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Internally Flawless
幕間 夜想曲『籠の中』 5
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「翡翠」
肉のぶつかり合う音が聞こえてるほど激しく突き上げられる隙間、男の唇が翡翠の耳元にまた、何かを囁く。氷の刃で直接脳を撫ぜられたような気がした。
「何というのか、教えただろう?」
何度も、何度も、こうやって、男に犯された。その度、男は必ず、それを翡翠の口から言うように強制した。
言いたくないと、何度拒絶しても、翡翠がその言葉を言うまで行為が止むことは決してなかった。
「……あっ。やぁん……やめて……! 嫌だ……っ」
男に与えられる絶頂は、玩具に与えられるそれと違う酷い嫌悪感を伴った。快楽を受け入れてしまう身体と、それを受け入れてしまう自分を嫌悪する心がばらばらにされるようなその感覚を思い出して、翡翠は身震いした。けれど、男の行為も、のぼりつめて行く身体も、どうすることもできない。
「……いや……っああ。いやだぁ……やめ。やめてぇ。た……とさ……ひっああ」
一瞬。その激しい行為が止んだ。
「翡翠」
耳元で男の声がする。その声が自分は確かに大好きだったはずなのだ。けれど、今は誰よりも何よりも嫌悪している。
「何というか、教えただろう?」
ざらざらした舌で鼓膜まで撫でられているようで、ぞっとした。
怖い。
その言葉を自分の口から言うことも。
男の思い通りに作り替えられることも。
この先にある絶頂は今までの比ではないことを翡翠は知っている。何度も何度も男の精を身体の奥に受け入れて覚えさせられたのだ。けれど、それは、何よりも、恐ろしかった。
「あ。……あ。たい……とさ……ん」
だから、翡翠は折れた。
「……たいと……さん。……あ……いし……て。俺は……あなたの……もので……す」
その続きをやめてほしい一心で教えられただけの言葉の羅列をきれぎれに囁く。屈辱とか、嫌悪感とか。ないわけではない。むしろ、押しつぶされそうなほどある。それでも、許されたかった。だから、今、瞳から溢れてシーツに落ちた雫が、翡翠の中のどんな感情に流れた涙なのか、もう、翡翠自身にもわかってはいなかった。
「いい子だ」
さら。と、その指が翡翠の髪を梳いて、優しく頭を撫でる。
「……たい……とさ……」
一瞬。あの頃の泰斗に戻ってくれたような気がして、翡翠はほう。と、息を吐いた。
「いい子にできたご褒美だ」
「……っえ? あ……っっ!!」
しかし、再び始まった激しい突き上げに、無防備になっていた翡翠は声すら上げることができずに、身体を仰け反らせる。意識は半分なくなっていた。ただ、激しく、強く、身体の最奥を責められて、揺さぶられるに任せるしかできることはない。
「翡翠。俺の……翡翠。お前は俺なしで幸せになど、なれはしない。覚えておけ」
遠く、遠くから、何か声が聞こえた気がしたけれど、その意味を考えることは、もう、翡翠にはできなかった。
そんな毎日の行為の中で、翡翠の意識が最後まで残っていたことなど一度もなかった。
肉のぶつかり合う音が聞こえてるほど激しく突き上げられる隙間、男の唇が翡翠の耳元にまた、何かを囁く。氷の刃で直接脳を撫ぜられたような気がした。
「何というのか、教えただろう?」
何度も、何度も、こうやって、男に犯された。その度、男は必ず、それを翡翠の口から言うように強制した。
言いたくないと、何度拒絶しても、翡翠がその言葉を言うまで行為が止むことは決してなかった。
「……あっ。やぁん……やめて……! 嫌だ……っ」
男に与えられる絶頂は、玩具に与えられるそれと違う酷い嫌悪感を伴った。快楽を受け入れてしまう身体と、それを受け入れてしまう自分を嫌悪する心がばらばらにされるようなその感覚を思い出して、翡翠は身震いした。けれど、男の行為も、のぼりつめて行く身体も、どうすることもできない。
「……いや……っああ。いやだぁ……やめ。やめてぇ。た……とさ……ひっああ」
一瞬。その激しい行為が止んだ。
「翡翠」
耳元で男の声がする。その声が自分は確かに大好きだったはずなのだ。けれど、今は誰よりも何よりも嫌悪している。
「何というか、教えただろう?」
ざらざらした舌で鼓膜まで撫でられているようで、ぞっとした。
怖い。
その言葉を自分の口から言うことも。
男の思い通りに作り替えられることも。
この先にある絶頂は今までの比ではないことを翡翠は知っている。何度も何度も男の精を身体の奥に受け入れて覚えさせられたのだ。けれど、それは、何よりも、恐ろしかった。
「あ。……あ。たい……とさ……ん」
だから、翡翠は折れた。
「……たいと……さん。……あ……いし……て。俺は……あなたの……もので……す」
その続きをやめてほしい一心で教えられただけの言葉の羅列をきれぎれに囁く。屈辱とか、嫌悪感とか。ないわけではない。むしろ、押しつぶされそうなほどある。それでも、許されたかった。だから、今、瞳から溢れてシーツに落ちた雫が、翡翠の中のどんな感情に流れた涙なのか、もう、翡翠自身にもわかってはいなかった。
「いい子だ」
さら。と、その指が翡翠の髪を梳いて、優しく頭を撫でる。
「……たい……とさ……」
一瞬。あの頃の泰斗に戻ってくれたような気がして、翡翠はほう。と、息を吐いた。
「いい子にできたご褒美だ」
「……っえ? あ……っっ!!」
しかし、再び始まった激しい突き上げに、無防備になっていた翡翠は声すら上げることができずに、身体を仰け反らせる。意識は半分なくなっていた。ただ、激しく、強く、身体の最奥を責められて、揺さぶられるに任せるしかできることはない。
「翡翠。俺の……翡翠。お前は俺なしで幸せになど、なれはしない。覚えておけ」
遠く、遠くから、何か声が聞こえた気がしたけれど、その意味を考えることは、もう、翡翠にはできなかった。
そんな毎日の行為の中で、翡翠の意識が最後まで残っていたことなど一度もなかった。
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