81 / 414
FiLwT
幕間 夜想曲『告白前夜』 2
しおりを挟む
「ど……して?」
声が漏れる。
S県にある愛生会H病院。その特別室。そこに翡翠はいた。H病院は菱川組の傘下で泰斗がトップを務めるプロジェクトの中核病院だった。院長以下、全ては泰斗の思うままに動かすことができる。
怪我をしてから3週間。その病院の集中治療室で処置を受けていたらしい。
目が覚めてからも絶対安静で、PCに触ることすら許されなかった。
そして、その間に、理佐を襲って、自分を撃った犯人は菱川の報復で命を落としたらしい。犯人だという男たちは防犯カメラに映った男たちだった。泰斗への復讐のために妹である理佐を襲ったのだそうだ。
それを、まるまる全部信じたわけじゃない。
それでは、鍵が開いていた理由がわからない。
泰斗の家の鍵を持っている人物は、泰斗と翡翠。理佐の他にはいないはずだった。
その疑問への答えが。そこにあった。
理佐の元恋人という医者は、理佐の死に疑問があると近づいてきた。その男に渡されたPCで自宅の防犯カメラを覗き見ると、サーバーに残された映像は改竄されていた。
そして、消された最後の映像。
そこには見たこともない残忍な笑みを浮かべる、泰斗がいた。
「なんで……泰斗さんが?」
ベッドを下りて、床に座りこみ、翡翠は画面を見ていた。PCを触らせようとしない泰斗から、それを隠すためだったのだが、見たことの意味が分からなくて、立ち上がれなくなってしまった。
「……なんで。理佐を……俺を……」
かた。
と、僅かな物音がして、翡翠はびくりと身体を竦ませた。音のする方を振り向くと、そこには泰斗がいた。
「……泰斗……さん」
表情がない。ただ、じっと、翡翠の持っているPCを凝視して、動かない。
「……どして?」
呟くと、泰斗がゆっくりと翡翠の方に歩きだした。
「泰斗……さ」
翡翠の前までくると、彼の持っているPCをいきなり奪い取って、壁に叩きつける。
「っ!!」
それから、翡翠の腕を乱暴に掴んで、その身体が宙に浮くまで持ち上げた。
その時見た泰斗の顔は、結局、10年以上翡翠を苦しめることになる。何の感情もなくなってしまったようなその黒い瞳はまるで深い穴のようで、覗きこんだらそこに落ちて行ってしまいそうな気がした。
「……痛っ! 泰斗……さ……いた……い」
乱暴に扱われて、まだ塞がっていない傷が悲鳴を上げる。
泰斗に出会って10年。こんな彼を見るのは初めてだった。彼は敵と決めた相手にはとても恐ろしい人だったけれど、少なくとも翡翠や彼を慕う人間には優しかった。
彼を怒らせるようなことをして、殴られたこともある。でも、彼はいつだって殴られた翡翠より痛そうな顔をした。そんな人だった。
「……はな……し」
しかし、今、ここにいるのは誰だろう。
翡翠は思う。
こんな人を翡翠は知らない。
「知りたいか?」
声が漏れる。
S県にある愛生会H病院。その特別室。そこに翡翠はいた。H病院は菱川組の傘下で泰斗がトップを務めるプロジェクトの中核病院だった。院長以下、全ては泰斗の思うままに動かすことができる。
怪我をしてから3週間。その病院の集中治療室で処置を受けていたらしい。
目が覚めてからも絶対安静で、PCに触ることすら許されなかった。
そして、その間に、理佐を襲って、自分を撃った犯人は菱川の報復で命を落としたらしい。犯人だという男たちは防犯カメラに映った男たちだった。泰斗への復讐のために妹である理佐を襲ったのだそうだ。
それを、まるまる全部信じたわけじゃない。
それでは、鍵が開いていた理由がわからない。
泰斗の家の鍵を持っている人物は、泰斗と翡翠。理佐の他にはいないはずだった。
その疑問への答えが。そこにあった。
理佐の元恋人という医者は、理佐の死に疑問があると近づいてきた。その男に渡されたPCで自宅の防犯カメラを覗き見ると、サーバーに残された映像は改竄されていた。
そして、消された最後の映像。
そこには見たこともない残忍な笑みを浮かべる、泰斗がいた。
「なんで……泰斗さんが?」
ベッドを下りて、床に座りこみ、翡翠は画面を見ていた。PCを触らせようとしない泰斗から、それを隠すためだったのだが、見たことの意味が分からなくて、立ち上がれなくなってしまった。
「……なんで。理佐を……俺を……」
かた。
と、僅かな物音がして、翡翠はびくりと身体を竦ませた。音のする方を振り向くと、そこには泰斗がいた。
「……泰斗……さん」
表情がない。ただ、じっと、翡翠の持っているPCを凝視して、動かない。
「……どして?」
呟くと、泰斗がゆっくりと翡翠の方に歩きだした。
「泰斗……さ」
翡翠の前までくると、彼の持っているPCをいきなり奪い取って、壁に叩きつける。
「っ!!」
それから、翡翠の腕を乱暴に掴んで、その身体が宙に浮くまで持ち上げた。
その時見た泰斗の顔は、結局、10年以上翡翠を苦しめることになる。何の感情もなくなってしまったようなその黒い瞳はまるで深い穴のようで、覗きこんだらそこに落ちて行ってしまいそうな気がした。
「……痛っ! 泰斗……さ……いた……い」
乱暴に扱われて、まだ塞がっていない傷が悲鳴を上げる。
泰斗に出会って10年。こんな彼を見るのは初めてだった。彼は敵と決めた相手にはとても恐ろしい人だったけれど、少なくとも翡翠や彼を慕う人間には優しかった。
彼を怒らせるようなことをして、殴られたこともある。でも、彼はいつだって殴られた翡翠より痛そうな顔をした。そんな人だった。
「……はな……し」
しかし、今、ここにいるのは誰だろう。
翡翠は思う。
こんな人を翡翠は知らない。
「知りたいか?」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。


【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜
高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる