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Internally Flawless
22 友達 5
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「胸糞悪い奴だったね」
その背中を見送ってから、ナオがぼそりと言った。
「……ホントに。でも、ありがと。ナオ君のお陰で冷静になれた」
普段は飄々としている彼が、自分を守ろうと必死になってくれたのが、意外だったし、嬉しいと思った。ユキがすごく彼に懐いている意味がよく分かった気がした。
ナオは人の心を和ませる何かを持っている。それは猫のような人懐っこい笑顔だったり、他人のために真剣に怒れる強さだったり、人の痛みの分かる優しさだったりする。
最初は仕事を一緒にするだけの同僚のような存在だと思っていた。でも、今は友達だと思えた。
「別に……俺は……と、ところで……スイさん。今朝と服違うけど……どうしたの? なんかあった?」
素直に感謝されたのが、こそばゆいのか、少し微妙な表情を浮かべて、ナオは話を逸らしてしまった。少しだけ頬が赤い。照れているのだ。
「あ。これ?」
スタイリストに用意してもらった服は、普段、スイがあまり手を出すことのない類の服だった。いわゆるストリート系で、トップスは色は黒と地味だが、だぼだぼでキングスクラウンの大きな金色のロゴが入っているフード付きのトレーナー。ボトムは白でふくらはぎの部分に斜めの黒のラインが何本かあしらわれた細身のスウェットだった。全体が黒で、緑の炎のようなマークの部分だけが白地になっている、かなりごつめのスニーカーまでがおまけについていた。
服を選んでくれたスタイリストはスイのことを知っているらしかった。だから、これがスイに似合う服。ということになるのだろうか。
「実はさ。あのトップモデルのレイってコにあつあつコーヒー浴びせられたんだよ」
「はあ? コーヒー?? なんで?? 危ないじゃん」
ナオがもっともな疑問を返す。その疑問への答えは、スイも知りたい。
「や。わかんない。リンさんがあのお姫様に嫌がらせ受けてて、一人でお姫様のところに行きたくないっていうから、付き合ったんだよ」
よくよく考えても、そんなところにのこのこついていったのは間違いだった。スイには何の責任もないのだから、放っておけばよかった。
「そしたら、顔見るなりコーヒーの入ったカップ投げつけられた。きっと、よっぽど説教されたのが気に食わなかったんじゃない? ああ。や。違うか……多分、俺がアキ君の恋人だって気付いてるんだと思う。一回、アキ君に電話したら、あの人出たことあるし」
「アキさんの電話に出たって、どゆこと?」
またしても、ナオがもっともな疑問を返す。あの女の行動は疑問だらけで、ナオのもっともな問いは同じくスイも知りたいことだった。
「わかんない。人の電話に、勝手に出たんだって。ユキ君も、スマホ取られたって言ってたし。自分の近くにいる人は全員自分だけ見てなきゃだめらしい」
説明していて思ったのだが、レイはおかしい。いや。今までもそう思っていたのだが、改めて言葉にすると、おかしいのがよくわかる。ナオだって警察の内部ではかなり変人で通っているらしいのだが、彼女に比べればまったくもって常識人だ。
「でさ。カップ投げつけられて、隣にいたリンさんが危なかったから、庇ったら、火傷はするし、服はだめになるしで……。そしたら、アキ君の同僚の警護の人がスタイリストに掛け合って用意してくれたんだ。キングスクラウンの服らしい……チャラくない?」
「チャラい」
即答されて、二人で笑いあう。
「だろ? 俺も思った」
ナオといるのは心地よかった。彼の愛嬌ある笑顔は心を落ち着かせてくれる。次第にいつも通りの自分に戻れているのが分かる。
「でも、スイさん年の割に若く見えるから大丈夫だよ。結構似合ってる」
笑い合っていると、さっきの男の嫌な顔を忘れていられた。
「年の割にって……ナオ君余計なひと言多いよね?」
苦笑すると、ちょっとだけナオが真剣な顔になる。
「それはともかく、火傷って……大丈夫なの? 病院いってきたほうがよくない?」
じっと心配そうにそのアプリコットの瞳が見つめてくる。
「大丈夫。そこまでじゃないよ。さっきシャワールームで確認したけど、少し赤くなってるだけ」
火傷をしたあたりに手を添えると、熱を持っているのが分かった。触った場所にぴり。と少し痛みが走る。さっきから、服に擦れるたびに、熱いような痛いような感覚がずっと続いている。けれど、医者は避けたい。もちろん、アキとの情事の跡を見られるのも嫌だ。
だから、スイの言葉は強がりだった。
「そか。それならいいけど……」
ナオがそう言った時だった。
「御話し中、申し訳ありません」
先ほどセイジと一緒に出て行った制服警官が声をかけてくる。
「お部屋の準備ができましたので、ご案内します」
その制服警官に促されるまま、二人は部屋を出た。
その背中を見送ってから、ナオがぼそりと言った。
「……ホントに。でも、ありがと。ナオ君のお陰で冷静になれた」
普段は飄々としている彼が、自分を守ろうと必死になってくれたのが、意外だったし、嬉しいと思った。ユキがすごく彼に懐いている意味がよく分かった気がした。
ナオは人の心を和ませる何かを持っている。それは猫のような人懐っこい笑顔だったり、他人のために真剣に怒れる強さだったり、人の痛みの分かる優しさだったりする。
最初は仕事を一緒にするだけの同僚のような存在だと思っていた。でも、今は友達だと思えた。
「別に……俺は……と、ところで……スイさん。今朝と服違うけど……どうしたの? なんかあった?」
素直に感謝されたのが、こそばゆいのか、少し微妙な表情を浮かべて、ナオは話を逸らしてしまった。少しだけ頬が赤い。照れているのだ。
「あ。これ?」
スタイリストに用意してもらった服は、普段、スイがあまり手を出すことのない類の服だった。いわゆるストリート系で、トップスは色は黒と地味だが、だぼだぼでキングスクラウンの大きな金色のロゴが入っているフード付きのトレーナー。ボトムは白でふくらはぎの部分に斜めの黒のラインが何本かあしらわれた細身のスウェットだった。全体が黒で、緑の炎のようなマークの部分だけが白地になっている、かなりごつめのスニーカーまでがおまけについていた。
服を選んでくれたスタイリストはスイのことを知っているらしかった。だから、これがスイに似合う服。ということになるのだろうか。
「実はさ。あのトップモデルのレイってコにあつあつコーヒー浴びせられたんだよ」
「はあ? コーヒー?? なんで?? 危ないじゃん」
ナオがもっともな疑問を返す。その疑問への答えは、スイも知りたい。
「や。わかんない。リンさんがあのお姫様に嫌がらせ受けてて、一人でお姫様のところに行きたくないっていうから、付き合ったんだよ」
よくよく考えても、そんなところにのこのこついていったのは間違いだった。スイには何の責任もないのだから、放っておけばよかった。
「そしたら、顔見るなりコーヒーの入ったカップ投げつけられた。きっと、よっぽど説教されたのが気に食わなかったんじゃない? ああ。や。違うか……多分、俺がアキ君の恋人だって気付いてるんだと思う。一回、アキ君に電話したら、あの人出たことあるし」
「アキさんの電話に出たって、どゆこと?」
またしても、ナオがもっともな疑問を返す。あの女の行動は疑問だらけで、ナオのもっともな問いは同じくスイも知りたいことだった。
「わかんない。人の電話に、勝手に出たんだって。ユキ君も、スマホ取られたって言ってたし。自分の近くにいる人は全員自分だけ見てなきゃだめらしい」
説明していて思ったのだが、レイはおかしい。いや。今までもそう思っていたのだが、改めて言葉にすると、おかしいのがよくわかる。ナオだって警察の内部ではかなり変人で通っているらしいのだが、彼女に比べればまったくもって常識人だ。
「でさ。カップ投げつけられて、隣にいたリンさんが危なかったから、庇ったら、火傷はするし、服はだめになるしで……。そしたら、アキ君の同僚の警護の人がスタイリストに掛け合って用意してくれたんだ。キングスクラウンの服らしい……チャラくない?」
「チャラい」
即答されて、二人で笑いあう。
「だろ? 俺も思った」
ナオといるのは心地よかった。彼の愛嬌ある笑顔は心を落ち着かせてくれる。次第にいつも通りの自分に戻れているのが分かる。
「でも、スイさん年の割に若く見えるから大丈夫だよ。結構似合ってる」
笑い合っていると、さっきの男の嫌な顔を忘れていられた。
「年の割にって……ナオ君余計なひと言多いよね?」
苦笑すると、ちょっとだけナオが真剣な顔になる。
「それはともかく、火傷って……大丈夫なの? 病院いってきたほうがよくない?」
じっと心配そうにそのアプリコットの瞳が見つめてくる。
「大丈夫。そこまでじゃないよ。さっきシャワールームで確認したけど、少し赤くなってるだけ」
火傷をしたあたりに手を添えると、熱を持っているのが分かった。触った場所にぴり。と少し痛みが走る。さっきから、服に擦れるたびに、熱いような痛いような感覚がずっと続いている。けれど、医者は避けたい。もちろん、アキとの情事の跡を見られるのも嫌だ。
だから、スイの言葉は強がりだった。
「そか。それならいいけど……」
ナオがそう言った時だった。
「御話し中、申し訳ありません」
先ほどセイジと一緒に出て行った制服警官が声をかけてくる。
「お部屋の準備ができましたので、ご案内します」
その制服警官に促されるまま、二人は部屋を出た。
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