遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

07 逢瀬 02

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 ユキは結構マメだ。それは計算や打算ではなくて、頭で考えずに思うままにしているのに、自然とそうなっているのだと、スイは思う。
 ほんの僅かな時間しかなくても、疲れていたとしても、こうやって会いに来てくれたり、会えなくてもマンションのドアにメッセージ入りの差し入れを置いていってくれたりする。それはスイのためというより、自分がそうしたいだけなのだが、結果的にスイの今の唯一の癒しになっていた。

「だってさ。スイさんに会えなくて、俺が死にそうだったし」

 もう一度スイを抱きしめて、今度はその首筋に顔を埋めて、ユキが言う。

「あー。このまま連れて帰りたい……」

 耳元でそんな風に囁かれて、思わず首を竦める。
 ユキの声は、低くて渋くて、耳の奥の頭の中まで撫でられているような気分にさせる。特に今みたいに何日も会えなかった時に、そんな風に囁くのはずるい。本人は無自覚なのか、そんないい声で、どきりとさせるようなことを言っておいて、その後に少年のように笑うから、性質が悪い。

「そんな顔しないでよ。本当に連れて帰りたくなっちゃうだろ?」

 そんな思いが顔に出てしまっていたのだと思う。いや、多分出していなくても、ユキは気付く。その黒曜石の色の瞳には嘘はつけないから。

「……ユキ君」

 連れて帰ってほしいと、思う気持ちがあったのは間違いない。あんな見栄を切っておきながら、半月以上アキにもユキにも殆ど触れられないことが寂しくて、夜部屋に一人になると堪らない気持ちになった。だから、ここで『調べ物』をするのが危険だとは分かっているけれど、家に帰らずに隠れるようにして仕事をしているのだ。

「スイさん。もしかして……まだ、兄貴と連絡取ってないの?」

 その切なげな表情に何かを察したようにユキが問う。

「……うん」

 最初の数日はただ気まずくて連絡ができなかった。怒りなんて一瞬で、すぐに後悔したけれど、やっぱりあんなふうに言われたのがショックで、謝っとけばいいや。とは思えなかった。
 それから、一週間ほどすると会いたくて、声が聞きたくて、堪らなくなった。でも、ちょっとした言い争いくらいはあっても、こんな本格的な喧嘩なんて出会ってから初めてで、どうやって仲直りしていいのか分からなくなった。もし、仲直りしたいという思いを拒絶されたらと思うと、怖くて踏み出すことができない。
 でも、そうして連絡を取らないでいると、今度はどうしようもなく寂しくて、その人に触れることができない身体が熱を持つようになった。それも、毎晩のように。
 家を出てから、まだ、3週間も経ってはいない。5年もそんなことなしで生活していたのに、アキがほしくて堪らなくなっている自分がすごく浅ましく思えて、余計に連絡なんて取れなくなった。
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