遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

08 障壁 2

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 縋るような思いで、スイはアキの番号をタップした。

「……たすけ……て。アキ……くん」

 コール音が続く。アキは出ない。スマートフォンを持つ手も震えていた。時間が恐ろしく長い。一回のコールがまるで数時間のように感じる。

「アキ君……おねが……」

 6回のコールの後に、電話が繋がった。

「……アキ君」

 震える声で名前を呼ぶと、繋がってはいるのだが、答えがない。
 そこではっとする。
 まだ、アキは怒っているのだろうか。いや、きっと、怒っているのだ。自分のことでいっぱいいっぱいで忘れていた。意地を張って飛び出しておいて、こんな時間に電話をかけて、不機嫌にならない方がおかしい。

「アキ君。あの……ごめ……」

「あなた、だれ?」

 しかし、聞こえてきたのは、アキの声ではなかった。少し低めの女性の声。それは、聞き覚えのある声だった。

 あのモデルの子だ。

 思うのと、電話を切るのが同時だった。

「……なんで?」

 混乱していると、スマートフォンが着信を知らせてくる。画面には『小鳥遊秋生』の文字。でも、出ることはできなかった。もし、あの女性が出たらと思うと、怖くて出られない。
 スマートフォンを投げ出してソファにおいてあったクッションを幾つもその上に投げつける。
 それから、ベッドに入って頭から毛布をかぶった。耳を塞ぐ。何も聞きたくなかった。

「……やだ」

 涙が溢れて止まらない。
 過去の痛い記憶と、目の前の現実と、喧嘩をしたあの日のことが、頭の中でぐちゃぐちゃになって、胸がつぶれてしまいそうだった。

 夢に追いつかれた……どうしたらいい? 逃げられない?
 だれか、そばにいて。怖い。アキ君。ユキ君。
 あいつやだ。ケンジにはもう、会いたくない。怖い。気持ち悪い。
 どうして、あの人がアキ君のスマホもってんの? どうして? あの人と一緒にいるってこと?
 ユキ君に迷惑かけたくない。かけちゃだめだ。ユキ君に会いたい。
 だめだ。だめだ。だめだ。ユキ君に泰斗さんのこと、知られたら。きっと。
 どうして、喧嘩なんてしちゃったんだろう。意地なんて張るんじゃなかった。
 アキ君に、嫌われた。嫌われたくない。
 俺のことは、も。いらないの?
 スマホ。うるさい! 出たくない。消えろ!
 怖い。
 怖い。
 怖い。
 アキ君。そばにいて。

 きつく目を閉じ、耳を塞いで、身体を小さく丸めて、必死に耐えるしかなかった。
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