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Internally Flawless
幕間 ある朝の出来事 3
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「……ユキ君。泣かないで?」
いつの間にか涙が零れていた。それをスイの細くて綺麗な指が拭き取ってくれる。
「ごめん。年上なのに俺、ユキ君に頼ってばかりだったから」
スイが拭いてくれても、涙がどんどん溢れてきてしまう。口に出してしまったら止まらなくなってしまった。こんなことで、女の子みたいに泣いているのをスイに見られるのが堪らなく恥ずかしい。
「……ユキ君がしたいなら……俺はいつでもいいよ。今からだって……かまわない」
頬を赤く染めて、恥ずかしげに視線を逸らせて、スイが言った。
「ユキ君が……俺のこと好きでいてくれるなら……なんでもする」
ユキが離した身体を、また、ぎゅっと押しつけるようにスイはユキを抱きしめる。
「ちが……っスイさんそういうことじゃなくて。……や。違わなくないんだけど……や? あれ? 違うか……?? とにかく……別にスイさんに無理させてまで、そんなことしたいとかそんなんじゃないんだ」
密着する細い身体の感触に思わず熱が集まりそうになって、ユキは慌ててまたスイを引き離した。
「我慢とか……そゆうのいらないよ? こんな身体でよければ……別に壊れたってい……」
言いかけた口をキスで塞ぐ。スイは僅かに身じろぎをして、それでもその長いキスを受け入れた。
「駄目だ。そんなこと言うなら許さない」
唇を離して、その翡翠色の目を見つめて言うと、蕩けるみたいに甘い潤んだ瞳がユキを捉えてため息のような吐息を漏らす。
「スイさんは、俺と兄貴のものなんだから、勝手に壊れるとか許さない」
嬉しそうに、切なそうに、少し困ったようにユキを見つめるスイの頬を両手で包んで、もう一度キスをして、ユキは言った。
「ユキ君が本当にほしいと思ってくれているなら、遠慮とか、我慢はしてほしくない。
嫉妬とか、嫌な思いとか、たくさんさせてることわかってる。ルールだって……俺が一人を選べないなんて言わなければ、作らなくてもいいものだったのに。
俺は、ユキ君も、アキ君も、抱きしめたいし、触ってほしいし、キスしてほしいし、セックスもしたい。
でも……本当に一番ほしいのは……二人にいつまでも好きでいてほしい。だから、こんな身体で繋ぎとめられるならそれでもいいんだ」
スイの瞳は真剣だった。
どんなに自分が彼に思われているのかを実感する。
「ちがう。スイさん。そうじゃなくて……もし、一生セックスできなくても、スイさんが俺のこと好きじゃなくなっても、俺はスイさんのこと好きだよ。
スイさんは一人しかいないんだ。だから、大切にさせてよ。兄貴にも、俺にも壊させないで」
ただ、羨ましかっただけだ。スイを抱ける強さを持っている兄が。何もかも投げ出して、スイのところに走っていける兄が。
同時に、情けなかっただけだ。優しくすることしかできない弱い自分が。兄が与えた愛に幸福な笑顔を浮かべるその人を、素直に祝福してやれない自分が。
だって、好きなんだ。
ユキは思う。
その人を抱くのが自分だけであればいいと思う。自分以外がその人を幸せにするのを見たくない。
全部投げ出したらその人が自分だけのものになると言うのなら、全部捨てたっていい。たった一人の家族である兄ですら。
そう思ってから、すぐに後悔する。
捨てたくない。捨てられない。初めて愛した人と比べても、兄が大切だと思う。
だから、やっぱり三人でいたい。
兄にスイが抱かれたその日から、何度も考えて、それでも、同じ回答に戻ってきた。
「でも……兄貴だけのものにはならないで。俺のこと、兄貴と同じくらい好きでいてよ」
多分、ずっとこうして悩み続けるのだと思う。あの最高の男に嫉妬し続けて、この最高の恋人の後を追い続けるのだと思う。
「そんなこと……言われなくても、ずっと好きだよ。どっちか片方好きになれてたら……二人ともほしいなんて、そんな贅沢言ったりしない」
そう言って、二人はまた、しっかりと抱き合った。
いつの間にか涙が零れていた。それをスイの細くて綺麗な指が拭き取ってくれる。
「ごめん。年上なのに俺、ユキ君に頼ってばかりだったから」
スイが拭いてくれても、涙がどんどん溢れてきてしまう。口に出してしまったら止まらなくなってしまった。こんなことで、女の子みたいに泣いているのをスイに見られるのが堪らなく恥ずかしい。
「……ユキ君がしたいなら……俺はいつでもいいよ。今からだって……かまわない」
頬を赤く染めて、恥ずかしげに視線を逸らせて、スイが言った。
「ユキ君が……俺のこと好きでいてくれるなら……なんでもする」
ユキが離した身体を、また、ぎゅっと押しつけるようにスイはユキを抱きしめる。
「ちが……っスイさんそういうことじゃなくて。……や。違わなくないんだけど……や? あれ? 違うか……?? とにかく……別にスイさんに無理させてまで、そんなことしたいとかそんなんじゃないんだ」
密着する細い身体の感触に思わず熱が集まりそうになって、ユキは慌ててまたスイを引き離した。
「我慢とか……そゆうのいらないよ? こんな身体でよければ……別に壊れたってい……」
言いかけた口をキスで塞ぐ。スイは僅かに身じろぎをして、それでもその長いキスを受け入れた。
「駄目だ。そんなこと言うなら許さない」
唇を離して、その翡翠色の目を見つめて言うと、蕩けるみたいに甘い潤んだ瞳がユキを捉えてため息のような吐息を漏らす。
「スイさんは、俺と兄貴のものなんだから、勝手に壊れるとか許さない」
嬉しそうに、切なそうに、少し困ったようにユキを見つめるスイの頬を両手で包んで、もう一度キスをして、ユキは言った。
「ユキ君が本当にほしいと思ってくれているなら、遠慮とか、我慢はしてほしくない。
嫉妬とか、嫌な思いとか、たくさんさせてることわかってる。ルールだって……俺が一人を選べないなんて言わなければ、作らなくてもいいものだったのに。
俺は、ユキ君も、アキ君も、抱きしめたいし、触ってほしいし、キスしてほしいし、セックスもしたい。
でも……本当に一番ほしいのは……二人にいつまでも好きでいてほしい。だから、こんな身体で繋ぎとめられるならそれでもいいんだ」
スイの瞳は真剣だった。
どんなに自分が彼に思われているのかを実感する。
「ちがう。スイさん。そうじゃなくて……もし、一生セックスできなくても、スイさんが俺のこと好きじゃなくなっても、俺はスイさんのこと好きだよ。
スイさんは一人しかいないんだ。だから、大切にさせてよ。兄貴にも、俺にも壊させないで」
ただ、羨ましかっただけだ。スイを抱ける強さを持っている兄が。何もかも投げ出して、スイのところに走っていける兄が。
同時に、情けなかっただけだ。優しくすることしかできない弱い自分が。兄が与えた愛に幸福な笑顔を浮かべるその人を、素直に祝福してやれない自分が。
だって、好きなんだ。
ユキは思う。
その人を抱くのが自分だけであればいいと思う。自分以外がその人を幸せにするのを見たくない。
全部投げ出したらその人が自分だけのものになると言うのなら、全部捨てたっていい。たった一人の家族である兄ですら。
そう思ってから、すぐに後悔する。
捨てたくない。捨てられない。初めて愛した人と比べても、兄が大切だと思う。
だから、やっぱり三人でいたい。
兄にスイが抱かれたその日から、何度も考えて、それでも、同じ回答に戻ってきた。
「でも……兄貴だけのものにはならないで。俺のこと、兄貴と同じくらい好きでいてよ」
多分、ずっとこうして悩み続けるのだと思う。あの最高の男に嫉妬し続けて、この最高の恋人の後を追い続けるのだと思う。
「そんなこと……言われなくても、ずっと好きだよ。どっちか片方好きになれてたら……二人ともほしいなんて、そんな贅沢言ったりしない」
そう言って、二人はまた、しっかりと抱き合った。
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