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Internally Flawless
17 会合 4
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◇翡翠◇
いつもの機材置き場で機材と機材に挟まって、スイはキーボードを叩いていた。
頭上には、またあの警報機代わりのドローンが飛んでいる。しかし、これも、ユキとの逢瀬の後、改良して顔認識機能を付けたして、危険人物とそうでない人物を見分けられるようにしていた。といっても、危険でない人物なんて殆どいない。ここに来る可能性がある人物で危険人物でないのはナオくらいだ。
殆ど無意識でキーボードを叩きながら、スイは別のことを考えていた。
昼間見たあの老人のことだ。いや、ケンジのことでもある。そして、古家泰斗。あの昏い瞳の持ち主たちのことだ。
思い出すと身体が震える。5年間。できるだけ思い出さないことで自分を保っていたことだ。
思い出すのはもちろん怖い。あの数か月はトラウマと簡単に一言で片づけられるような経験ではなかった。きっと、アキとユキに出会わなかったら、あの記憶に押しつぶされて自分を失っていたと思う。
けれど、スイは出会った。
だから、この傷を乗り越えて行きたいと思うようになった。
だから、知りたい。あの昏い瞳がなんなのか。ただ、欲に塗れているだけではない。街で絡んでくるチンピラにあんな瞳をしている奴はいない。そこに何か強い。意思。のような方向性を感じる。内向きに開いた昏い底なしの穴に沈みこんでいくような、嫌な感覚だ。
『底なしの穴』という言葉に、スイは何か引っかかるものを感じて、手を止めた。
「底なしの穴……」
低く呟く。
ぴんぽん!
チャイムのような音がイヤホンから聞こえてきて、スイははっとした。ドローンが何かの接近を知らせている。しかし、この音はアラートではない。
「ナオ君?」
機材の間に収まったまま、スイは声をかけた。
「あれ? スイさんそこにいるの? え? なんで俺だって分かった??」
ドローンの機能は正常に働いてくれているらしい。このチャイムは危険でない人物の接近を知らせる音だった。
「人感センサーをつけたドローン飛ばしてるんだ」
PCをスリープモードにして機材の隙間から出ると、ナオはきょろきょろとスイを探している最中だった。一人になるなと言われても難しいので、せめている場所だけでもとナオに断ってここで仕事をしていたのだ。
「一応、防犯対策」
掌を広げると、センサーが反応してゴルフボール大のドローンが下りてくる。
「へえ。静かだね。気付かなかった」
まじまじとそれをナオが見つめる。
「そうでもないよ? でも、生活音に紛れる程度までは音を抑えてあるから、ここみたいに道路の近くだと気付くのは難しいかも」
興味津津のナオにそれを預けたまま、PCをバッグにしまう。
「そろそろ上がる?」
問いかけると、ドローンをひっくり返して見ていたナオは頷いた。
「うん。お偉いさん方が来たから、電飾間に合ってないって。リハは今日中には無理だから、かえっていいってさ」
昼間の重役方の来訪は舞台設営班には寝耳に水で、時間がないというのに舞台を占拠されて設営が大幅に遅れていた。スイやナオはPC担当なので、舞台が完成しないと仕事にならない。もちろん、プログラム自体は完成しているので、残業する必要もない。
いつもの機材置き場で機材と機材に挟まって、スイはキーボードを叩いていた。
頭上には、またあの警報機代わりのドローンが飛んでいる。しかし、これも、ユキとの逢瀬の後、改良して顔認識機能を付けたして、危険人物とそうでない人物を見分けられるようにしていた。といっても、危険でない人物なんて殆どいない。ここに来る可能性がある人物で危険人物でないのはナオくらいだ。
殆ど無意識でキーボードを叩きながら、スイは別のことを考えていた。
昼間見たあの老人のことだ。いや、ケンジのことでもある。そして、古家泰斗。あの昏い瞳の持ち主たちのことだ。
思い出すと身体が震える。5年間。できるだけ思い出さないことで自分を保っていたことだ。
思い出すのはもちろん怖い。あの数か月はトラウマと簡単に一言で片づけられるような経験ではなかった。きっと、アキとユキに出会わなかったら、あの記憶に押しつぶされて自分を失っていたと思う。
けれど、スイは出会った。
だから、この傷を乗り越えて行きたいと思うようになった。
だから、知りたい。あの昏い瞳がなんなのか。ただ、欲に塗れているだけではない。街で絡んでくるチンピラにあんな瞳をしている奴はいない。そこに何か強い。意思。のような方向性を感じる。内向きに開いた昏い底なしの穴に沈みこんでいくような、嫌な感覚だ。
『底なしの穴』という言葉に、スイは何か引っかかるものを感じて、手を止めた。
「底なしの穴……」
低く呟く。
ぴんぽん!
チャイムのような音がイヤホンから聞こえてきて、スイははっとした。ドローンが何かの接近を知らせている。しかし、この音はアラートではない。
「ナオ君?」
機材の間に収まったまま、スイは声をかけた。
「あれ? スイさんそこにいるの? え? なんで俺だって分かった??」
ドローンの機能は正常に働いてくれているらしい。このチャイムは危険でない人物の接近を知らせる音だった。
「人感センサーをつけたドローン飛ばしてるんだ」
PCをスリープモードにして機材の隙間から出ると、ナオはきょろきょろとスイを探している最中だった。一人になるなと言われても難しいので、せめている場所だけでもとナオに断ってここで仕事をしていたのだ。
「一応、防犯対策」
掌を広げると、センサーが反応してゴルフボール大のドローンが下りてくる。
「へえ。静かだね。気付かなかった」
まじまじとそれをナオが見つめる。
「そうでもないよ? でも、生活音に紛れる程度までは音を抑えてあるから、ここみたいに道路の近くだと気付くのは難しいかも」
興味津津のナオにそれを預けたまま、PCをバッグにしまう。
「そろそろ上がる?」
問いかけると、ドローンをひっくり返して見ていたナオは頷いた。
「うん。お偉いさん方が来たから、電飾間に合ってないって。リハは今日中には無理だから、かえっていいってさ」
昼間の重役方の来訪は舞台設営班には寝耳に水で、時間がないというのに舞台を占拠されて設営が大幅に遅れていた。スイやナオはPC担当なので、舞台が完成しないと仕事にならない。もちろん、プログラム自体は完成しているので、残業する必要もない。
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