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Internally Flawless
幕間 夜想曲『籠の中』 3
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「……た……と……さん……っ。も、ゆるして……っ。あ……っふぅ。おか……しく……なる……っ」
ずっと、もうやめてと懇願している。それはただの惰性だった。条件反射のようなものだったかもしらない。けれど、涙と喘ぎと射精の間の言葉はその男を煽っているだけだった。
「……やめ……おねが……」
翡翠には分かっていた。泰斗がそんな翡翠こそ愛でているのだということ。そうして、緩やかに、確実に快楽という絶望に堕ちていく翡翠にこそ執着しているのだということ。
初めて泰斗に抱かれた後、翡翠はこの部屋を一歩も出てはいない。ドアの外に人の気配はない。窓ははめ殺しになっていた。けれど、足に繋がれた鎖はギリギリ、ドアに届かない長さだったし、届いたとしても切る方法もなく、外に出ることはかなわなかっただろう。
その上、翡翠は、疲弊しきっていた。
「……泰斗……っン……さ……。どう……して」
こんなことをされるのは初めてではなかった。もう何日も、男がここに来るたびに同じ様に時間も分からなくなるほど、嬲られ続けている。
だから、分かっているのだ。翡翠の質問に答えが返ってこないことも、懇願が聞き入れられることがないことも、その人がもう、元には戻ってくれないことも、どんなに歪んでいてもその人はそれを『愛』と、呼ぶのだということも。
分かっていても、懇願することも、反応を返すことも、翡翠には止めることができなかった。
「……や。あぁぁん。……ゆるし……ぁ……て……。ゆるしてくださ……っ」
甘く高い声が飴のように長く甘く糸を引く。淫具の機械的で無慈悲な刺激が休むことなく翡翠の身体を蝕む。一瞬、意識が途切れそうになった。けれど、脱力しそうになった瞬間、ひときわ高くモーター音が響いた。男の手に握られたリモコンの+のボタンが押されたのだ。
「ヒ……うッ……ああっ」
不意に強くなる振動。暴力的な快楽に意識が強引に呼び戻される。必死に首を振ると、涙の雫が飛び散った。
「やっ……いやあっ」
翡翠の声は最早悲鳴のようだった。その声に男の口角が上がる。瞳の端に映った男の顔。
笑ってる。
翡翠は思う。
ここに監禁され始めてから、いったい何日たったのだろう。
2週間は経っていると思うのだが、よく思い出せない。何故なら、男がここに来るたびに抱かれて、傷を抉られて、手当を受けて、寝る。その繰り返しだからだ。あまりに同じことを繰り返すものだから、それが、何度目なのかなんて、もう、数えてはいられなかった。
最初は痛みだけだったその行為も、薬と玩具を使った調教で強引に慣らされて、怒りも、憎しみも、屈辱も忘れてしまいそうになる自分がいることに、翡翠も気付いていた。調教されている間、どうせ、逃げ出せはしないのだと、全て諦めてしまいそうになるのを現実に戻った自分がダメだと必死に押しとどめる。
諦めてしまいたい自分と泰斗を許すことができない自分。その間で揺れている。だから、理性を手放した後でも、もう、どうでもいいと半ば諦めていても、否定の言葉を必死に口から絞り出すことをやめることはできなかった。やめてしまったら、本当に、終わってしまう。
「あっ。あっ。……泰斗……さん。も。やめて……っここ……から……だし……」
全て投げ出して、快楽に溺れてしまいそうな自分が恐ろしい。
股間を大きく膨らませながらも、殆ど無表情で自分を見つめる男の思い通りになってしまいたくない。
その男が自分に言う『愛している』という言葉が、愛というものの本質なのだとは信じたくない。
優しくなくてもいい。身を焼き尽くしても構わない。けれど、ただ、一方的に奪い、壊すのではない何かが。まだ、翡翠が出会うことができないだけで、どこかにあるのだと信じること諦めたくない。
「……ぁ。……あ。……あ。だれ……か」
掠れた声が喉の奥から漏れる。誰かの姿が涙で霞んだ視界の先、遠く浮かんだ気がした。
「……あ……?」
ずっと、もうやめてと懇願している。それはただの惰性だった。条件反射のようなものだったかもしらない。けれど、涙と喘ぎと射精の間の言葉はその男を煽っているだけだった。
「……やめ……おねが……」
翡翠には分かっていた。泰斗がそんな翡翠こそ愛でているのだということ。そうして、緩やかに、確実に快楽という絶望に堕ちていく翡翠にこそ執着しているのだということ。
初めて泰斗に抱かれた後、翡翠はこの部屋を一歩も出てはいない。ドアの外に人の気配はない。窓ははめ殺しになっていた。けれど、足に繋がれた鎖はギリギリ、ドアに届かない長さだったし、届いたとしても切る方法もなく、外に出ることはかなわなかっただろう。
その上、翡翠は、疲弊しきっていた。
「……泰斗……っン……さ……。どう……して」
こんなことをされるのは初めてではなかった。もう何日も、男がここに来るたびに同じ様に時間も分からなくなるほど、嬲られ続けている。
だから、分かっているのだ。翡翠の質問に答えが返ってこないことも、懇願が聞き入れられることがないことも、その人がもう、元には戻ってくれないことも、どんなに歪んでいてもその人はそれを『愛』と、呼ぶのだということも。
分かっていても、懇願することも、反応を返すことも、翡翠には止めることができなかった。
「……や。あぁぁん。……ゆるし……ぁ……て……。ゆるしてくださ……っ」
甘く高い声が飴のように長く甘く糸を引く。淫具の機械的で無慈悲な刺激が休むことなく翡翠の身体を蝕む。一瞬、意識が途切れそうになった。けれど、脱力しそうになった瞬間、ひときわ高くモーター音が響いた。男の手に握られたリモコンの+のボタンが押されたのだ。
「ヒ……うッ……ああっ」
不意に強くなる振動。暴力的な快楽に意識が強引に呼び戻される。必死に首を振ると、涙の雫が飛び散った。
「やっ……いやあっ」
翡翠の声は最早悲鳴のようだった。その声に男の口角が上がる。瞳の端に映った男の顔。
笑ってる。
翡翠は思う。
ここに監禁され始めてから、いったい何日たったのだろう。
2週間は経っていると思うのだが、よく思い出せない。何故なら、男がここに来るたびに抱かれて、傷を抉られて、手当を受けて、寝る。その繰り返しだからだ。あまりに同じことを繰り返すものだから、それが、何度目なのかなんて、もう、数えてはいられなかった。
最初は痛みだけだったその行為も、薬と玩具を使った調教で強引に慣らされて、怒りも、憎しみも、屈辱も忘れてしまいそうになる自分がいることに、翡翠も気付いていた。調教されている間、どうせ、逃げ出せはしないのだと、全て諦めてしまいそうになるのを現実に戻った自分がダメだと必死に押しとどめる。
諦めてしまいたい自分と泰斗を許すことができない自分。その間で揺れている。だから、理性を手放した後でも、もう、どうでもいいと半ば諦めていても、否定の言葉を必死に口から絞り出すことをやめることはできなかった。やめてしまったら、本当に、終わってしまう。
「あっ。あっ。……泰斗……さん。も。やめて……っここ……から……だし……」
全て投げ出して、快楽に溺れてしまいそうな自分が恐ろしい。
股間を大きく膨らませながらも、殆ど無表情で自分を見つめる男の思い通りになってしまいたくない。
その男が自分に言う『愛している』という言葉が、愛というものの本質なのだとは信じたくない。
優しくなくてもいい。身を焼き尽くしても構わない。けれど、ただ、一方的に奪い、壊すのではない何かが。まだ、翡翠が出会うことができないだけで、どこかにあるのだと信じること諦めたくない。
「……ぁ。……あ。……あ。だれ……か」
掠れた声が喉の奥から漏れる。誰かの姿が涙で霞んだ視界の先、遠く浮かんだ気がした。
「……あ……?」
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