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Internally Flawless
13 融解 5
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「その時は、大丈夫だったのか?」
その日は、アキの部屋のドアの前まで行って、そこで寝た。アキを起こして、一緒にいてもらいたかったけれど、どうしたのかと聞かれた時、どうこたえていいのか分からなかった。
「……二人がうちにいてくれたから、大丈夫」
スイの表情に『大丈夫』ではなかったと、アキは察したのだと思う。
「じゃあ、スイさん。この仕事終わってさ。うちに帰ったら、一緒の部屋で寝るようにしようか?」
アキの提案にスイはこくり。と、頷いた。
部屋を分けたのは三人でいるという少し変わった関係のせいで、元々一緒のベッドルームにするのが嫌だったわけではない。
「……きっと。アキ君がいてくれたら、あんな夢……。」
あんな夢。という言葉に、その夢のことを少しだけ思い出す。多分、それが表情に出てしまったのだと思う。
「大丈夫? ごめん。も、こんな話やめようか」
アキが優しく背中を撫でてくれる。心まで癒してくれようとしているようで、温かい気持ちになった。
「大丈夫。夢を見るのは……たぶん。あの……二人以外に、身体を触られたり、厭らしい言葉をかけられたりしたときとか。……今回はあいつ。今同じ職場にいるやつなんだけど……ケンジって人。告られた時、見た顔が『あの人』に似てた……から」
あの昏い穴を覗きこんでいるような気持ちの悪い感覚。相手のことなんて一遍も思いやってはいないくせに、愛してるとか、好きだとか、押しつけようとする歪んだ偏執のような好意。
それが、アキとの喧嘩で弱っていた心に付け込んできたのだと思う。
けれど、喧嘩がその一因になっていることは、言えない。アキのせいには絶対にしたくなかった。
「古家のこと……思い出しちゃたんだと思う」
古家と名前を出すと、アキが一瞬だけ不快そうな顔をする。でも、それはほんの一瞬で、アキは笑ってくれた。
「ん。話してくれて、ありがとな。
……それと、ごめん。俺が、スイさんのこと傷つけたからだな」
結局、何も言わなかったのに、アキは分かってくれていた。
「俺、スイさんのこと、もっと大事にするから。スイさんも、俺たちから離れて行こうとなんてしないでよ?
スイさんは守られるだけじゃ嫌だっていうかもしれないけど、スイさんがいて、守られてるのは俺たちも同じだ。ただ、方法が違うだけだろ?
スイさんが毎日PCに向かってることも、キッチンに立ってることも、どんだけ俺たちを守ってくれてるのか、俺もユキもちゃんと分かってる」
アキの言葉に、不意に涙が溢れてきた。
「スイさん?」
確かに、スイの戦闘技術では二人を守ることなんてできない。意地になって喧嘩までしてしまったけれど、身体的には自分が劣っていることはちゃんと分かっていた。そして、それをアキが心配してくれているのも分かっていた。でも、認めたくなかった。自分が役に立てないと思いたくなかった。ずっと、一緒にいたいから。
だから、スイ自身が自信を持てることで、二人を守っているのだと、アキが認めてくれたのが、嬉しかった。二人の傍にいていいのだと言ってもらえた気がした。
多分、ほしかったのはこの言葉だったのだと、気付いた。
「ん。……も、どこにも行かない……。今度のことが終わったら、ずっと、アキ君と一緒にいる」
すりすりと、すり寄るようにアキの胸に顔を埋める。
「……だから……離さないで」
「了解」
スイの言葉に応えるように、スイを抱くアキの腕に力がこもる。
そうして、抱き合って、眠りについた。
その日は、アキの部屋のドアの前まで行って、そこで寝た。アキを起こして、一緒にいてもらいたかったけれど、どうしたのかと聞かれた時、どうこたえていいのか分からなかった。
「……二人がうちにいてくれたから、大丈夫」
スイの表情に『大丈夫』ではなかったと、アキは察したのだと思う。
「じゃあ、スイさん。この仕事終わってさ。うちに帰ったら、一緒の部屋で寝るようにしようか?」
アキの提案にスイはこくり。と、頷いた。
部屋を分けたのは三人でいるという少し変わった関係のせいで、元々一緒のベッドルームにするのが嫌だったわけではない。
「……きっと。アキ君がいてくれたら、あんな夢……。」
あんな夢。という言葉に、その夢のことを少しだけ思い出す。多分、それが表情に出てしまったのだと思う。
「大丈夫? ごめん。も、こんな話やめようか」
アキが優しく背中を撫でてくれる。心まで癒してくれようとしているようで、温かい気持ちになった。
「大丈夫。夢を見るのは……たぶん。あの……二人以外に、身体を触られたり、厭らしい言葉をかけられたりしたときとか。……今回はあいつ。今同じ職場にいるやつなんだけど……ケンジって人。告られた時、見た顔が『あの人』に似てた……から」
あの昏い穴を覗きこんでいるような気持ちの悪い感覚。相手のことなんて一遍も思いやってはいないくせに、愛してるとか、好きだとか、押しつけようとする歪んだ偏執のような好意。
それが、アキとの喧嘩で弱っていた心に付け込んできたのだと思う。
けれど、喧嘩がその一因になっていることは、言えない。アキのせいには絶対にしたくなかった。
「古家のこと……思い出しちゃたんだと思う」
古家と名前を出すと、アキが一瞬だけ不快そうな顔をする。でも、それはほんの一瞬で、アキは笑ってくれた。
「ん。話してくれて、ありがとな。
……それと、ごめん。俺が、スイさんのこと傷つけたからだな」
結局、何も言わなかったのに、アキは分かってくれていた。
「俺、スイさんのこと、もっと大事にするから。スイさんも、俺たちから離れて行こうとなんてしないでよ?
スイさんは守られるだけじゃ嫌だっていうかもしれないけど、スイさんがいて、守られてるのは俺たちも同じだ。ただ、方法が違うだけだろ?
スイさんが毎日PCに向かってることも、キッチンに立ってることも、どんだけ俺たちを守ってくれてるのか、俺もユキもちゃんと分かってる」
アキの言葉に、不意に涙が溢れてきた。
「スイさん?」
確かに、スイの戦闘技術では二人を守ることなんてできない。意地になって喧嘩までしてしまったけれど、身体的には自分が劣っていることはちゃんと分かっていた。そして、それをアキが心配してくれているのも分かっていた。でも、認めたくなかった。自分が役に立てないと思いたくなかった。ずっと、一緒にいたいから。
だから、スイ自身が自信を持てることで、二人を守っているのだと、アキが認めてくれたのが、嬉しかった。二人の傍にいていいのだと言ってもらえた気がした。
多分、ほしかったのはこの言葉だったのだと、気付いた。
「ん。……も、どこにも行かない……。今度のことが終わったら、ずっと、アキ君と一緒にいる」
すりすりと、すり寄るようにアキの胸に顔を埋める。
「……だから……離さないで」
「了解」
スイの言葉に応えるように、スイを抱くアキの腕に力がこもる。
そうして、抱き合って、眠りについた。
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