遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

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「『あの人に、愛されたいから』」

 耳を塞ぎたかった。
 彼女はきっとスイなのだ。
 あの日古家から逃げることを放棄してしまったスイだ。
 もし自分が古家の元を逃げ出すことができなかったら、それを諦めてしまっていたら、きっと、彼女のようになっていた。その人を愛していると思い込まずには自分を保つことができなかっただろうと思う。

「知ってる? あの子の父親が何者か? 知ってるよね? ここまで調べてあるんだから」

「N署の署長だ」

 その問いにもスイは即答した。

「やっぱり知ってた? 警察官が買ったのが自分の実の娘って……最高だと思わない? あのお堅い顔したおっさんが、どんな顔でリンちゃんみたいな可愛い子抱いてるのか想像するとエロ漫画のネタになりそうだね」

 揶揄するような言葉にスイはケンジの顔を睨みつけた。無表情が保てない。
 わかっている。
 リンのことを犯罪者だと軽蔑する一方で、自分に重ねてしまっている。父親であると、信じていた相手に、ただ一人優しくしてくれた相手に、心が壊れるまで凌辱される気持ちを理解することも、されることも、できる相手などほとんど存在しないのだ。

「それで……彼女の父親を脅して犯行に協力させているのか?」

 それでも。だ。スイは逃げ出した。それは、ただの幸運だったのかもしれない。けれど、逃げ出すことを諦めはしなかった。だから、今がある。だから、スイにはアキも、ユキもいる。
 だから、目の前の男が許せないし、リンを止めたいと思うし、同じように苦しむ人を助けたいと思う。
 けれど、そんな隠しきれないスイの思いは、ケンジを喜ばせただけだったようだ。表情が戻ってきたスイに嬉しそうにケンジが笑う。

「そ。いろいろ便利だよ? 行方不明者の情報をただの家出として扱わせたり、警察の捜査情報を流させたり、捜査だと油断させて拉致できたり。それから、わかってるんだろ? 今回の潜入捜査の責任者はあの男だよ?」

 手を伸ばしてスイの髪に触ろうとするのを片手で払いのける。

「捜査員の選考の最終的な可否は真鍋所長が決めた。
 俺が絞り込んだ12人以外に今回のショーのスタッフには殆ど商品になりそうな外見的特徴を持った人物はいない。多分、今回は『捜査員』自体がメインの『商品』だったんだろ? つまり、潜入捜査自体、人身売買の計画の一部だったわけだ」

 スイにはたき落とされた手をわざとらしく撫でで、ケンジが笑う。

「せいかーい。じゃ。正解のご褒美にいいこと教えてあげるよ」

 す。と、スイの方に歩み寄ってくるケンジに、スイは少しだけ後ろに下がる。
 その瞳の中の昏い穴に吸い込まれてしまいそうな錯覚を覚えて、我知らず身体が強張る。
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