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Internally Flawless
08 障壁 1
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◇翡翠◇
「っ!!!」
目覚めた時、そこがどこなのか、スイにはすぐには分からなかった。
天井の照明は消えて、壁の間接照明だけの薄暗い明り。8畳ほどのワンルームの部屋の窓際にベッド。反対側の壁にPCデスク。無駄なものはなにも置いてはいない。殆どの家具は黒で揃えてある。唯一色があるのはベッドのシーツで淡い水色だった。
「……どこ?」
おそるおそるあたりを見回すと、次第に意識がはっきりしてきて、自分の今の状況が分かってくる。
そこは、スイが今回の仕事用に借りている部屋だ。
少しだけ目を閉じるつもりが、電気をつけたまま、ソファで眠ってしまったらしい。
「……おちつ……け」
身体が震える。奥歯がかちかち。と、音を立てる。涙が溢れだして、止まらない。自分自身の腕で自分の身体を抱きしめるようにすると、身体が冷え切っているのが分かった。
「……やば……い」
呟くと、嘔吐感が込み上げてきて、シンクに走る。昨夜食べた物を全部吐きだすと、吐き気はおさまったが、震えは止まってくれなかった。
「ど……しよ……」
悪夢に追いつかれてしまった。
翡翠は思う。
それは、あの頃の夢だった。
昼間見たケンジのあの表情。昏い穴を見るようなあの感覚だった。泰斗に感じていて恐怖と同種の気持ちの悪い感覚。あの場にいたときは無意識に思い出すまいと心に蓋をして押し殺していた。けれど、心は誤魔化しきれなかった。
おそらくは、ケンジとの接触が引き金になっている。
しかし、そんなことが分かっても意味なんてなかった。
「……どう……しよう……」
身体の震えが止まらない。
思い出したくないのに、夢の内容を思い出してしまう。
あの場所に監禁されていた当初、ただ痛いと泣き叫んで暴れる自分を、男はつくりかえようとしていた。点滴の中にドラッグを入れられて、男性なら絶対に逆らえない性感帯を長時間嬲られ続けて、壊れそうになった頃に意識が飛ぶまで何度も犯された。繰り返しているうちに、痛みはなくなり、身体は反応を示すようになったが、男に対する嫌悪感は増すばかりで、男がいなくなると、吐き続け、泣き続けた。
その頃の夢。
「どう……しよう……」
倒れこむようにソファに戻って、スマートフォンを見ると、時間は明け方の4時だった。ユキは夕方仕事だったから、今は寝ているだろう。その眠りを妨げたくない。スイのことをいつも気にかけて、心配してくれるユキに負担をかけたくないし、仕事の邪魔をしたくはない。
その上、ユキは泰斗とのことを知らない。いつか話す日は来るかもしれないけれど、まだ若いユキにそんなものを背負わせたくないと、まだ、そのことは話せずにいた。こんな状況で電話をしたら、取り乱して全部知られてしまう。それが怖い。
「っ!!!」
目覚めた時、そこがどこなのか、スイにはすぐには分からなかった。
天井の照明は消えて、壁の間接照明だけの薄暗い明り。8畳ほどのワンルームの部屋の窓際にベッド。反対側の壁にPCデスク。無駄なものはなにも置いてはいない。殆どの家具は黒で揃えてある。唯一色があるのはベッドのシーツで淡い水色だった。
「……どこ?」
おそるおそるあたりを見回すと、次第に意識がはっきりしてきて、自分の今の状況が分かってくる。
そこは、スイが今回の仕事用に借りている部屋だ。
少しだけ目を閉じるつもりが、電気をつけたまま、ソファで眠ってしまったらしい。
「……おちつ……け」
身体が震える。奥歯がかちかち。と、音を立てる。涙が溢れだして、止まらない。自分自身の腕で自分の身体を抱きしめるようにすると、身体が冷え切っているのが分かった。
「……やば……い」
呟くと、嘔吐感が込み上げてきて、シンクに走る。昨夜食べた物を全部吐きだすと、吐き気はおさまったが、震えは止まってくれなかった。
「ど……しよ……」
悪夢に追いつかれてしまった。
翡翠は思う。
それは、あの頃の夢だった。
昼間見たケンジのあの表情。昏い穴を見るようなあの感覚だった。泰斗に感じていて恐怖と同種の気持ちの悪い感覚。あの場にいたときは無意識に思い出すまいと心に蓋をして押し殺していた。けれど、心は誤魔化しきれなかった。
おそらくは、ケンジとの接触が引き金になっている。
しかし、そんなことが分かっても意味なんてなかった。
「……どう……しよう……」
身体の震えが止まらない。
思い出したくないのに、夢の内容を思い出してしまう。
あの場所に監禁されていた当初、ただ痛いと泣き叫んで暴れる自分を、男はつくりかえようとしていた。点滴の中にドラッグを入れられて、男性なら絶対に逆らえない性感帯を長時間嬲られ続けて、壊れそうになった頃に意識が飛ぶまで何度も犯された。繰り返しているうちに、痛みはなくなり、身体は反応を示すようになったが、男に対する嫌悪感は増すばかりで、男がいなくなると、吐き続け、泣き続けた。
その頃の夢。
「どう……しよう……」
倒れこむようにソファに戻って、スマートフォンを見ると、時間は明け方の4時だった。ユキは夕方仕事だったから、今は寝ているだろう。その眠りを妨げたくない。スイのことをいつも気にかけて、心配してくれるユキに負担をかけたくないし、仕事の邪魔をしたくはない。
その上、ユキは泰斗とのことを知らない。いつか話す日は来るかもしれないけれど、まだ若いユキにそんなものを背負わせたくないと、まだ、そのことは話せずにいた。こんな状況で電話をしたら、取り乱して全部知られてしまう。それが怖い。
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