり骨が折れた。
殆どの顧客は大井の所有している不動産のどこかに部屋を借りていて、大井が雇った『世話係』が彼らの面倒を見ていた。しかし、中には自宅や、マンションに連れ込んでいる者もいて、最初に逃げ出して殺された被害者は妻子に内緒で借りたマンションに世話係を付けて監禁していたらしい。
数が少ないとはいえ、個人所有の部屋のどこに被害者がいるかを特定するのは容易ではない。しかし、同時に家宅捜索を行わなければ、証拠隠滅のために被害者が殺されてしまう可能性すらあった。地道に監視カメラの映像を検証して、ようやく一久の被害者9人と、ナオトとユカリ以外の全員の所在を突き止めた。
けれど、大東亜商船の掲示板の検証を終えても、残りの11人がどこに売られたのか特定することができなかった。もちろん、ケンジのPCの中のメールにもその売却先は書かれていない。そもそも、一久の被害者9人については名前すら上がってはいなかった。
その11人を全員同じ場所に監禁するのは、リスクが高すぎる。2・3人ずつ分けたとしても、3・4か所。失踪者を出してしまっている今となっては、その場所を特定するのは最早時間が足りない。
そこへ大井一久の逮捕だ。9人の居場所は不本意な結果ではあるけれど、特定することができた。
残る2人は、2人ともケンジの話に出てきた人物だ。しかも、行方不明になってからの日が浅い。まだ、ここにいる可能性は高いと思っていた。
「分かってる? あんなに近くにいたスイさんを傷つけずに、あのチャラ男だけ確実に撃ち抜けるヤツなんて俺かユキくらいだけど?」
狙撃を提案してきたのはシキだ。もともとは公安のスナイパーが担当するはずだった。
セキュリティを外しても、ケンジの部屋には顔認証付きの鍵がついている。それを気付かれずに外すのは困難だ。もちろん、オーナーが犯行グループの一員である以上、マスターキーを借りることもできない。だからこその提案だったのだが、このビルはこのあたりで一番高く、狙撃に適した建物があまり近くにはない。一番近くても、おそらく距離は1㎞以上だ。スイにしてみれば、一瞬でもケンジの注意を逸らしてくれればいいくらいの気持ちだった。
「……や。あの。監禁されてる人の場所さえ分かれば……自分でもなんとかできるって思ったし」
これは少し言い過ぎているとは思う。監禁されている二人が一緒にいるとは限らないし、ここにケンジ以外がいないという保証もない。結果的には一人だったのだが、銃器を持っている相手から同時に二人を守るのはリスクが高い。
「や。その……えと。ごめん」
結局、嘘をつききることができなくなって、スイは小さく謝った。
「でも……これ以上。どうしても犠牲者は出したくなかった……」
正直に本音を言うと、アキがまた、大きくため息をつく。
「スイさんはずるいよ。そんな風に言われたら怒れないだろ? 俺は怒ってるんだからな。俺の大切な人を危険に晒したこと」
今度はちゃんと怒った声になって、アキが言う。でも、言っている内容はスイを案じている言葉で、それがすごく嬉しかった。
「ごめん。も。これからは約束通りアキ君の言うことはなんでもちゃんと聞くから……許して?」
困りきった声でそう言うと、しばしアキの声が途切れた。
「……アキ君?」
「あー。大丈夫! 兄貴はスイさんの可愛い声にやられてるだけだから」
聞こえてきた声はユキだった。何やらすごく楽しそうな声だ。
「ユキ君」
「大丈夫だった? 今日は大変だったよな? も。家帰ろ? すぐに迎えに行くよ」
インカム越しだったけれど、スイの大好きなユキの低い声がすごく心地よくて、思わず笑顔になってしまう。
「マンションの下で待ってて。今日は車だから。……あ。だめだ。そこ『強姦通り』だろ? 危ないから、迎えに行くまで、建物の中にいてよ? すぐに行くからな。絶対に外、出ちゃだめだよ?」
一方的に言って、通話が切れた。まだ、話したいことがあったのにと、ため息が出る。でも、そんな一生懸命なところもユキらしくて、すごく可愛いと思う。
おそるおそる問いかけると、大きなため息が返ってくる。
「ちゃんと、対策した結果がこれ?」
すごく明るい声だった。それが、余計にアキが怒っているのを感じさせて怖い。
「……や。その。大井が捕まったから……えと。計画が狂ったっていうか……」
大井一久が捕まる前と後、実は殆ど計画は変わっていない。
この作戦はケンジが言っていた通り、居場所の分からなかったナオトとユカリを探すためのものだった。潜入捜査のハウンドが拉致されて、時間をかけて探すことができなくなってしまったための苦肉の策だ。
当初の予定では大井一久に監禁されていた9人も探す予定だった。
大東亜商船の掲示板を全て検証して、行方不明の人物の売却された先を特定する作業は難しくなかったが、売られた先はわかっても、その人物がいる場所を特定するのはかなり骨が折れた。
殆どの顧客は大井の所有している不動産のどこかに部屋を借りていて、大井が雇った『世話係』が彼らの面倒を見ていた。しかし、中には自宅や、マンションに連れ込んでいる者もいて、最初に逃げ出して殺された被害者は妻子に内緒で借りたマンションに世話係を付けて監禁していたらしい。
数が少ないとはいえ、個人所有の部屋のどこに被害者がいるかを特定するのは容易ではない。しかし、同時に家宅捜索を行わなければ、証拠隠滅のために被害者が殺されてしまう可能性すらあった。地道に監視カメラの映像を検証して、ようやく一久の被害者9人と、ナオトとユカリ以外の全員の所在を突き止めた。
けれど、大東亜商船の掲示板の検証を終えても、残りの11人がどこに売られたのか特定することができなかった。もちろん、ケンジのPCの中のメールにもその売却先は書かれていない。そもそも、一久の被害者9人については名前すら上がってはいなかった。
その11人を全員同じ場所に監禁するのは、リスクが高すぎる。2・3人ずつ分けたとしても、3・4か所。失踪者を出してしまっている今となっては、その場所を特定するのは最早時間が足りない。
そこへ大井一久の逮捕だ。9人の居場所は不本意な結果ではあるけれど、特定することができた。
残る2人は、2人ともケンジの話に出てきた人物だ。しかも、行方不明になってからの日が浅い。まだ、ここにいる可能性は高いと思っていた。
「分かってる? あんなに近くにいたスイさんを傷つけずに、あのチャラ男だけ確実に撃ち抜けるヤツなんて俺かユキくらいだけど?」
狙撃を提案してきたのはシキだ。もともとは公安のスナイパーが担当するはずだった。
セキュリティを外しても、ケンジの部屋には顔認証付きの鍵がついている。それを気付かれずに外すのは困難だ。もちろん、オーナーが犯行グループの一員である以上、マスターキーを借りることもできない。だからこその提案だったのだが、このビルはこのあたりで一番高く、狙撃に適した建物があまり近くにはない。一番近くても、おそらく距離は1㎞以上だ。スイにしてみれば、一瞬でもケンジの注意を逸らしてくれればいいくらいの気持ちだった。
「……や。あの。監禁されてる人の場所さえ分かれば……自分でもなんとかできるって思ったし」
これは少し言い過ぎているとは思う。監禁されている二人が一緒にいるとは限らないし、ここにケンジ以外がいないという保証もない。結果的には一人だったのだが、銃器を持っている相手から同時に二人を守るのはリスクが高い。
「や。その……えと。ごめん」
結局、嘘をつききることができなくなって、スイは小さく謝った。
「でも……これ以上。どうしても犠牲者は出したくなかった……」
正直に本音を言うと、アキがまた、大きくため息をつく。
「スイさんはずるいよ。そんな風に言われたら怒れないだろ? 俺は怒ってるんだからな。俺の大切な人を危険に晒したこと」
今度はちゃんと怒った声になって、アキが言う。でも、言っている内容はスイを案じている言葉で、それがすごく嬉しかった。
「ごめん。も。これからは約束通りアキ君の言うことはなんでもちゃんと聞くから……許して?」
困りきった声でそう言うと、しばしアキの声が途切れた。
「……アキ君?」
「あー。大丈夫! 兄貴はスイさんの可愛い声にやられてるだけだから」
聞こえてきた声はユキだった。何やらすごく楽しそうな声だ。
「ユキ君」
「大丈夫だった? 今日は大変だったよな? も。家帰ろ? すぐに迎えに行くよ」
インカム越しだったけれど、スイの大好きなユキの低い声がすごく心地よくて、思わず笑顔になってしまう。
「マンションの下で待ってて。今日は車だから。……あ。だめだ。そこ『強姦通り』だろ? 危ないから、迎えに行くまで、建物の中にいてよ? すぐに行くからな。絶対に外、出ちゃだめだよ?」
一方的に言って、通話が切れた。まだ、話したいことがあったのにと、ため息が出る。でも、そんな一生懸命なところもユキらしくて、すごく可愛いと思う。
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