遠くて近い世界で

司書Y

文字の大きさ
上 下
239 / 414
Internally Flawless

幕間 夜想曲『籠の中』 4

しおりを挟む
「……あ……?」

 一瞬だけ翡翠の意識はそちらに奪われた。
 だから、気付かなかなかった。否。そうでなくても、溺れるような快楽の波の中で、周りを気にしている余裕など、翡翠にはなっただろう。

「……っひあっ。ああぁっ」

 ぐり。と、何かが身体の中、普段誰にも触れられることなどない、柔らかくて、弱い場所を抉った。
 息が詰まるほどの痺れに、高い悲鳴が上がる。もう、それは快楽というよりも、衝撃というのが相応しかった。

「いっ。……あああ! だめっ。いやっあ」

 気付かないうちに、男は翡翠の前まで来ていた。足音にも、気配にも気づきはしなかった。そして、その手は翡翠の足の間の淫具を握っていた。もはや、暴きつくされた翡翠の弱い部分にはその先端を押し付けられて、機械的な振動と男の手の動きの両方で攻め立てられる。
 散々弄ばれて敏感になった身体は、その快楽を拒む術を持たなかった。ほんの数秒すら堪えることもできず、その白い首を大きく仰け反らせて、翡翠は 何度目かの絶頂を迎えた。
 びくびくと、細く傷ついた身体が痙攣する。

「……あ……あ」

 その解放感に身を任せていた翡翠は、その男がいつの間にか自分の上にのしかかっていることに気付いても、どうすることもできなかった。気付いていたとしてもどうすることもできないことに変わりはない。

「あ……い……や。やめ……て」

 ただ、首を振り、否定することしか、できなかった。
 そんな翡翠の姿に男の口がまた、弓形にしなる。その笑顔は、こんな状況だとは信じられないくらいに優しかった。この人が父親だったらどんなによかっただろうと翡翠が思っていた頃の優しい優しい笑顔に、ぞっと脳に嫌悪が突き刺さる。

「……やだ。泰斗さん……こわ……いよ」

 する。と、その手が翡翠の頬を撫でた。
 優しい笑顔から、想像もできないほどにその手は冷たかった。

「……いや。……いやだ」

 湧き上がってくる恐怖に翡翠は何度も首を振る。恐怖に身体が震えて、かちかち。と、歯が鳴った。

「いやだ。いやだ。ばかりだな。翡翠。悪い子だ。何と言えばいいか、教えただろう?」

 男の唇が耳元に囁く。

「……ごめ。んなさ……おねが……もう」

 やめて。と、言葉は声にならなかった。

「違うだろう?」

 男の言葉と同時に、後孔から、乱暴に玩具が引き抜かれる感覚に、意識が一瞬遠のく。しかし、それは一瞬で、次の瞬間には息が詰まるほどの熱量と質量をもった男のソレが彼の胎内を抉っていた。

「あああっ……や……っあっ。ふ……ぁあん」

 がちゃがちゃと手錠がパイプとぶつかる音が聞こえる。その音も、血が滲むほど抵抗して擦り切れた手首の痛みも酷く遠い。
 慣らすために入れられたローションと男の肉棒が立てる音だけが、まるで耳元で響いているように聞こえる。

「……ぁやっ。ああっ。あっ。……やめ……っ。しん……じゃう……っ」

 達したばかりで敏感になっている体内をまるで暴力のような激しい抽挿が犯し尽くす。視界が大きく揺れ、新しい涙が溢れて零れ落ちた。それでも、翡翠自身も数えることを放棄してしまうほど重ねられた行為に慣らされてしまった身体は、そんな乱暴な扱いにまで反応を返してしまう。玩具を巻きつけられたままのソコはいつの間にか緩く立ち上がって、男と翡翠の間で揺さぶられるのに任せて心もとなく揺れていた。

「んんっ……あ。ひう……あ……やだ。やだあ……も。やっ。……きもちよく……なりたく……ああっ。なりた……ないっ」

 自分の声が何と言っているかも、よくわからなかった。ただ、それが堪らないほどに気持ちがいいのだと認めたくはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

彩雲華胥

柚月なぎ
BL
 暉の国。  紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。  名を無明。  高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。  暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。 ※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。 ※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。 ※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜

高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です

処理中です...