遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

16 論破 4

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「なに? 君は苦労もしないで手に入るそんな幸運だけが自慢なわけ? てか、俺にとっては別に幸運でも何でもないし。こんなのほしいならいくらでもあげるよ? ま、薬でも使わないとあげることもできないけどね」

 薬という言葉は意図的に使った。それがただの噂でも、そうでなかったとしても、彼女の耳には入っているはずだ。
 案の定、彼女の表情が硬くなる。恐らく薬を使ってはいないだろう。でなければ、その髪や瞳をそこまで自慢したりはできないはずだ。ただ、そう思われるだけでも彼女には屈辱なのだと思う。だからこその挑発だ。

「こんなもんくらいで『神に愛されてる』とか、お手軽すぎ」

 レイは唇を噛んで、にらみ返してくる。その視線も無表情のまま受け止める。

「あ。ごめん。俺みたいに貧弱な普通のおっさんに外見のことでとやかく言われたくないよな。……や。でも、俺って『神に愛されてる』んだっけ? じゃあ、言ってもいい?」

 うって変わって笑顔をつくって、それでも挑むようにスイは言った。

「俺の世界には神様なんていないよ? これはただの遺伝子の気まぐれ。
 知ってる? 男が翠の髪と瞳両方持って生まれる確率。試算してみたら、200万分の1だって。ちなみに、女性が緑の髪と瞳で生まれる確率は10万分の1。
 でも、それだって、君の脚が長いのとも、俺がいくら食っても太らないのとも、あそこのおじさんの頭が禿げてるのとも、同じこと。ただの確率の問題だ。
 君が自慢しているそれは隕石が家の庭に落ちてきたことを自分の実力だと自慢しているのに等しい。そこには神の力なんて何も介在していないよ」

 言いたい放題言って少しすっきりしてきた。

「本当に神に愛されてる人がいるとしたら……優しい両親のもとに生まれて、何不自由なく育って、困難を乗り越えながら生きて、家族に囲まれて老衰で死ねる人のことじゃない? あ。じゃ、君はやっぱり、神に愛されているかもよ? 何不自由ないんだろ? 俺は無理だけど」

 何度も言うが、スイは髪の色や瞳の色などどうでもいいから、普通に生きたかったと思っている。その人生ではアキやユキに会えなかったというなら、どんなに辛い思いをしても今のままでもよかったと思うけれど。
 だから、これは、裕福で愛情深い親の元に生まれた彼女への羨望も入っていたのだと思う。彼女が自慢すべきは容姿ではなく、そんな優しい両親のことではないだろうか。

「まあ、とにかく。だ。そんなことを自慢して他人にひけらかしている暇があったら、中学生に戻って敬語と劣性遺伝の勉強をし直してきなさい。でないと、5年。や。3年後にはお父さんしか振り向いてくれなくなるよ」

 自分が童顔なのは知っている。それで大抵はまだ20代前半どころか、20歳前後に間違われる。だから、散々馬鹿にされた上に上から目線でそんな風に言われたら、絶対に腹が立つことくらいは分かっている。分かっているから、トドメを刺したのだ。
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