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Internally Flawless
16 論破 1
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◇翡翠◇
イベントホールに戻ると、中はやけに騒がしかった。
どうやら、ショーに出演するモデルが来ているらしい。さらに、モデル事務所の重役やら、キングスクラウンの重役やら、デザイナーやら、スポンサーのお偉いさんやら、スーツ姿のおっさんたちが勢揃いしていた。
殆どの顔はナオに渡された資料で見たことがある。しかし、スポンサーだと思われる顔にはちらほらと見たことのない顔があった。
「まだ、本番でもないのに……随分と仰々しいね」
近くに寄ってきた男が小声で声をかけてくる。
「なんでこんなに?」
近寄ってきたのはアキの廉価版と称されたタイガだ。スイも小声で返す。
スケジュールにはモデルの来訪は記されていたが、重役のお歴々が来ることは書かれてはいなかった。
「どうも、レイ目当てらしいよ?」
どうやら、重役のおっさん方の気まぐれらしい。それで、設営のスケジュールに遅れが出る現場の都合は全く意に介していない。迷惑なことだ。と、ため息が漏れる。
「彼女、今回のショーの花形だからね」
と、言いつつ、彼の目は全くモデルを見ていない。もちろん、重役方を見ているわけでもない。
さっきから、じっとりとした目で見つめられて、寒気がする。
「スイさん。今日はなんだか雰囲気が違うね?」
すす。と、近くに寄ってこられて、思わず寄られただけ後ろに下がる。
ナオに言われた『愛されオーラ』? 本当にそんなものが出ているんだろうか。スイは思う。ケンジにも昨日までと違うと言われた。確かにアキと仲直りできたから、表情が明るくなったかもしれないけれど、他に変わったところがあるとは思えない。
「すごく……綺麗だ」
わかりやすく避けたのにも関わらず、まだ近くに顔を寄せられて囁かれると、ぞぞっと、悪寒が走った。
「あー。タイガさん。あの人知ってます?」
それに気付いたのか、わざとスイとタイガの間に割り込むようにして、ナオが指をさした人物は初老の男性でナオの資料には名前がなかった人物だった。
「ん? あ。あれはここのオーナーだよ」
割り込んできたナオに少し不快そうな顔をしてから、タイガが答える。それから、答えてやったんだからどっか行けとばかりに睨みを利かせる。
「ここの? こんな大きなホールのオーナーって……個人で?」
追いやられそうになったナオの代わりに、スイが質問すると今度は、タイガは完全見られる位置を確認して作り込んだのが分かるイケメン笑顔でスイに微笑んだ。
「そうだよ。このあたりに幾つもマンションや貸倉庫を持ってる資産家の人。ああ。そういえば、田川通りにある高層マンションもあの人の持ちものだよ。家賃収入だけで悠々自適って夢だよね」
タイガはナオの時とは打って変わって、スイからの質問には答える気満々のようで、聞いてもいない情報までいろいろと話してくれた。
「キングスクラウンのショーは大体ここのホールを使っているし、スポンサーとして金も出してるみたいだよ。完全な個人の道楽らしいから、名前は載っていないけどね。
あんな感じで、自分自身はとても地味な感じだけど、他のブランドにもホールを貸したりしてる。モデルをしてる頃には何度か話したことがあるけれど、綺麗なものが好きだから、私財を注ぎ込むことも全く苦にならないって、モデルたちに大盤振る舞いだったな」
オーナーと彼に紹介された人物を見つめる。グレーの髪の痩せた老人だった。容貌はいたって普通だ。深い皺が刻まれた顔も。後ろに撫でつけた髪も。伸びた背筋も。地味だが仕立の良さそうなスーツも。ただ、その黒い瞳には強烈な意志のようなものを感じた。
イベントホールに戻ると、中はやけに騒がしかった。
どうやら、ショーに出演するモデルが来ているらしい。さらに、モデル事務所の重役やら、キングスクラウンの重役やら、デザイナーやら、スポンサーのお偉いさんやら、スーツ姿のおっさんたちが勢揃いしていた。
殆どの顔はナオに渡された資料で見たことがある。しかし、スポンサーだと思われる顔にはちらほらと見たことのない顔があった。
「まだ、本番でもないのに……随分と仰々しいね」
近くに寄ってきた男が小声で声をかけてくる。
「なんでこんなに?」
近寄ってきたのはアキの廉価版と称されたタイガだ。スイも小声で返す。
スケジュールにはモデルの来訪は記されていたが、重役のお歴々が来ることは書かれてはいなかった。
「どうも、レイ目当てらしいよ?」
どうやら、重役のおっさん方の気まぐれらしい。それで、設営のスケジュールに遅れが出る現場の都合は全く意に介していない。迷惑なことだ。と、ため息が漏れる。
「彼女、今回のショーの花形だからね」
と、言いつつ、彼の目は全くモデルを見ていない。もちろん、重役方を見ているわけでもない。
さっきから、じっとりとした目で見つめられて、寒気がする。
「スイさん。今日はなんだか雰囲気が違うね?」
すす。と、近くに寄ってこられて、思わず寄られただけ後ろに下がる。
ナオに言われた『愛されオーラ』? 本当にそんなものが出ているんだろうか。スイは思う。ケンジにも昨日までと違うと言われた。確かにアキと仲直りできたから、表情が明るくなったかもしれないけれど、他に変わったところがあるとは思えない。
「すごく……綺麗だ」
わかりやすく避けたのにも関わらず、まだ近くに顔を寄せられて囁かれると、ぞぞっと、悪寒が走った。
「あー。タイガさん。あの人知ってます?」
それに気付いたのか、わざとスイとタイガの間に割り込むようにして、ナオが指をさした人物は初老の男性でナオの資料には名前がなかった人物だった。
「ん? あ。あれはここのオーナーだよ」
割り込んできたナオに少し不快そうな顔をしてから、タイガが答える。それから、答えてやったんだからどっか行けとばかりに睨みを利かせる。
「ここの? こんな大きなホールのオーナーって……個人で?」
追いやられそうになったナオの代わりに、スイが質問すると今度は、タイガは完全見られる位置を確認して作り込んだのが分かるイケメン笑顔でスイに微笑んだ。
「そうだよ。このあたりに幾つもマンションや貸倉庫を持ってる資産家の人。ああ。そういえば、田川通りにある高層マンションもあの人の持ちものだよ。家賃収入だけで悠々自適って夢だよね」
タイガはナオの時とは打って変わって、スイからの質問には答える気満々のようで、聞いてもいない情報までいろいろと話してくれた。
「キングスクラウンのショーは大体ここのホールを使っているし、スポンサーとして金も出してるみたいだよ。完全な個人の道楽らしいから、名前は載っていないけどね。
あんな感じで、自分自身はとても地味な感じだけど、他のブランドにもホールを貸したりしてる。モデルをしてる頃には何度か話したことがあるけれど、綺麗なものが好きだから、私財を注ぎ込むことも全く苦にならないって、モデルたちに大盤振る舞いだったな」
オーナーと彼に紹介された人物を見つめる。グレーの髪の痩せた老人だった。容貌はいたって普通だ。深い皺が刻まれた顔も。後ろに撫でつけた髪も。伸びた背筋も。地味だが仕立の良さそうなスーツも。ただ、その黒い瞳には強烈な意志のようなものを感じた。
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