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Internally Flawless
11 榛 1
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◇秋生◇
スイのメッセージを見て、アキは走っていた。田川通りは、駅前通りのM街大通りから一本入った裏路地だ。全く人通りがないというわけではないのだが、この時間になると通りの店は閉まって、街灯も少なく、明るいのはところどころにあるコンビニと、消えかけた街灯の明かりくらいだ。
スイの返信は一度きりで、居場所を知らせてきただけだった。そのメッセージが届いたときアキがいた場所は、M街通りの駅を挟んだ反対側で、スイのいる所まで行くには待ち時間の長い信号を幾つも越えなければならなかった。
それでも、もうすぐに田川通りに入れる。と思った時。前方の信号が赤になった。
無視をしようかとも思ったが、車通りが激しい。
舌打ちをして、アキは足をとめた。
スマートフォンを確認するが、スイからのメッセージはない。
『まだ、そこにいる?』
送っても、既読もつかない。心配で、不安で、ため息が漏れた。
1秒が長くて、息が詰まる。
傷ついていないだろうか。嫌な思いをしていないだろうか。泣いていないだろうか。
思い出す顔は苦しそうな顔ばかりで、苛立ちと、心配だけが降り積もっていく。
「……翡翠」
信号が変わった瞬間にまた、走り出す。人混みをかきわけて、アキは田川通りに入った。目当てのコンビニはすぐそこだ。
しかし、コンビニの前に、スイの姿はなかった。
かわりに、少し先、街灯消えていて少し暗くなっているあたりに、人だかりができている。
悪い予感がして、アキはそちらに走った。通り過ぎる人が話す声が聞こえる。
『喧嘩だって』
『泣きながら、10人ものしたらしいよ』
『めっちゃほっそいおにいさんだった』
それだけで、もう、状況が理解できた。泣きながらという言葉に、気が逸る。人だかりをかきわけると、そこにアキが焦がれた人の姿があった。
倒れて呻く男は本当に10人近くいた。全員意識はあるし、外傷は殆どないのだが、口から泡のような血を噴いている。
その真ん中にスイがいた。
勝ち誇るでも、睨みつけるでもなく、ただ、無表情で倒れて呻く男たちを見下ろしている。その瞳はいつもの翠なのに、全く違う色に見えた。
スイは髪も息も乱れてもいない。恐らく、一方的な勝負だったのだと思う。それなのに。
その頬を涙が伝う。
幾筋も。幾筋も。
何が彼をそんな顔にさせているのかと思うと、胸がつぶれてしまいそうに痛んだ。
「……スイさん」
アキの言葉に不意にはっとスイが顔を上げた。
「……アキ……くん」
さっきまでの無表情が嘘のように苦しそうに眉を寄せて、スイがアキの名前を呼ぶ。色がなかった瞳にいつもの翡翠の色が戻った。瞳の端に新しい涙が溜まって、零れる。それが痛々しくて、拭いてあげたくてアキは手を伸ばした。
その時だった。
遠くから、サイレンの音が聞こえる。パトカーだ。恐らく、通報されたのだろう。今は、捕まりたくない。
ち。と、舌打ちして、アキはスイの腕を掴んだ。
「行くよ?」
そのまま走り出す。抵抗することなく、スイはアキに従って走り出した。
スイのメッセージを見て、アキは走っていた。田川通りは、駅前通りのM街大通りから一本入った裏路地だ。全く人通りがないというわけではないのだが、この時間になると通りの店は閉まって、街灯も少なく、明るいのはところどころにあるコンビニと、消えかけた街灯の明かりくらいだ。
スイの返信は一度きりで、居場所を知らせてきただけだった。そのメッセージが届いたときアキがいた場所は、M街通りの駅を挟んだ反対側で、スイのいる所まで行くには待ち時間の長い信号を幾つも越えなければならなかった。
それでも、もうすぐに田川通りに入れる。と思った時。前方の信号が赤になった。
無視をしようかとも思ったが、車通りが激しい。
舌打ちをして、アキは足をとめた。
スマートフォンを確認するが、スイからのメッセージはない。
『まだ、そこにいる?』
送っても、既読もつかない。心配で、不安で、ため息が漏れた。
1秒が長くて、息が詰まる。
傷ついていないだろうか。嫌な思いをしていないだろうか。泣いていないだろうか。
思い出す顔は苦しそうな顔ばかりで、苛立ちと、心配だけが降り積もっていく。
「……翡翠」
信号が変わった瞬間にまた、走り出す。人混みをかきわけて、アキは田川通りに入った。目当てのコンビニはすぐそこだ。
しかし、コンビニの前に、スイの姿はなかった。
かわりに、少し先、街灯消えていて少し暗くなっているあたりに、人だかりができている。
悪い予感がして、アキはそちらに走った。通り過ぎる人が話す声が聞こえる。
『喧嘩だって』
『泣きながら、10人ものしたらしいよ』
『めっちゃほっそいおにいさんだった』
それだけで、もう、状況が理解できた。泣きながらという言葉に、気が逸る。人だかりをかきわけると、そこにアキが焦がれた人の姿があった。
倒れて呻く男は本当に10人近くいた。全員意識はあるし、外傷は殆どないのだが、口から泡のような血を噴いている。
その真ん中にスイがいた。
勝ち誇るでも、睨みつけるでもなく、ただ、無表情で倒れて呻く男たちを見下ろしている。その瞳はいつもの翠なのに、全く違う色に見えた。
スイは髪も息も乱れてもいない。恐らく、一方的な勝負だったのだと思う。それなのに。
その頬を涙が伝う。
幾筋も。幾筋も。
何が彼をそんな顔にさせているのかと思うと、胸がつぶれてしまいそうに痛んだ。
「……スイさん」
アキの言葉に不意にはっとスイが顔を上げた。
「……アキ……くん」
さっきまでの無表情が嘘のように苦しそうに眉を寄せて、スイがアキの名前を呼ぶ。色がなかった瞳にいつもの翡翠の色が戻った。瞳の端に新しい涙が溜まって、零れる。それが痛々しくて、拭いてあげたくてアキは手を伸ばした。
その時だった。
遠くから、サイレンの音が聞こえる。パトカーだ。恐らく、通報されたのだろう。今は、捕まりたくない。
ち。と、舌打ちして、アキはスイの腕を掴んだ。
「行くよ?」
そのまま走り出す。抵抗することなく、スイはアキに従って走り出した。
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