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Internally Flawless
20 敵地 1
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◇翡翠◇
午後になると、昨日に引き続いて、ショーに出演するモデルたちが、会場ホールの別階にあるフロアに集まっていた。ショー本番で着る衣装の最終チェックがあるらしい。しかし、会場に顔を出すモデルは殆どいないので、今日は会場設営を邪魔される心配もない。昨日邪魔が入って、時間がないというのにさらに遅れた作業を進めるために、会場設営班は激務を強いられていた。
昨夜のうちにある程度まで完成していた会場で、スイは照明の変更点のプログラムの修正作業をしていた。もう、時間を稼ぐ必要はないので、出来る限りのはやさで、作業を進めて行く。
しかし、頭の占めているのは全く別のことだった。
さっきまで、ナオと話をしていた。行方不明になっているのは、21歳の男性で舞台の演出家の付き人として潜入しているハウンドの青年だった。ハウンドとしての経験は浅いらしい。正直何故そんな人物を潜入捜査に使ったのか、理由は簡単だ。ハウンドとしてのキャリアなど、選考基準としては問題視していなかったのだろう。重視していたのはもちろん容姿だ。犯人グループのバイヤーが気に入るような外見を持っている。殆どそれだけで選ばれた人物に間違いない。
スイよりも小柄で、ぱっと見は高校生にも見えるようなその人物のことを、スイも覚えていた。確か、初日の挨拶はしたはずだ。グレーに近い水色の髪をして、殆ど透明に近い青の瞳をした少し儚げな印象を受ける美青年だったと思う。
潜入捜査の警察官は一人につき、数人のハウンドを指揮下に置いている。警察官はすべての人員のことを把握しているが、ハウンドは自分の直属の指揮官の名前しか知らない。だから、警察の潜入捜査の人員について、最初、スイはナオ以外のメンバーが誰なのか知らされていなかった。もちろん、ナオも当初はほかのハウンドについてスイにも話そうとはしなかった。警察官としては至極当然の行動だ。しかし、スイが潜入1週間目で全員の名前を言い当てたことで、ナオは観念した。スイがすべての人員のことを把握しているのはナオしか知らないが、スイは行方不明になった彼を含むすべてのメンバーを把握していたのだ。それは、もちろん、潜入捜査員でないスタッフが誰なのかも全てわかっているということだ。
雇われているハウンドは、就寝前の定時連絡を寄越さなかったことで、いなくなったことが判明したらしい。定時連絡はともに潜入捜査をしている警察所属の指揮官に、潜入捜査用に渡されたスマートフォンで行う。もちろん、スイもナオへの定時連絡を義務付けられている。しかし、そもそもGPSで居場所を特定できるはずのスマートフォンのGPS信号すら、昨夜の7時を過ぎる頃、この会場を最後に消失してしまっていた。
「……くそっ」
自分自身の甘さに悪態をつく。
こうなることは予測できたはずだ。それなのに、注意を促すだけで、なにもしなかったのは完全に自分の甘さだと思う。潜入捜査の期間中だというのに、自分のことを優先させてしまった結果がこれだ。もっと早く『発注』に気付いていれば、防げたかもしれない。
「はあっ」
ため息をついて、スイは首を振った。
今さら後悔しても仕方ない。あとはいかに早く事件を解決するか。それを考えなければいけない。
こうなってしまった以上、時間をかけてはいられない。それなのに、動かずにいるのにはわけがあった。どうしても足りないピースがあるのだ。しかもそれはスイにとって一番大切なピースだと言えた。
それでも、確実にタイムリミットは近付いている。
だから、もう、最後の手段にでるしかなかった。
「……ちゃんと……顔思い浮かべたけど……」
アキの顔を思い浮かべる。
彼と交わした約束が心を苛む。いつもスイのことを一番に考えてくれるその人が、スイのためを思って課してくれた戒めをこんなに早く破ってしまうかもしれないことが、辛かった。けれど、そのことを伝えることは服務規定に違反することになる。
「ごめん」
堪らないジレンマに、いつの間にかキーを打つ手は止まっていた。
午後になると、昨日に引き続いて、ショーに出演するモデルたちが、会場ホールの別階にあるフロアに集まっていた。ショー本番で着る衣装の最終チェックがあるらしい。しかし、会場に顔を出すモデルは殆どいないので、今日は会場設営を邪魔される心配もない。昨日邪魔が入って、時間がないというのにさらに遅れた作業を進めるために、会場設営班は激務を強いられていた。
昨夜のうちにある程度まで完成していた会場で、スイは照明の変更点のプログラムの修正作業をしていた。もう、時間を稼ぐ必要はないので、出来る限りのはやさで、作業を進めて行く。
しかし、頭の占めているのは全く別のことだった。
さっきまで、ナオと話をしていた。行方不明になっているのは、21歳の男性で舞台の演出家の付き人として潜入しているハウンドの青年だった。ハウンドとしての経験は浅いらしい。正直何故そんな人物を潜入捜査に使ったのか、理由は簡単だ。ハウンドとしてのキャリアなど、選考基準としては問題視していなかったのだろう。重視していたのはもちろん容姿だ。犯人グループのバイヤーが気に入るような外見を持っている。殆どそれだけで選ばれた人物に間違いない。
スイよりも小柄で、ぱっと見は高校生にも見えるようなその人物のことを、スイも覚えていた。確か、初日の挨拶はしたはずだ。グレーに近い水色の髪をして、殆ど透明に近い青の瞳をした少し儚げな印象を受ける美青年だったと思う。
潜入捜査の警察官は一人につき、数人のハウンドを指揮下に置いている。警察官はすべての人員のことを把握しているが、ハウンドは自分の直属の指揮官の名前しか知らない。だから、警察の潜入捜査の人員について、最初、スイはナオ以外のメンバーが誰なのか知らされていなかった。もちろん、ナオも当初はほかのハウンドについてスイにも話そうとはしなかった。警察官としては至極当然の行動だ。しかし、スイが潜入1週間目で全員の名前を言い当てたことで、ナオは観念した。スイがすべての人員のことを把握しているのはナオしか知らないが、スイは行方不明になった彼を含むすべてのメンバーを把握していたのだ。それは、もちろん、潜入捜査員でないスタッフが誰なのかも全てわかっているということだ。
雇われているハウンドは、就寝前の定時連絡を寄越さなかったことで、いなくなったことが判明したらしい。定時連絡はともに潜入捜査をしている警察所属の指揮官に、潜入捜査用に渡されたスマートフォンで行う。もちろん、スイもナオへの定時連絡を義務付けられている。しかし、そもそもGPSで居場所を特定できるはずのスマートフォンのGPS信号すら、昨夜の7時を過ぎる頃、この会場を最後に消失してしまっていた。
「……くそっ」
自分自身の甘さに悪態をつく。
こうなることは予測できたはずだ。それなのに、注意を促すだけで、なにもしなかったのは完全に自分の甘さだと思う。潜入捜査の期間中だというのに、自分のことを優先させてしまった結果がこれだ。もっと早く『発注』に気付いていれば、防げたかもしれない。
「はあっ」
ため息をついて、スイは首を振った。
今さら後悔しても仕方ない。あとはいかに早く事件を解決するか。それを考えなければいけない。
こうなってしまった以上、時間をかけてはいられない。それなのに、動かずにいるのにはわけがあった。どうしても足りないピースがあるのだ。しかもそれはスイにとって一番大切なピースだと言えた。
それでも、確実にタイムリミットは近付いている。
だから、もう、最後の手段にでるしかなかった。
「……ちゃんと……顔思い浮かべたけど……」
アキの顔を思い浮かべる。
彼と交わした約束が心を苛む。いつもスイのことを一番に考えてくれるその人が、スイのためを思って課してくれた戒めをこんなに早く破ってしまうかもしれないことが、辛かった。けれど、そのことを伝えることは服務規定に違反することになる。
「ごめん」
堪らないジレンマに、いつの間にかキーを打つ手は止まっていた。
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