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Internally Flawless
11 榛 4
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「行かない……あいつ……きらいだし……」
じっと見つめていたアキの目から、僅かに視線を逸らして、スイが言う。
「ホントは……もう、会いたくもない」
「ちょ。まってよ。なんかされたんじゃないだろうな?」
スイの表情の変化に、急に不安になる。素人とはいえ、スイ自身よりかなり大柄な男10人を息一つ乱さないでボッコボコにしたスイに、まさかとは思うけれど、何かよからぬことができるようなヤツなんだろうか。そんな男が、ユキ以外にスイの近くにいるというのか。
「別に……なにもされてはいない? けど……や。告白? なのかな? されたけど……あ。あと、髪触られたし、頬触られたし、部屋に来いとか言われて……きもち悪かった」
「はあ!?」
思わず声が裏返る。
告白!? 部屋に呼ばれた!? 俺の(ここ強調)スイさんの髪や、頬にさわっただと。
実際、アキの頭の中は混乱を極めていた。やはり、たった数週間ではなかったのだと、後悔する。それから、やはり、スイの幼いまでの無防備さは危険すぎると再確認した。
自分は間違っていなかったのだ。誰の目から見てもスイは可愛くて、綺麗で、危なっかしくて、だから手に入れて自分だけのものにしたいし、守りたい。もしくは泣かせたい。そう思っているのは自分だけでなくて、そのスイの魅力に捕らわれた不届きものが現れるのだって、想定内だったはずだ。なのに、結局そんなヤツにすら接近を許してしまった。
そんな頭の中の混乱をよそに、努めて冷静を装って、アキはスイの肩に手を置いた。
「スイさん。も、潜入捜査止めよ? そんなヤツ居る所に返したくない」
容姿が整っていて、庇護欲を煽るような、人物。と聞いて、アキだってまっ先にスイを思い浮かべた。だから、焦って強引なやり方で潜入捜査に反対した。
アキは思う。
ただ、現状は、当初思っていた危険と形が違う。いや。同じかもしれないけど、犯罪者だけが危険ではなかった。あるいは、そいつが犯罪者だって可能性もある。
とにかく、これ以上、スイをそんなところに置いておきたくなかった。
「……アキ君がそういうなら……やめるけど……でも……も。犯人わかったし……最後までやっちゃ駄目かな?」
「はあ!?」
こともなげに、可愛らしい顔で、かなりショッキングな発言があった気がする。
いや、しかし、スイなら、ありうることだ。催眠療法事件の時も、菱川の襲撃の時も、スイには全部お見通しだったではないか。
「スタッフ側で事件に関与してるヤツは分かったよ。ただ、『黒幕』と、『工場』が分からない。スタッフの中の犯人にはちゃんと気を付けるから。も、ちょっとやりたいな」
上目づかいに、潤んだ瞳でスイが聞いてくる。アキはこの顔にはめっぽう弱い。きっと、スイが最初から、この顔をしていたら、どうにか折り合いをつけて『副業』を許可していたと思う。
可愛い人のおねだりにアキはもう、喧嘩していたことなんて全部許してしまえる。と、思ってしまった。思ったら負けだとわかっていても、惚れた弱味だ。
「ごめん。犯人の名前までは言えないけど……守秘義務あるし。でも、ナオ君がいいって言ったらちゃんと説明するから」
アキの心の内はともかく、すべてお見通しのスイに、アキは陥落した。
この魔法使いをやはり甘く見すぎていたらしい。
「わかった。でも、約束してくれ。なるべく、一人にならないように注意すること。ナオに聞いた。スイさんすぐにどっかいっちゃうってさ」
頬を擽るように撫でると、スイは素直に頷いた。あの時の頑なさが嘘のように素直で愛らしい仕草だった。
「ありがと」
それから、スイの方から背伸びしてキスをくれた。
「大好きだよ。アキ君」
あまり見えないけれど、きっと花が開くような笑顔をしてくれているのだろう。その笑顔がみられるだけで、アキは本当は幸せなのだ。そして、それが傷ついてしまうのが何よりも怖い。
じっと見つめていたアキの目から、僅かに視線を逸らして、スイが言う。
「ホントは……もう、会いたくもない」
「ちょ。まってよ。なんかされたんじゃないだろうな?」
スイの表情の変化に、急に不安になる。素人とはいえ、スイ自身よりかなり大柄な男10人を息一つ乱さないでボッコボコにしたスイに、まさかとは思うけれど、何かよからぬことができるようなヤツなんだろうか。そんな男が、ユキ以外にスイの近くにいるというのか。
「別に……なにもされてはいない? けど……や。告白? なのかな? されたけど……あ。あと、髪触られたし、頬触られたし、部屋に来いとか言われて……きもち悪かった」
「はあ!?」
思わず声が裏返る。
告白!? 部屋に呼ばれた!? 俺の(ここ強調)スイさんの髪や、頬にさわっただと。
実際、アキの頭の中は混乱を極めていた。やはり、たった数週間ではなかったのだと、後悔する。それから、やはり、スイの幼いまでの無防備さは危険すぎると再確認した。
自分は間違っていなかったのだ。誰の目から見てもスイは可愛くて、綺麗で、危なっかしくて、だから手に入れて自分だけのものにしたいし、守りたい。もしくは泣かせたい。そう思っているのは自分だけでなくて、そのスイの魅力に捕らわれた不届きものが現れるのだって、想定内だったはずだ。なのに、結局そんなヤツにすら接近を許してしまった。
そんな頭の中の混乱をよそに、努めて冷静を装って、アキはスイの肩に手を置いた。
「スイさん。も、潜入捜査止めよ? そんなヤツ居る所に返したくない」
容姿が整っていて、庇護欲を煽るような、人物。と聞いて、アキだってまっ先にスイを思い浮かべた。だから、焦って強引なやり方で潜入捜査に反対した。
アキは思う。
ただ、現状は、当初思っていた危険と形が違う。いや。同じかもしれないけど、犯罪者だけが危険ではなかった。あるいは、そいつが犯罪者だって可能性もある。
とにかく、これ以上、スイをそんなところに置いておきたくなかった。
「……アキ君がそういうなら……やめるけど……でも……も。犯人わかったし……最後までやっちゃ駄目かな?」
「はあ!?」
こともなげに、可愛らしい顔で、かなりショッキングな発言があった気がする。
いや、しかし、スイなら、ありうることだ。催眠療法事件の時も、菱川の襲撃の時も、スイには全部お見通しだったではないか。
「スタッフ側で事件に関与してるヤツは分かったよ。ただ、『黒幕』と、『工場』が分からない。スタッフの中の犯人にはちゃんと気を付けるから。も、ちょっとやりたいな」
上目づかいに、潤んだ瞳でスイが聞いてくる。アキはこの顔にはめっぽう弱い。きっと、スイが最初から、この顔をしていたら、どうにか折り合いをつけて『副業』を許可していたと思う。
可愛い人のおねだりにアキはもう、喧嘩していたことなんて全部許してしまえる。と、思ってしまった。思ったら負けだとわかっていても、惚れた弱味だ。
「ごめん。犯人の名前までは言えないけど……守秘義務あるし。でも、ナオ君がいいって言ったらちゃんと説明するから」
アキの心の内はともかく、すべてお見通しのスイに、アキは陥落した。
この魔法使いをやはり甘く見すぎていたらしい。
「わかった。でも、約束してくれ。なるべく、一人にならないように注意すること。ナオに聞いた。スイさんすぐにどっかいっちゃうってさ」
頬を擽るように撫でると、スイは素直に頷いた。あの時の頑なさが嘘のように素直で愛らしい仕草だった。
「ありがと」
それから、スイの方から背伸びしてキスをくれた。
「大好きだよ。アキ君」
あまり見えないけれど、きっと花が開くような笑顔をしてくれているのだろう。その笑顔がみられるだけで、アキは本当は幸せなのだ。そして、それが傷ついてしまうのが何よりも怖い。
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