遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

10 嫌悪 5

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 ◇翡翠◇

 店を出ると、スイは人混みを避けて、人通りの疎らな裏路地を歩いていた。
 とにかく何もかも嫌で。他人に肩先が触れただけで、吐きそうになる。誰かに呼ばれたような気がして、振り返るのが怖くて、早足になる。
 静かな場所に来たからなのか、ふいに鞄の中のスマートフォンが微かに振動しているのに気がついた。見ると、LINEの着信を知らせる緑の明かりが点滅している。
 鞄から取り出して、電源を入れる。
 着信先はいくつかあった。林家直。小鳥遊冬生。それから、小鳥遊秋生の文字。

「アキ君……」

 その文字を見て、スイは足をとめた。

「……1時間前……」

 丁度ケンジと人混みを歩いていた頃だと思う。騒がしくて気付いていなかった。
 震える手でメッセージを開く。

『あいたい』

 急いでいたのか漢字変換もされていなかった。
 もう、その文字を見たら、堪えることができなかった。必死に堪えていた涙が零れる。

『M駅前にいる?』

『どこにいる?』

『へんじして』

 アキに会いたい。
 返信を返したいけれど、涙で滲んで文字が見えない。何度も何度も手の甲で涙をぬぐいながら、必死でタップする。一文字を打つのがもどかしい。

『田川通り。ファミマの近く』

 それだけ送るのが精一杯だった。その一言を送るほんの数秒の間にスマートフォンの画面に幾つも涙が落ちる。
 すぐに既読がついて、スマートフォンが震える。

『すぐいく』

『そこにいて』

 立て続けに二つのメッセージ。
 胸が痛くて、苦しかった。
 でも、指定したコンビニは少しだけ先にあるから、早く会いたくて、スイは走り出そうとした。
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