306 / 414
Internally Flawless
幕間 ある朝の出来事 2
しおりを挟む
ドアを開けたまま立ち尽くして彼を見つめていると、ふ。と、スイが顔を上げた。
「ユキ君」
ものすごく、優しくて、嬉しそうな笑顔を浮かべて、スイが名前を呼んでくれた。ヘッドホンを外して首にかけて、シンクで手を洗ってから、キッチンを出て、ユキの元まで歩いてきたスイは、そのままユキの背中に腕を回して抱きついてきた。
「おはよう」
背中に腕を回したまま、その綺麗な翡翠の色の瞳が見上げてくる。
「どして?」
ユキは問う。今日は、彼は仕事のはずだ。しかも、昨夜も一昨日も兄といてきっと、疲れきっているはずだ。
「ユキ君に会いたくなったから」
そんな風に言うスイが心の底から愛おしくなって、ユキは彼を抱きしめた。
「スイさん……」
スイが作る朝食のにおいと、彼自身の甘いにおい。肺にたっぷり吸い込むと、堪らないほど幸せな気持ちになった。
「昨夜仕事遅かったんだろ? ごめん。はやくから起しちゃって。でも……どうしても、顔みたくて」
ユキの胸に顔を埋めたまま、スイが言う。
「いいよ。スイさんの顔見られるなら、徹夜しても全然いい!」
少しだけスイを離して顔を見つめる。あまりまじまじと見つめられて、スイが少し頬を染める。それが、また、堪らなく可愛らしく見えて、ユキはその頬にキスをした。
「スイさん。好き。愛してる」
その瞳を見詰めたまま囁けば、一層頬が赤くなって、それから、キスを強請るように瞼が閉じた。
だから、その柔らかな唇にキスをした。一度ではなくて、何度も。
「ん」
短く吐息を漏らして、スイの唇を離す。
「……ユキ君。俺も。大好きだよ。愛してる」
離れた唇が、今度はスイの方から重ねられた。ちゅ。と、小さなリップ音をさせて、顔が離れると、少し照れたように笑うスイ。
すごく綺麗だ。
ユキは思う。
兄に愛されて、スイはどんどん綺麗になってしまう。
最初に会った時にはそんな風には思わなかった。寂しそうな顔ばかりが目立って、優しくしたいとは思ったけれど、可愛いとか綺麗なんて思いもよらなかった。
彼が、綺麗なことにも、とても可愛らしいということにも、気付いたのは多分兄の方が先で、兄に愛されることで、彼はもっと綺麗になっていく。一番近くにいるのに、それをユキは見ていることしかできない。
歯がゆい。と、思う。
「ユキ君?」
黙り込んでしまったユキに、スイが心配げな声を上げる。
「スイさん。先に謝っとく。ごめん!」
スイを身体から引き離して、その肩に両手を置いて、その顔を見つめてユキは言った。
「俺! 兄貴に嫉妬してる。スイさんと喧嘩して泣かせたくせに、その間俺が必死でスイさんのこと支えてたのに、仲直りしたと思ったらスイさんのこと好き放題して。ルールも破って……。俺だって! スイさんのこと抱きたい! スイさんのこと一晩中一人占めしたい!!」
一息でそこまで言って、ユキは息をついた。
「俺も……スイさんと一緒にいたいし、触りたいし、キスしたいし、セックスしたい……。兄貴ばっかりずるい。スイさんは兄貴だけのもんじゃないのに……スイさんは俺のもんでもあるのに……」
最後は消え入るような声になってしまった。スイが酷く驚いた顔で見つめている。
それから、その細い指が頬にそっと触れた。
「ユキ君」
ものすごく、優しくて、嬉しそうな笑顔を浮かべて、スイが名前を呼んでくれた。ヘッドホンを外して首にかけて、シンクで手を洗ってから、キッチンを出て、ユキの元まで歩いてきたスイは、そのままユキの背中に腕を回して抱きついてきた。
「おはよう」
背中に腕を回したまま、その綺麗な翡翠の色の瞳が見上げてくる。
「どして?」
ユキは問う。今日は、彼は仕事のはずだ。しかも、昨夜も一昨日も兄といてきっと、疲れきっているはずだ。
「ユキ君に会いたくなったから」
そんな風に言うスイが心の底から愛おしくなって、ユキは彼を抱きしめた。
「スイさん……」
スイが作る朝食のにおいと、彼自身の甘いにおい。肺にたっぷり吸い込むと、堪らないほど幸せな気持ちになった。
「昨夜仕事遅かったんだろ? ごめん。はやくから起しちゃって。でも……どうしても、顔みたくて」
ユキの胸に顔を埋めたまま、スイが言う。
「いいよ。スイさんの顔見られるなら、徹夜しても全然いい!」
少しだけスイを離して顔を見つめる。あまりまじまじと見つめられて、スイが少し頬を染める。それが、また、堪らなく可愛らしく見えて、ユキはその頬にキスをした。
「スイさん。好き。愛してる」
その瞳を見詰めたまま囁けば、一層頬が赤くなって、それから、キスを強請るように瞼が閉じた。
だから、その柔らかな唇にキスをした。一度ではなくて、何度も。
「ん」
短く吐息を漏らして、スイの唇を離す。
「……ユキ君。俺も。大好きだよ。愛してる」
離れた唇が、今度はスイの方から重ねられた。ちゅ。と、小さなリップ音をさせて、顔が離れると、少し照れたように笑うスイ。
すごく綺麗だ。
ユキは思う。
兄に愛されて、スイはどんどん綺麗になってしまう。
最初に会った時にはそんな風には思わなかった。寂しそうな顔ばかりが目立って、優しくしたいとは思ったけれど、可愛いとか綺麗なんて思いもよらなかった。
彼が、綺麗なことにも、とても可愛らしいということにも、気付いたのは多分兄の方が先で、兄に愛されることで、彼はもっと綺麗になっていく。一番近くにいるのに、それをユキは見ていることしかできない。
歯がゆい。と、思う。
「ユキ君?」
黙り込んでしまったユキに、スイが心配げな声を上げる。
「スイさん。先に謝っとく。ごめん!」
スイを身体から引き離して、その肩に両手を置いて、その顔を見つめてユキは言った。
「俺! 兄貴に嫉妬してる。スイさんと喧嘩して泣かせたくせに、その間俺が必死でスイさんのこと支えてたのに、仲直りしたと思ったらスイさんのこと好き放題して。ルールも破って……。俺だって! スイさんのこと抱きたい! スイさんのこと一晩中一人占めしたい!!」
一息でそこまで言って、ユキは息をついた。
「俺も……スイさんと一緒にいたいし、触りたいし、キスしたいし、セックスしたい……。兄貴ばっかりずるい。スイさんは兄貴だけのもんじゃないのに……スイさんは俺のもんでもあるのに……」
最後は消え入るような声になってしまった。スイが酷く驚いた顔で見つめている。
それから、その細い指が頬にそっと触れた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

とろけてまざる
ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで──
表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

彩雲華胥
柚月なぎ
BL
暉の国。
紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。
名を無明。
高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。
暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。
※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。
※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。
※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる