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Internally Flawless
11 榛 3
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「アキ君」
唇が離れると、ようやくスイの顔がアキの方を向いた。はっきりとは見えないが、その瞳がこちらに向いているのがわかる。
「ごめん。辛い思いさせて悪かった。スイさんが悪いんじゃない。嫌いになんてなるはずないだろ? いつだって、俺はスイさんのことが好きだよ?」
耳元で囁くと、びく。と、その細い身体が揺れて、それから、躊躇いがちにその手がアキの背中にまわされた。ぎゅ。と、縋りつくようにその身体が密着してくる。
「……って……連絡……くれな……った」
ぐすぐすと、鼻を鳴らしながら、掠れた声でスイが言う。まるで、幼い子供のようだ。自分がほんの少し目を離してしまったためにどれだけ辛い思いをさせたのかと思うと、後悔ばかりが心に浮かんだ。
「ごめん。返事来ないかもと思ったら、怖くて送れなかった」
だから、アキは素直に懺悔した。正直、自分が正しいとか、スイに自覚してほしいとか、そんなことすら、今はどうでもよかった。もう、嘘や、強がりでその可愛い人を苦しめたくなかった。
「……でんわ……女の人……あのモデルさん。なんで、あんな時間に……」
暗闇の中、今度は少し責めるような声。やはり、アキが心配した通り、スイは、昨夜の電話を誤解しているようだった。
家族や恋人なら(それでも非常識だとは思うけれど)ともかく、赤の他人のスマートフォンの電話に頼まれてもいないのに出ることなんて普通に考えたら、ありえない。しかも、あんな時間に一緒にいたのだ。スイが誤解してもおかしくはなかった。
「スイさんと同じ。仕事だよ。朝焼けをバックに撮影したいって、カメラマンが駄々こねたから。信じられなかったら調べてもいいよ」
その言葉を信じてくれたのか、すりすりと甘えるみたいにスイが服に顔を擦り寄せてくる。
忙しくても、着替えてきて正解だった。仕事用のスーツにはあの女の香水がたっぷりとついてしまっていた。そんなもので、また、彼を悲しませたくない。
「電話。スイさんの方からしてくれて、嬉しかった。でも、出られなくてごめん。……ユキに聞いてないか? 警護対象者、他人のスマホ勝手にイジるようなヤツだって」
腕の中でスイが小さく頷く。
「大体。あの女は無理。絶対無理。あんな髪や瞳の色してたら、スイさんと比べちまう。あの女がスイさんに勝てるとこなんて、爪の長さとヒールの高さくらいだろ。あ。も一つあったわ。性格の悪さ」
言ってから、スイを抱きしめる手に力を入れる。長く離れていたせいなのか、泣いているからなのか、その身体はいつもより細く小さく感じた。
「俺はスイさんだけでいいよ。スイさんが許してくれるなら、ずっとそばにいる」
少しだけ、苦しげに身を捩って、スイが顔を上げる。そこまで近づけば、暗くてもスイの顔が少しだけ見えた。
「……じゃあ。……毎日連絡……くれる?」
暗闇でも、目元が泣きはらして腫れているのが分かる。それが、痛々しくて、アキはそこに口づけた。
「スイさんが許してくれるなら、毎日LINEする」
それから、瞼にも鼻先にも頬にもキスをする。
「電話も……ほしい。声、聞きたい」
擽ったそうに身を竦めてから、スイが言った。
「じゃ。電話もするし、時間作って会いに行く。だから……」
ちゅ。と、軽く唇にもキスをして、アキはスイの瞳を覗きこんだ。ふわ。と香る香りがいつもの彼の匂いと少し違っていて、心が痛む。きっと、一緒に飲んでいたという、男の移り香だと思う。
「も、スイさんのこと狙ってるような男と二人で飲みに行ったりしないで。仕事だとしても。だよ? スイさんになにかあったら、俺、そいつにナニするかわかんないよ?」
嫉妬していることは、カッコ悪くて知られたくない。多分、隠してもわかってしまうだろうけれど、スイの前ではカッコつけたい。だから、できるだけ優しく笑いかけると、スイも泣きながら少し笑ってくれた。
唇が離れると、ようやくスイの顔がアキの方を向いた。はっきりとは見えないが、その瞳がこちらに向いているのがわかる。
「ごめん。辛い思いさせて悪かった。スイさんが悪いんじゃない。嫌いになんてなるはずないだろ? いつだって、俺はスイさんのことが好きだよ?」
耳元で囁くと、びく。と、その細い身体が揺れて、それから、躊躇いがちにその手がアキの背中にまわされた。ぎゅ。と、縋りつくようにその身体が密着してくる。
「……って……連絡……くれな……った」
ぐすぐすと、鼻を鳴らしながら、掠れた声でスイが言う。まるで、幼い子供のようだ。自分がほんの少し目を離してしまったためにどれだけ辛い思いをさせたのかと思うと、後悔ばかりが心に浮かんだ。
「ごめん。返事来ないかもと思ったら、怖くて送れなかった」
だから、アキは素直に懺悔した。正直、自分が正しいとか、スイに自覚してほしいとか、そんなことすら、今はどうでもよかった。もう、嘘や、強がりでその可愛い人を苦しめたくなかった。
「……でんわ……女の人……あのモデルさん。なんで、あんな時間に……」
暗闇の中、今度は少し責めるような声。やはり、アキが心配した通り、スイは、昨夜の電話を誤解しているようだった。
家族や恋人なら(それでも非常識だとは思うけれど)ともかく、赤の他人のスマートフォンの電話に頼まれてもいないのに出ることなんて普通に考えたら、ありえない。しかも、あんな時間に一緒にいたのだ。スイが誤解してもおかしくはなかった。
「スイさんと同じ。仕事だよ。朝焼けをバックに撮影したいって、カメラマンが駄々こねたから。信じられなかったら調べてもいいよ」
その言葉を信じてくれたのか、すりすりと甘えるみたいにスイが服に顔を擦り寄せてくる。
忙しくても、着替えてきて正解だった。仕事用のスーツにはあの女の香水がたっぷりとついてしまっていた。そんなもので、また、彼を悲しませたくない。
「電話。スイさんの方からしてくれて、嬉しかった。でも、出られなくてごめん。……ユキに聞いてないか? 警護対象者、他人のスマホ勝手にイジるようなヤツだって」
腕の中でスイが小さく頷く。
「大体。あの女は無理。絶対無理。あんな髪や瞳の色してたら、スイさんと比べちまう。あの女がスイさんに勝てるとこなんて、爪の長さとヒールの高さくらいだろ。あ。も一つあったわ。性格の悪さ」
言ってから、スイを抱きしめる手に力を入れる。長く離れていたせいなのか、泣いているからなのか、その身体はいつもより細く小さく感じた。
「俺はスイさんだけでいいよ。スイさんが許してくれるなら、ずっとそばにいる」
少しだけ、苦しげに身を捩って、スイが顔を上げる。そこまで近づけば、暗くてもスイの顔が少しだけ見えた。
「……じゃあ。……毎日連絡……くれる?」
暗闇でも、目元が泣きはらして腫れているのが分かる。それが、痛々しくて、アキはそこに口づけた。
「スイさんが許してくれるなら、毎日LINEする」
それから、瞼にも鼻先にも頬にもキスをする。
「電話も……ほしい。声、聞きたい」
擽ったそうに身を竦めてから、スイが言った。
「じゃ。電話もするし、時間作って会いに行く。だから……」
ちゅ。と、軽く唇にもキスをして、アキはスイの瞳を覗きこんだ。ふわ。と香る香りがいつもの彼の匂いと少し違っていて、心が痛む。きっと、一緒に飲んでいたという、男の移り香だと思う。
「も、スイさんのこと狙ってるような男と二人で飲みに行ったりしないで。仕事だとしても。だよ? スイさんになにかあったら、俺、そいつにナニするかわかんないよ?」
嫉妬していることは、カッコ悪くて知られたくない。多分、隠してもわかってしまうだろうけれど、スイの前ではカッコつけたい。だから、できるだけ優しく笑いかけると、スイも泣きながら少し笑ってくれた。
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