遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

15 捜査 6

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「SNSの方は全部調べたよ。多分、間違いない。……ここからはかなりのグレーゾーンっていうか……多分アウトな感じだけど……いいかな? いいなら、明後日には『取引先』をリストアップできるよ」

 警察の仕事を受けるのは、初めてではないのだが、公的機関の仕事をする場合、情報の信憑性や確実性とともに、それを得た過程にすら気を使わないとならない。その情報がどこからもたらされたかということが、いや、言ってしまえばその方法が合法か、違法かということが非常に重要視される。
 最悪グレーゾーンなら、後でなんとでも帳尻を合わせることはできるのだが、完全アウトな方法で得た情報は裁判の際、証拠とすることができない。たとえそれが真実だとしても。
 そのアウトな方法の最たるものがハッキングだ。もちろん、スイにとってはそれが一番手っ取り早くて確実だと思っている方法だ。

「アウト……かあ。後でどうやって帳尻合わせようかな。また、どっか飛ばされちゃうかなー」

 本庁勤務のキャリアであった彼がN署に飛ばされた理由の一端はこのアウト情報に基づく捜査をしたせいらしい。それで助かった命があるにも関わらず、彼はエリートキャリアの道をはじかれてしまった。
 スイが警察を信用しないのは、彼のような人間がはじかれて閑職に追いやられているせいでもある。

「『現品』が見つかればいいんだけど……全部を特定するのは多分難しい。これ以上時間掛けたら……」

 正直、スイにとっては、情報を得る過程の話など、どうでもいいのだ。こんな仕事をしている以上、正義漢を気取る気はない。けれど、いやだからこそ、事件が解決すること。それで辛い思いをしている人が救われること。大事なことはそれだけだと思う。
 これ以上時間をかけると、被害を受けている人に取り返しのつかない傷が残るかもしれない。いや、今この瞬間にも、きっと取り返しのつかないほどの傷を被害者は受けているのだ。
 そのことを考えるだけで、心が痛む。多分、同じ様な痛みを知っているスイには他人事には思えなかった。

「本当は今すぐに助けてあげたい……でも、失敗したら残ったコは……命の危険がある」

 ただ、一人を助けるために焦って大多数を犠牲にするわけにはいかない。
 そのジレンマにスイも苦しんでいた。

「スイさん。全部完璧にやろうなんて、無理だよ。俺たちはできることをやるしかない」

 やりきれない気持が表情に出てしまっていたのだと思う。ナオが励ますように言った。
 普段、彼は飄々として掴みどころがなく、少しシニカルな印象を受ける。しかし、僅か3週間だが、一緒にいて気付いた。彼はとても他人の感情に敏感で優しすぎるほど優しい人物なのだ。

「そうだな」

 だから、スイはその励ましを素直に受けることにした。今は、せめて少しでも早く情報を集めることだけが、自分たちにできることだと思う。

「てか。はやく食べないと、休憩時間終わるよ?」

 あってなきがごとしの休憩時間なのだが、あまりのんびりはしていられない。
 ゆっくり食べる間もなく、それぞれの昼食をかきこんで、スイとナオは仕事に戻った。
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