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Internally Flawless
10 嫌悪 2
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注文していたビールが届いて、ケンジはそこで言葉を区切った。
「ささ。スイさん乾杯しよー!」
言われるままにジョッキを差し出す。
「かんぱーい」
ジョッキを合わせてから、口を付ける。
正直、全くうまいとは感じなかった。これは酔いそうだと少しだけ不安になる。
でも、これは仕事なのだと、また、同じ言葉を繰り返して、不安も一緒に全部心に押し込めた。
「ケンジ君は。さ。その。なんで、俺なんか誘ったりすんの?」
正直、この話題は避けたい。避けたいけれど、聞きたいことを聞き出すために、話題を少しでも盛り上げなければ。と、スイは自傷覚悟で話題を振った。
「なんでって。スイさんのこといいなって思ってるからに決まってんじゃん」
ずっとはぐらかし続けていた話題をスイの方から振られて、少し驚いたように、ケンジが答える。表情にあの時のような昏い色は見えない。
「俺、君より随分年上だと思うけど、そゆうの気にならない?」
ジョッキを置いて、お通しを箸の先で弄んでから、わざと少し上目づかいを心掛けて視線を送ると、分かりやすくケンジが顔を赤らめた。
「ならない! だってスイさん綺麗だし! 髪の色もだけど、瞳の色すげえ綺麗で。マリりんも、ルナさんも言ってたけど、肌もヤバい。綺麗。言ったじゃん。俺、美術に命捧げてんの! だから、綺麗な人は大好き」
外見のことばかりをいくつもあげつらうケンジに、彼は自分の何を見ているのだろうと、憤りを感じる。
「目の色とか……そゆうのって、大事かな?」
スイは自分自身の容姿が好きではない。ただ珍しいくらいしか意味のないものを大袈裟に綺麗と言われて持ち上げられても、ご機嫌取りをされているようで不快になるだけだった。
「大事だよ! だってさ。最終的には性格とかも大事だけど、最初は外見からはいるのが当然でしょ? 少なくとも俺にとってはすげえ大問題!」
力説されて、何も言えなくなってしまう。
「スイさんは? 俺の第一印象は合格点?」
よく考えてみるとその質問が少しおかしいことは分かる。普通に考えたら、男の自分が好きなのは女性だと思うのではないだろうか。現在は同性婚も、同性愛もかなり市民権を得てはいるが、異性を好きな人間が大多数であることは間違いない。ただ、スイの子供の頃にはまだ同性婚が認められていなかったけれど、ケンジはその時代を知らない。だから、感覚自体が違うのだろうか。
「俺は、女の子がいい」
だから、スイは答えた。実際、スイは女性が嫌いなわけではない。初めて付き合った人は女性だったし、苦手なのは人付き合いであって、女性ではない。
「は? うそ。そんなことないよね?」
けれど、ケンジはあっさりと否定する。
何故、そんなことを決めつけられなければいけないんだろう。と、疑問に思う。
「どうして? 俺が女の子好きじゃおかしい?」
そう言って、ケンジの瞳を覗きこむ。本当は怖かった。けれど、仕事なのだと、今日になってもう何度、繰り返したかも分からない言葉を心の中で繰り返す。
「や。そいうわけじゃないけど。……なんてえかさ。そう言うのってわかるっていうか。スイさんが女の子としてるとことか、想像つかないっていうか……や。そうじゃなくて、ごめん。違うんだ。俺、スイさんに一目ぼれしたから、そうであってほしいって思っただけ」
急にケンジは歯切れが悪くなった。さっきまではぐいぐい。と、無遠慮に覗き込んでいたスイから目を逸らして、わざとらしくビールに口をつけたり、焦っておしぼりで口元を拭ったりしていた。挙動不審。という言葉がスイの頭に浮かぶ。
「ささ。スイさん乾杯しよー!」
言われるままにジョッキを差し出す。
「かんぱーい」
ジョッキを合わせてから、口を付ける。
正直、全くうまいとは感じなかった。これは酔いそうだと少しだけ不安になる。
でも、これは仕事なのだと、また、同じ言葉を繰り返して、不安も一緒に全部心に押し込めた。
「ケンジ君は。さ。その。なんで、俺なんか誘ったりすんの?」
正直、この話題は避けたい。避けたいけれど、聞きたいことを聞き出すために、話題を少しでも盛り上げなければ。と、スイは自傷覚悟で話題を振った。
「なんでって。スイさんのこといいなって思ってるからに決まってんじゃん」
ずっとはぐらかし続けていた話題をスイの方から振られて、少し驚いたように、ケンジが答える。表情にあの時のような昏い色は見えない。
「俺、君より随分年上だと思うけど、そゆうの気にならない?」
ジョッキを置いて、お通しを箸の先で弄んでから、わざと少し上目づかいを心掛けて視線を送ると、分かりやすくケンジが顔を赤らめた。
「ならない! だってスイさん綺麗だし! 髪の色もだけど、瞳の色すげえ綺麗で。マリりんも、ルナさんも言ってたけど、肌もヤバい。綺麗。言ったじゃん。俺、美術に命捧げてんの! だから、綺麗な人は大好き」
外見のことばかりをいくつもあげつらうケンジに、彼は自分の何を見ているのだろうと、憤りを感じる。
「目の色とか……そゆうのって、大事かな?」
スイは自分自身の容姿が好きではない。ただ珍しいくらいしか意味のないものを大袈裟に綺麗と言われて持ち上げられても、ご機嫌取りをされているようで不快になるだけだった。
「大事だよ! だってさ。最終的には性格とかも大事だけど、最初は外見からはいるのが当然でしょ? 少なくとも俺にとってはすげえ大問題!」
力説されて、何も言えなくなってしまう。
「スイさんは? 俺の第一印象は合格点?」
よく考えてみるとその質問が少しおかしいことは分かる。普通に考えたら、男の自分が好きなのは女性だと思うのではないだろうか。現在は同性婚も、同性愛もかなり市民権を得てはいるが、異性を好きな人間が大多数であることは間違いない。ただ、スイの子供の頃にはまだ同性婚が認められていなかったけれど、ケンジはその時代を知らない。だから、感覚自体が違うのだろうか。
「俺は、女の子がいい」
だから、スイは答えた。実際、スイは女性が嫌いなわけではない。初めて付き合った人は女性だったし、苦手なのは人付き合いであって、女性ではない。
「は? うそ。そんなことないよね?」
けれど、ケンジはあっさりと否定する。
何故、そんなことを決めつけられなければいけないんだろう。と、疑問に思う。
「どうして? 俺が女の子好きじゃおかしい?」
そう言って、ケンジの瞳を覗きこむ。本当は怖かった。けれど、仕事なのだと、今日になってもう何度、繰り返したかも分からない言葉を心の中で繰り返す。
「や。そいうわけじゃないけど。……なんてえかさ。そう言うのってわかるっていうか。スイさんが女の子としてるとことか、想像つかないっていうか……や。そうじゃなくて、ごめん。違うんだ。俺、スイさんに一目ぼれしたから、そうであってほしいって思っただけ」
急にケンジは歯切れが悪くなった。さっきまではぐいぐい。と、無遠慮に覗き込んでいたスイから目を逸らして、わざとらしくビールに口をつけたり、焦っておしぼりで口元を拭ったりしていた。挙動不審。という言葉がスイの頭に浮かぶ。
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