294 / 414
Internally Flawless
17 会合 7
しおりを挟む
考えながら、資材搬入口から出ようとすると、通路の端に、ケンジがいた。
「あ。スイさんまだ帰ってなかった。よかった。ね。ね。ご飯食べに行かない? もちろん。ナオさんも一緒にさ」
ケンジ。焦ってた。
という、ナオの一言が思い出される。彼は舞台装飾の係だ。多分、同僚はまだ仕事中だろう。それなのにこんなところでスイを待ち伏せて、食事に誘おうとは、本当に焦っているのかもしれない。
「ケンジ君。まだ、仕事残ってるだろ? 舞台装飾頑張ってくれないと、俺たち仕事できないよ?」
正直、今日は疲れ切っていて、こいつの相手はしたくない。こいつを連れていくと、また酒飲まされて、明日二日酔いになってしまうかもしれない。
「でもさ。ショー終わっちゃったら……」
少し寂しげな顔で、ケンジが言った。
「……今日は昨日の二日酔いで、きついんだ。帰って寝るよ」
スイはにっこり笑って、拒絶する。
「だからさ。明日のランチ一緒にどう?」
でも、一応はフォローしておく。もちろん、ナオも一緒だけど。とは、口には出さない。アキに二人っきりで飲みに行くなと言われているし、そんな束縛っぽい一言が今はすごく心地いいから、言うとおりにしたいと思う。
「うん! そうしよ。じゃ、俺仕事戻る! じゃあね。また、明日」
ぶんぶんと手を振りながら、ケンジが去って行った。
「弄ばれてるねー」
ふりふりとその背中に手を振りながら、ナオがぼそりと言った。
「失礼な言い方しないでくんない? これも『お仕事』ですから」
にっこりと営業用スマイルを浮かべると、少し驚いた顔をしてから、ナオはにやりと笑った。
「年の功ってやつ? こわいこわい」
首を竦めて、ナオは言った。
「はいはい。おっさんで悪うございました。あーところで飯。どこに行く?」
ケンジには帰ると言ったけれど、ナオの誘いまで断る気はなかった。確かに二日酔いだったが、それは昼までで、今はすっかり回復している。
資材搬入口を出て、道路へと歩き出す。
「そだなースイさんいいとこ知らない? 俺インドア派だから」
そう言いながらも、スマートフォンを取り出して、ナオは店を検索し始めた。
「インドア派は俺も一緒だって」
苦笑してスイもスマートフォンを取り出す。
しかし、そこで思わず足を止めてしまった。
「ごめん」
足をとめたスイに不思議そうに振り返ったナオに向かって、スイは言った。
「用事。できた。帰るよ」
スマートフォンにはアキからのメッセージが入っていた。
あいたい
そっち行っていい?
自然と笑顔になってしまうのを止められない。
その顔で何かを察したのだと思う。
「あー。うん。わかった。またね。アキ氏によろしく」
ひらりと手を振って、ナオは一人人混みの中に消えて行った。
その背中に『ありがとう』と小さく声をかける。
それから、再びスマートフォンに視線を移すと、アキのメッセージは丁度5時頃だった。
いいよ
何時頃来る?
メッセージを返す。すると、すぐに既読がついて、返ってきた答えに、スイは走り出した。
もう、ついてる。
「あ。スイさんまだ帰ってなかった。よかった。ね。ね。ご飯食べに行かない? もちろん。ナオさんも一緒にさ」
ケンジ。焦ってた。
という、ナオの一言が思い出される。彼は舞台装飾の係だ。多分、同僚はまだ仕事中だろう。それなのにこんなところでスイを待ち伏せて、食事に誘おうとは、本当に焦っているのかもしれない。
「ケンジ君。まだ、仕事残ってるだろ? 舞台装飾頑張ってくれないと、俺たち仕事できないよ?」
正直、今日は疲れ切っていて、こいつの相手はしたくない。こいつを連れていくと、また酒飲まされて、明日二日酔いになってしまうかもしれない。
「でもさ。ショー終わっちゃったら……」
少し寂しげな顔で、ケンジが言った。
「……今日は昨日の二日酔いで、きついんだ。帰って寝るよ」
スイはにっこり笑って、拒絶する。
「だからさ。明日のランチ一緒にどう?」
でも、一応はフォローしておく。もちろん、ナオも一緒だけど。とは、口には出さない。アキに二人っきりで飲みに行くなと言われているし、そんな束縛っぽい一言が今はすごく心地いいから、言うとおりにしたいと思う。
「うん! そうしよ。じゃ、俺仕事戻る! じゃあね。また、明日」
ぶんぶんと手を振りながら、ケンジが去って行った。
「弄ばれてるねー」
ふりふりとその背中に手を振りながら、ナオがぼそりと言った。
「失礼な言い方しないでくんない? これも『お仕事』ですから」
にっこりと営業用スマイルを浮かべると、少し驚いた顔をしてから、ナオはにやりと笑った。
「年の功ってやつ? こわいこわい」
首を竦めて、ナオは言った。
「はいはい。おっさんで悪うございました。あーところで飯。どこに行く?」
ケンジには帰ると言ったけれど、ナオの誘いまで断る気はなかった。確かに二日酔いだったが、それは昼までで、今はすっかり回復している。
資材搬入口を出て、道路へと歩き出す。
「そだなースイさんいいとこ知らない? 俺インドア派だから」
そう言いながらも、スマートフォンを取り出して、ナオは店を検索し始めた。
「インドア派は俺も一緒だって」
苦笑してスイもスマートフォンを取り出す。
しかし、そこで思わず足を止めてしまった。
「ごめん」
足をとめたスイに不思議そうに振り返ったナオに向かって、スイは言った。
「用事。できた。帰るよ」
スマートフォンにはアキからのメッセージが入っていた。
あいたい
そっち行っていい?
自然と笑顔になってしまうのを止められない。
その顔で何かを察したのだと思う。
「あー。うん。わかった。またね。アキ氏によろしく」
ひらりと手を振って、ナオは一人人混みの中に消えて行った。
その背中に『ありがとう』と小さく声をかける。
それから、再びスマートフォンに視線を移すと、アキのメッセージは丁度5時頃だった。
いいよ
何時頃来る?
メッセージを返す。すると、すぐに既読がついて、返ってきた答えに、スイは走り出した。
もう、ついてる。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

彩雲華胥
柚月なぎ
BL
暉の国。
紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。
名を無明。
高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。
暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。
※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。
※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。
※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜
高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる