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Internally Flawless
23 独白 1
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◇翡翠◇
事情聴取が終わったのは6時を過ぎた頃だった。
あのあと、礼状を取って、男が管理人をしている貸倉庫の地下を捜索したところ、女性が3人見つかったそうだ。全員酷く衰弱して、心神喪失状態だったらしい。そのうちの2人は妊娠していた。
さらに、その地下から、6人分の遺体が発見された。それは、業務用の大型冷凍庫に脚は脚。腕は腕。というように身体の部位ごとにバラバラにされて保管されていて、欠けている部分がいくつもあった。6人とされたのは頭部の数が6つだったからで、それ以外の部分は誰のものなのかもDNA鑑定をまたなければ、わからないということだった。
さらに、先の会話を考慮に入れると、その男が何をしていたのか、想像に難くなかった。
彼はペットの豚を潰して食べていたのだ。
その話を聞いて、不覚にもスイはトイレに駆け込んだ。あの男に触れられた部分が酷く不快で、洗い流したかった。
現在分かっている範囲で、被害者は9人。頭部の残っている人物は身元も判明した。しかし、それが被害者の全てなのかは分からなかった。もしかしたら、全てが、その男の身体の中に消えてしまった女性がいるかもしれない。いや。もし、足が残っていても、今はそれを判別することはできなかった。
「大丈夫?」
会場の廊下を並んで歩きながら、ナオが言う。
「大丈夫」
スイは答える。
こんな形で事件の一部が解決するとは思っていなかった。ずっと探していたピースがこんな形で目の前に現れるとは思っていなかった。
「6人か……」
ナオが呟く。酷くやりきれない顔をしている。優しい彼は助けられると信じていたのだろう。
「生き残った3人も……まともな生活に戻れるか……」
男は監禁している女性たちに薬物を使っていた。通称『フォールダウン』と呼ばれる非常に中毒性の高いセックスドラックだ。恐らく何ヶ月もの間、その薬を使われ続けたのだ。しかも、多量に。
もし、正気に戻れたとしても、薬物依存から抜け出すのは不可能に近かった。
「……やりきれないよな」
スイはため息をついた。ずっと探していたピースは、いなくなった女性たちの居場所だった。もし、売られたのだとしても、販売先さえ突き止めれば助けられると思っていた。
けれど、すでに遅かったのだ。
「俺はこれからN署に行くけど……スイさん1人で大丈夫?」
険しい顔のまま、ナオが聞いてくる。
心身は疲れ切っていた。捜査が始まったころにはすでに手遅れだったとはいえ、多数の被害者を出してしまったことが、その疲労をさらに強く感じさせていた。
「大丈夫だよ」
それだけ呟いて、スイはナオに背中を向けた。
「おやすみ」
その背中にナオが言う。
「おやすみ」
少しだけ振り返って、スイも言った。
事情聴取が終わったのは6時を過ぎた頃だった。
あのあと、礼状を取って、男が管理人をしている貸倉庫の地下を捜索したところ、女性が3人見つかったそうだ。全員酷く衰弱して、心神喪失状態だったらしい。そのうちの2人は妊娠していた。
さらに、その地下から、6人分の遺体が発見された。それは、業務用の大型冷凍庫に脚は脚。腕は腕。というように身体の部位ごとにバラバラにされて保管されていて、欠けている部分がいくつもあった。6人とされたのは頭部の数が6つだったからで、それ以外の部分は誰のものなのかもDNA鑑定をまたなければ、わからないということだった。
さらに、先の会話を考慮に入れると、その男が何をしていたのか、想像に難くなかった。
彼はペットの豚を潰して食べていたのだ。
その話を聞いて、不覚にもスイはトイレに駆け込んだ。あの男に触れられた部分が酷く不快で、洗い流したかった。
現在分かっている範囲で、被害者は9人。頭部の残っている人物は身元も判明した。しかし、それが被害者の全てなのかは分からなかった。もしかしたら、全てが、その男の身体の中に消えてしまった女性がいるかもしれない。いや。もし、足が残っていても、今はそれを判別することはできなかった。
「大丈夫?」
会場の廊下を並んで歩きながら、ナオが言う。
「大丈夫」
スイは答える。
こんな形で事件の一部が解決するとは思っていなかった。ずっと探していたピースがこんな形で目の前に現れるとは思っていなかった。
「6人か……」
ナオが呟く。酷くやりきれない顔をしている。優しい彼は助けられると信じていたのだろう。
「生き残った3人も……まともな生活に戻れるか……」
男は監禁している女性たちに薬物を使っていた。通称『フォールダウン』と呼ばれる非常に中毒性の高いセックスドラックだ。恐らく何ヶ月もの間、その薬を使われ続けたのだ。しかも、多量に。
もし、正気に戻れたとしても、薬物依存から抜け出すのは不可能に近かった。
「……やりきれないよな」
スイはため息をついた。ずっと探していたピースは、いなくなった女性たちの居場所だった。もし、売られたのだとしても、販売先さえ突き止めれば助けられると思っていた。
けれど、すでに遅かったのだ。
「俺はこれからN署に行くけど……スイさん1人で大丈夫?」
険しい顔のまま、ナオが聞いてくる。
心身は疲れ切っていた。捜査が始まったころにはすでに手遅れだったとはいえ、多数の被害者を出してしまったことが、その疲労をさらに強く感じさせていた。
「大丈夫だよ」
それだけ呟いて、スイはナオに背中を向けた。
「おやすみ」
その背中にナオが言う。
「おやすみ」
少しだけ振り返って、スイも言った。
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