遠くて近い世界で

司書Y

文字の大きさ
上 下
323 / 414
Internally Flawless

22 友達 3

しおりを挟む
「スイさん!」

 入ってきたのはセイジだった。他にも数人の制服警官を連れている。

「大丈夫? 怪我ない? 無事??」

 座り込んでいるスイに殆どナオと同じ様な質問をしてくる。

「大丈夫だよ。変質者はあの中。あ。それから、これ。あいつのスマホ。余罪があるみたいだから、証拠になるかもしれない。『写真撮って脅した』って言ってたから」

 セイジの掌に男のスマートフォンを渡す。

「申し訳ないんだけど……俺は被害届は出せない。理由は聞かないでほしい。
 もし、この中に余罪の証拠があったとしても、強姦は親告罪だから、起訴は難しいかもしれないことは……覚悟しといて」

 スイには戸籍がない。だから、被害届を出すことも、裁判になることも、避けなければならない。
 けれど、被害に遭った女性に提訴しろとも言えない。全てを忘れたいと思っている人にとって、それは耐えがたい苦しみだろう。同じ苦しみを味わったことがあるスイにはそれが理解できた。

「わかった」

 渡されたスマートフォンをセイジは制服警官に渡す。制服警官はそれをビニール袋に入れた。

「なんか。すごく顔色悪い。大丈夫? 少し……話聞きたいけれど……もし具合悪いなら、明日にするけど」

 遠慮がちに問いかけてくるセイジにスイは笑顔を返した。事情聴取くらいはやむを得ない。
 そう思っているところへ、シャワールームのドアが開いて、犯人の男が両脇を警察官に抱えられて出てきた。

「女神さまがいったんだ……宣託なんだ……あいつをめちゃくちゃにしろって……犯して写真撮って晒せって……俺は……女神さまのいうとおりに……」

 うつろな表情でぶつぶつと呟いている。酷く不快でスイは男から目を逸らした。

「……お前だ!」

 そのスイの姿が目に入ったのか、男は両脇を抱えている警察官の腕を振り払おうとするかのように暴れだした。

「お前が女神さまの邪魔をするから! 他の女も!! お美しい女神さまの邪魔をするから! 俺が排除するんだ! 犯して、壊して、ペットとして飼ってやるんだ! お前も、俺の足を舐めろよ! でないと晒し物にするぞ!!」

 唾を飛ばしながら、顔を紅潮させ、焦点の定まらない目でスイを見つめて、男が叫ぶ。言っている内容にも、その姿にも、最早侮蔑の感情しか湧いてこない。

「あの女たちも。最初は俺のこと汚物でも見るみたいに見てた。でも……ひひ。1か月もすれば、みんな泣きながら俺を求めるようになったよ。ひひひ。あいつらは豚だ。だから、俺が飼ってやるんだ。豚だから、いくら犯したって罪になんてならない。お前もすぐに脚開いて『してして』って言うように調教してやるよ!」

 表情は次第に歪んでいく。口から涎を垂らし、目を血走らせ、股間を膨らませて叫ぶ姿は醜悪としか言いようがなかった。さっきまで、こいつに触られていたのかと思うと、また吐き気がした。
 何かを言い返したかったけれど、口を開いたら吐いてしまいそうで、スイは開きかけた口を噤んだ。

「……豚はお前だろ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

彩雲華胥

柚月なぎ
BL
 暉の国。  紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。  名を無明。  高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。  暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。 ※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。 ※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。 ※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜

高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です

処理中です...