314 / 414
Internally Flawless
20 敵地 5
しおりを挟む
「なにをしにきたのかしら?」
腕組みをして仁王立ちしているその表情は憎々しげというのがぴったりの表情だった。
何故この女はこんなに偉そうなのだろう。
スイは思う。
いきなりコーヒーカップを投げつけておいて『なにしにきた』が最初の一言だということにスイは呆れてた。もし、あのカップが顔に当たっていたら失明した可能性だってあるし、状況から考えれば、訴えられてもおかしくはないのだと気づいていないどころか、さもスイの方が悪いような言い方をされて、いいかげんスイの方の我慢も限界に近かった。
「スイさんは、買い出しの手伝いをしてくださって……」
スイの様子を察したのかは分からないが、代わりにリンが答えた。しかし、元を正せば彼女の『買い出し』ではなく、『謝罪』に付き合わされたのだから、彼女がフォローするのは当然だろう。スイにしてみれば、巻き込まれなくてもいい面倒事に巻き込まれたのだ、その上言い訳までさせられるいわれはない。
ただ、いきなりコーヒーカップを投げつけられたのは意外だったが、レイに嫌われているのは意外でもなんでもない。最初からリンが泣いてもきっぱりと断ればよかったのだ。と、後悔はしていた。
「あなたには聞いてないわ!!」
そんなスイやリンの事情も思惑も関係なく、レイがヒステリックに叫ぶ。本当に面倒くさい。スイは思う。今度こそはしばらく(トラウマになって)大人しくしていてくれるような説教をしてやろうかと、口を開きかけたときだった。
「いい加減にしろ。ほぼ熱湯のコーヒーカップ投げつけるのは、傷害罪にあたるって、わからないのか?」
スイを守るようにレイとの間にたって、アキが言った。怒気をたっぷり含んだ低い声。整った顔は普段は作戦行動中でも見ないほど冷淡な表情だった。
「勝手にドアをあけたから……」
アキの本気の怒りの表情に、レイが口籠る。
「お前、入っていいっつっただろ?」
女性に対して、こんな表情をするアキを見るのは初めてだった。部屋を襲撃してきたどこぞのヤクザクラスにすら見せないような完全敵認定の相手に向ける顔だ。
「言っとくけどな。この人にこれ以上傷をつけるって言うなら、契約なんて関係ねえ。その瞬間からお前は俺の敵だ。全力で排除する」
恐ろしく真剣で、冷徹な表情だった。ぞっとするほど綺麗で、怖い。こんな表情を向けられたら、逆らえなくなるとスイは思う。
けれど、彼は、自分のために怒ってくれているのだ。
そう思うと、その表情すら愛おしく思えた。
「……なによ……。知らないわよ! 私は悪くない!! そいつが私を怒らせるから悪いんじゃない!!」
叫んで、レイは会議室に駆けこんでしまった。
閉まったドアの向こうで、何かが割れたり、床にたたきつけられるような音が聞こえる。
腕組みをして仁王立ちしているその表情は憎々しげというのがぴったりの表情だった。
何故この女はこんなに偉そうなのだろう。
スイは思う。
いきなりコーヒーカップを投げつけておいて『なにしにきた』が最初の一言だということにスイは呆れてた。もし、あのカップが顔に当たっていたら失明した可能性だってあるし、状況から考えれば、訴えられてもおかしくはないのだと気づいていないどころか、さもスイの方が悪いような言い方をされて、いいかげんスイの方の我慢も限界に近かった。
「スイさんは、買い出しの手伝いをしてくださって……」
スイの様子を察したのかは分からないが、代わりにリンが答えた。しかし、元を正せば彼女の『買い出し』ではなく、『謝罪』に付き合わされたのだから、彼女がフォローするのは当然だろう。スイにしてみれば、巻き込まれなくてもいい面倒事に巻き込まれたのだ、その上言い訳までさせられるいわれはない。
ただ、いきなりコーヒーカップを投げつけられたのは意外だったが、レイに嫌われているのは意外でもなんでもない。最初からリンが泣いてもきっぱりと断ればよかったのだ。と、後悔はしていた。
「あなたには聞いてないわ!!」
そんなスイやリンの事情も思惑も関係なく、レイがヒステリックに叫ぶ。本当に面倒くさい。スイは思う。今度こそはしばらく(トラウマになって)大人しくしていてくれるような説教をしてやろうかと、口を開きかけたときだった。
「いい加減にしろ。ほぼ熱湯のコーヒーカップ投げつけるのは、傷害罪にあたるって、わからないのか?」
スイを守るようにレイとの間にたって、アキが言った。怒気をたっぷり含んだ低い声。整った顔は普段は作戦行動中でも見ないほど冷淡な表情だった。
「勝手にドアをあけたから……」
アキの本気の怒りの表情に、レイが口籠る。
「お前、入っていいっつっただろ?」
女性に対して、こんな表情をするアキを見るのは初めてだった。部屋を襲撃してきたどこぞのヤクザクラスにすら見せないような完全敵認定の相手に向ける顔だ。
「言っとくけどな。この人にこれ以上傷をつけるって言うなら、契約なんて関係ねえ。その瞬間からお前は俺の敵だ。全力で排除する」
恐ろしく真剣で、冷徹な表情だった。ぞっとするほど綺麗で、怖い。こんな表情を向けられたら、逆らえなくなるとスイは思う。
けれど、彼は、自分のために怒ってくれているのだ。
そう思うと、その表情すら愛おしく思えた。
「……なによ……。知らないわよ! 私は悪くない!! そいつが私を怒らせるから悪いんじゃない!!」
叫んで、レイは会議室に駆けこんでしまった。
閉まったドアの向こうで、何かが割れたり、床にたたきつけられるような音が聞こえる。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

神子は再召喚される
田舎
BL
??×神子(召喚者)。
平凡な学生だった有田満は突然異世界に召喚されてしまう。そこでは軟禁に近い地獄のような生活を送り苦痛を強いられる日々だった。
そして平和になり元の世界に戻ったというのに―――― …。
受けはかなり可哀そうです。


【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる