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Internally Flawless
14 幸福 3
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◇直◇
ふわああ。と、大きなあくびをして、ナオは目をこすった。仕事に出てきたものの、さっきからPCの前でうつらうつらとしているばかりで、仕事は全く進んでいない。
結局、アキとの電話の後、セイジと二人して、M駅前の居酒屋を片っ端から走りまわって、そのうちの一軒でスイとよく似た人物が来ていたということまでは突き止めた。その時点ですでに10時を回っていて、もちろん、スイどころか、ケンジの姿もそこにはなかった。
さらに、セイジが、田川通りのコンビニの前で起きた喧嘩の片方が明らかにスイの特徴と一致していることも突き止めて、聞き込みをすると『あの緑のおにいさん、めっちゃ強いねー』とか、『あいつら連続強姦事件の犯人だって噂あったし』とか、『ぼろぼろ泣きながらぼっこぼこにしてて、きもちよかったー』とか、『やらなきゃ、あのおにーさんがヤられてたでしょ』とか、足取りを掴むには全く役に立たない上に、不穏当な発言のオンパレードだった。
これって、バレたらアキさんに殺されるんじゃ……?
と、不安になっていた頃に、ようやくアキから連絡が来た。ナオにではなくセイジのところに。
『喧嘩の件はお前の方でうまく誤魔化しといて』
だそうだ。もちろん、スイはすでにアキが確保しているらしい。とりあえず、スイが無事だったことには安堵するが、相変わらずのアキの傍若無人ぶりにため息が出た。
連絡が来たのは、午前1時過ぎ。
いったい、そんな時間まで連絡を忘れるほどのナニをヤっていたのかと思うと、余計にため息が出た。
「おはよう。ナオ君」
後ろから声をかけられて、ナオははっとして振り返った。
そして、振り返ったところで固まった。
「……スイ……さん?」
スイは今日は黒のハイネックのインナーにゆったりとした浅黄色のジップアップのパーカーを羽織っていた。ボトムはスキニーの黒のジーンズで、少しごつめのブーツを履いている。
目元が赤い。昨日と同じで伊達メガネでそれを隠していた。それから、いつもは束ねている髪を解いている。
「昨日は……ごめん。探してくれたんだって? ちゃんと、店の名前ラインしとけばよかったな」
声が少し掠れている。
「あ……うん。いや。……スイさん?」
失礼か。とも、思った。けれど、ナオはスイの上から下までじっくりともう一度観察してしまった。そして、理解したことが一つある。
初めてスイに出会った日に、セイジが言っていた一言。その時は、ドン引きしたのだが、今、その意味が分かった。たしか、その時、セイジは見れば分かると主張していた。セイジのいう通りだった。見たら分かった。
あれ、絶対アキさんとヤってる。
それが、今のこの状態なのだと、ナオは理解したのだ。
「なに?」
小首をかしげて、彼は細い指で髪をかきあげて、耳にかける。はらりと揺れる翠の髪。はっとするほどに、綺麗になっている。
いや。もともと、綺麗だったのかもしれないのだが、気付いていなかった。別に隠していたわけでも、隠れていたわけでもないだろう。けれど、今日はわかってしまう。最早、駄々洩れと言ってもいい。
「……アキさんと仲直りできたんだ……」
「え? や。その……喧嘩……してたの……知ってた?」
その少し赤く染まった頬も。泣きはらしたであろう翡翠の色の目元も。伏し目がちの瞼を縁どる翠色の睫毛も。細い首に多分残っているだろうその跡を隠すための黒いハイネックのラインも。細い指先も。どきりとするほど、綺麗だ。
ふわああ。と、大きなあくびをして、ナオは目をこすった。仕事に出てきたものの、さっきからPCの前でうつらうつらとしているばかりで、仕事は全く進んでいない。
結局、アキとの電話の後、セイジと二人して、M駅前の居酒屋を片っ端から走りまわって、そのうちの一軒でスイとよく似た人物が来ていたということまでは突き止めた。その時点ですでに10時を回っていて、もちろん、スイどころか、ケンジの姿もそこにはなかった。
さらに、セイジが、田川通りのコンビニの前で起きた喧嘩の片方が明らかにスイの特徴と一致していることも突き止めて、聞き込みをすると『あの緑のおにいさん、めっちゃ強いねー』とか、『あいつら連続強姦事件の犯人だって噂あったし』とか、『ぼろぼろ泣きながらぼっこぼこにしてて、きもちよかったー』とか、『やらなきゃ、あのおにーさんがヤられてたでしょ』とか、足取りを掴むには全く役に立たない上に、不穏当な発言のオンパレードだった。
これって、バレたらアキさんに殺されるんじゃ……?
と、不安になっていた頃に、ようやくアキから連絡が来た。ナオにではなくセイジのところに。
『喧嘩の件はお前の方でうまく誤魔化しといて』
だそうだ。もちろん、スイはすでにアキが確保しているらしい。とりあえず、スイが無事だったことには安堵するが、相変わらずのアキの傍若無人ぶりにため息が出た。
連絡が来たのは、午前1時過ぎ。
いったい、そんな時間まで連絡を忘れるほどのナニをヤっていたのかと思うと、余計にため息が出た。
「おはよう。ナオ君」
後ろから声をかけられて、ナオははっとして振り返った。
そして、振り返ったところで固まった。
「……スイ……さん?」
スイは今日は黒のハイネックのインナーにゆったりとした浅黄色のジップアップのパーカーを羽織っていた。ボトムはスキニーの黒のジーンズで、少しごつめのブーツを履いている。
目元が赤い。昨日と同じで伊達メガネでそれを隠していた。それから、いつもは束ねている髪を解いている。
「昨日は……ごめん。探してくれたんだって? ちゃんと、店の名前ラインしとけばよかったな」
声が少し掠れている。
「あ……うん。いや。……スイさん?」
失礼か。とも、思った。けれど、ナオはスイの上から下までじっくりともう一度観察してしまった。そして、理解したことが一つある。
初めてスイに出会った日に、セイジが言っていた一言。その時は、ドン引きしたのだが、今、その意味が分かった。たしか、その時、セイジは見れば分かると主張していた。セイジのいう通りだった。見たら分かった。
あれ、絶対アキさんとヤってる。
それが、今のこの状態なのだと、ナオは理解したのだ。
「なに?」
小首をかしげて、彼は細い指で髪をかきあげて、耳にかける。はらりと揺れる翠の髪。はっとするほどに、綺麗になっている。
いや。もともと、綺麗だったのかもしれないのだが、気付いていなかった。別に隠していたわけでも、隠れていたわけでもないだろう。けれど、今日はわかってしまう。最早、駄々洩れと言ってもいい。
「……アキさんと仲直りできたんだ……」
「え? や。その……喧嘩……してたの……知ってた?」
その少し赤く染まった頬も。泣きはらしたであろう翡翠の色の目元も。伏し目がちの瞼を縁どる翠色の睫毛も。細い首に多分残っているだろうその跡を隠すための黒いハイネックのラインも。細い指先も。どきりとするほど、綺麗だ。
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