遠くて近い世界で

司書Y

文字の大きさ
上 下
270 / 414
Internally Flawless

13 融解 3

しおりを挟む
 もぞもぞと着替えながら、スイはアキが汚れたシーツをはがして、新しいシーツをマットレスにかけているのをじっと見ていた。背中だけじゃなくて、広い肩も、腕も、すごく高い位置にある腰も、何もかもすごく綺麗だ。

「あのさ。スイさん……」

 背中を向けたまま、アキが言う。

「え?」

 あんまり綺麗な背中に見入っていたせいで、スイはなんだか間抜けな声で返事をしてしまった。

「そんなに見つめられると、穴開きそうなんだけど……」

 シーツを代え終わって、くるり。と振りむいたアキは少しだけ複雑な顔。

「俺の背中、そんなに好き?」

 ぼっ。と。音が出そうなほどスイの顔が赤くなる。確かに見つめてはいたけれど、気付かれているとは思わなかった。恥ずかしい。

「……さっきまであんなに大胆だったのに、そんなことで真っ赤になっちゃうんだ」

 にっこりと笑って、アキはスイの隣に座った。

「その顔、可愛いな」

 アキはずるい。

「ね。スイさん黙ってないで。声、聞かせて?」

 喧嘩した時はあんなに横暴だったくせに。その後だって、散々スイのことを放っておいたくせに。こんな風に急に甘やかして、沢山愛して、夢中にさせて、好き以外になにも考えられなくなってしまう。

「……アキ君はズルい」

 だから、スイは思わず呟いた。

「ズルい俺は嫌い?」

 さらり。と、アキの指が髪を梳く。真っすぐ真剣に見つめる赤い瞳に、今更だけれど、鼓動が早くなる。

「嫌い。……じゃない。好きだよ」

 嫌い。だなんて、嘘でも言えなかった。これが全部夢で、言ってしまったらその夢が冷めてしまいそうで怖かった。

「も。喧嘩とかしたくない……」

 会えなかった間考え続けたことが、口から零れる。

「そばにいないと。怖い。あのモデルの子……綺麗だけど、嫌いだ。アキ君とユキ君のそばにいてほしくない。ああ。こういうの。ホント嫌だ。誰かに嫉妬するのとか、やだ。俺、みっともない」

 こんなことを言うつもりではなかった。困らせたくないし、折角二人きりの時間をこんな気持ちで過ごすのはもったいない。
 けれど、一旦溢れ出してしまった言葉をスイは止めることができなかった。

「夢……怖かった。も。忘れなきゃってわかってるけど。怖い。ごめん。……ごめん。聞きたくないよな。こんなの。でも、あいつ……今日、一緒にいたあいつ。あの人に似てて……」

 溢れ出した言葉を精査する余裕がない。だめだ。と思う前に、思いつくまま言葉になってしまう。
 アキはスイの細い肩に手を回して、抱き寄せてくれた。肩に頭を預けると、アキの匂いがする。

「なんでも聞くから。なんでも言っていいよ。聞かせて。
 ずっと、スイさんの声。聞きたかった。俺ももう、喧嘩とかしたくない。
 スイさんの顔見られないのも、声聞けないのも拷問だった。嫉妬してくれたのは正直嬉しかったけど、スイさんが嫉妬する必要なんてねえよ。俺はスイさんしか好きじゃねえし。多分、ユキも同じだ」

 ちゅ。と、スイの翠の髪にキスをして、アキが立ち上がる。

「ベッド行こ?」

 それから、また、スイの身体を抱きあげて、ベッドまで運んでくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

とろけてまざる

ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで── 表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

彩雲華胥

柚月なぎ
BL
 暉の国。  紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。  名を無明。  高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。  暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。 ※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。 ※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。 ※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

処理中です...