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Internally Flawless
23 独白 3
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そこは20階以上はある、いわゆる高層マンションだった。窓に明かりがともっているのは15階ほどまでで、その上は真っ暗だ。
新築に近いのか、清潔で、洗練されていて、豪華なエントランスホールに足を踏み入れる頃には、手を握っていたケンジの手は、スイの腰に回されていた。その腕で強く引き寄せられて、ケンジに身体を預けて歩く。
何の香りだろうか、とても甘い匂いがした。
「スイさんが来てくれるなんて……うれしいよ」
耳元でケンジの声がする。
並んでエレベータの前に立つと、ケンジが20階を押した。恐らく最上階だ。
「震えてる」
細かく震えるスイの腰をさらに力を入れてケンジが抱く。
「……怖いの?」
吐息を拭きかけるようにして耳に囁くと、びくり。と、スイの身体が揺れた。それから、こくりと小さく頷く。
「大丈夫。やさしくする」
ちん。と音がして、エレベータが開く。そのまま強く引き込まれて、ドアが閉まると同時に唇を奪われた。かち。と、歯がぶつかり合う音がする。
「口……開けて?」
僅かに唇を離して、ケンジが呟くけれど、スイは首を振った。
「だめだよ……こんなところで……はずかしい」
ケンジの視線から目を逸らすと、両手で顔を挟まれて、視線を合わされた。
「じゃ。部屋にいったらいいの?」
余裕たっぷりに微笑んで、ケンジが問いかけてくる。
「……言わせないでよ」
手を振り払ってそっぽを向くと、背中からぎゅっと抱きしめられた。
「スイさん。可愛い。愛してるよ? やっぱり、俺のにしたい」
そのまま、服の上から身体を弄られて、スイは身を固くした。
「ごめん。部屋まで、『待て』だったね?」
ちん。とタイミング良く音がして、エレベータのドアが開く。
「このフロア、俺の家しかないから」
ぐい。と手を引かれて、エレベータを降りると、すぐそばに部屋へのドアがあった。
鍵を開け、ケンジはドアを開ける。それから、スイに入るように促した。
「ようこそ。我が家へ」
呟いた、ケンジの後ろでドアが閉まる。鍵の閉まる音。
「どうぞ。寛いで?」
長い廊下を抜けて、通された部屋は60畳はあろうかというリビングだった。一面の窓からはこの街が一望できる。遠く、近くいくつもの明かりが瞬いている。
後ろで明かりをつけてから、ケンジは先に窓へと近づいたスイの横に並んだ。
「綺麗でしょ? この景色気にいってるんだ」
スイの肩を抱いて引き寄せて、ケンジが言った。
「……すごいね。でも、こんなところ……高くないの?」
思ったままを尋ねると、くす。とケンジが笑う。
「訊問ですか?」
おどけたようにケンジは言った。
「答えたら。次は俺が質問してもいい?」
じっと見つめられる。その瞳の奥にちらちらと見える。
あの昏い穴。
「いいよ」
だから、スイは答えた。
「高くはないよ。ここの家賃は払ってないから」
ケンジの答えに、スイの表情がなくなる。
新築に近いのか、清潔で、洗練されていて、豪華なエントランスホールに足を踏み入れる頃には、手を握っていたケンジの手は、スイの腰に回されていた。その腕で強く引き寄せられて、ケンジに身体を預けて歩く。
何の香りだろうか、とても甘い匂いがした。
「スイさんが来てくれるなんて……うれしいよ」
耳元でケンジの声がする。
並んでエレベータの前に立つと、ケンジが20階を押した。恐らく最上階だ。
「震えてる」
細かく震えるスイの腰をさらに力を入れてケンジが抱く。
「……怖いの?」
吐息を拭きかけるようにして耳に囁くと、びくり。と、スイの身体が揺れた。それから、こくりと小さく頷く。
「大丈夫。やさしくする」
ちん。と音がして、エレベータが開く。そのまま強く引き込まれて、ドアが閉まると同時に唇を奪われた。かち。と、歯がぶつかり合う音がする。
「口……開けて?」
僅かに唇を離して、ケンジが呟くけれど、スイは首を振った。
「だめだよ……こんなところで……はずかしい」
ケンジの視線から目を逸らすと、両手で顔を挟まれて、視線を合わされた。
「じゃ。部屋にいったらいいの?」
余裕たっぷりに微笑んで、ケンジが問いかけてくる。
「……言わせないでよ」
手を振り払ってそっぽを向くと、背中からぎゅっと抱きしめられた。
「スイさん。可愛い。愛してるよ? やっぱり、俺のにしたい」
そのまま、服の上から身体を弄られて、スイは身を固くした。
「ごめん。部屋まで、『待て』だったね?」
ちん。とタイミング良く音がして、エレベータのドアが開く。
「このフロア、俺の家しかないから」
ぐい。と手を引かれて、エレベータを降りると、すぐそばに部屋へのドアがあった。
鍵を開け、ケンジはドアを開ける。それから、スイに入るように促した。
「ようこそ。我が家へ」
呟いた、ケンジの後ろでドアが閉まる。鍵の閉まる音。
「どうぞ。寛いで?」
長い廊下を抜けて、通された部屋は60畳はあろうかというリビングだった。一面の窓からはこの街が一望できる。遠く、近くいくつもの明かりが瞬いている。
後ろで明かりをつけてから、ケンジは先に窓へと近づいたスイの横に並んだ。
「綺麗でしょ? この景色気にいってるんだ」
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「……すごいね。でも、こんなところ……高くないの?」
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