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Internally Flawless
06 恋情 04
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スイはその髪の色や瞳の色を、緑という括りでしか判断しない。けれど、伏せられていた瞳が瞬くように見上げてくる時の色を、雨に濡れた髪を解いた時の色を、花が開くような笑顔を浮かべる時の輝くような瞳の色を、ふわりとした髪を風に嬲らせている時の色を、たった一つの緑という色で括ることができるはずがない。
確かに彼は自分より4歳年上だし、仕事の時は冷静で頼りになる年上のハッカーなのだ。しかし、少し酔ったとき舌っ足らずになる声や、ユキと一緒に絶叫しながらゲームをしている姿や、何か分からないことがある時に見せるきょとんとした表情が、どれだけ庇護欲を、相手によっては征服欲をかきたてるかなんて考えもしないのだ。
だから、彼は自分の価値を知らない。
だから、無防備に危険の前に姿を曝け出す。
だから、いつだって、心配で目が離せない。
だから、あの男と同じように。腕の中に収めておきたいと願ってしまう。
そんなこと、絶対に知られてはいけない。知られたら、きっと、スイは失望するだろう。それに耐えられる気がしなかった。アキにとってスイはかけがえのない人で、もう絶対に離すことなんて考えられないから。
本当なら、今すぐにでも、その人の所に走って行って、抱きしめたい。せめて、声を聞きたい。それもかなわないなら、ただのLINEのメッセージでもいい。
スイを感じたい。
でも、何と謝っていいのか、それがわからなかった。
自分自身の醜い感情に気付かれたら、拒絶されたら、どうしていいのか、わからなかった。
だから、こうして毎日その人を思ってため息をつく。
「ため息なんて、あなたには相応しくないわ」
女性にしては低めの声で話しかけられて、アキは振り返った。
そこにはアキの現在の雇い主がいた。レイ。の名で国内外で活躍しているらしいトップモデルだ。
「スマートフォンを私の前で開かないでと最初に注意したでしょう?」
アキはこの女が嫌いだった。警護の仕事についている以上、仕事中は彼女の言うとおり、プライベートのスマートフォンに注意を払っているべきではないと思う。だから、電源も切ってあるし、取りだして確認するようなことはない。しかし、今はもう、任務の時間外だ。雇い主だからと言って、指図される筋合いはない。
「時間外だ。あんたの指図は受けない」
だから、アキは思ったままに答えた。
「綺麗な瞳。不機嫌な顔も魅力的よ」
ふふ。と余裕で笑って、女が言う。それから、アキの髪に手を伸ばす。
「私の隣に映えるわ」
触れられそうになって、アキはすと、その手を避けた。
何度も言うが、アキはこの女が嫌いだった。
まったく、人の話を聞かない。自信過剰でアキの態度もいいようにしかとらない。
確かに美しい容姿はしていると思うけれど、興味もない。
気の強そうな目も、長い爪も、後ろに靡かせたストレートヘアも、長身をさらに際立たせるハイヒールも、長い脚も、香水の匂いも、何の魅力も感じない。勃たせろといわれれば、一応穴はありそうだしヤれなくもないだろうが、正直興味もなかった。
たとえ、スイがいない間の性欲処理係だったとしても、お断りだと思う。
アキの彼女への興味と言ったら、我儘を言いださずに一日事務所でおとなしくしていてほしいということだけだ。
「あなたも選ばれたものなの」
再三言っているが、アキはこの女が嫌いだ。
彼女にとって、その緑の髪や瞳は自慢のようだった。彼女曰く『神にえらばれた』らしい。
同じ『翠』なのに、こんなにも違う。と、アキは思う。彼女の髪や瞳を称して『エメラルド』と言う人がいる。確かにそうかもしれないと思う。しかし、アキはもっと魅力的な翠の瞳を知っていた。もっと、綺麗な翠の髪を知っていた。エメラルドと言われても、アキの目には色褪せて見える。
「ね。今夜はこのまま私を家まで警護してくれない?」
くどくなるが、アキはこの女が嫌いだ。
ただ、ここまで他人の態度に無頓着になれるのも、ある意味才能だと思う。
この図太さの半分でもスイが自分に自信を持ってくれたら。と、思わなくもない。いや。半分では多すぎるので、4分の1ほどでいい。
「オコトワリシマス」
一言だけ言って、アキはレイに背を向けた。
確かに彼は自分より4歳年上だし、仕事の時は冷静で頼りになる年上のハッカーなのだ。しかし、少し酔ったとき舌っ足らずになる声や、ユキと一緒に絶叫しながらゲームをしている姿や、何か分からないことがある時に見せるきょとんとした表情が、どれだけ庇護欲を、相手によっては征服欲をかきたてるかなんて考えもしないのだ。
だから、彼は自分の価値を知らない。
だから、無防備に危険の前に姿を曝け出す。
だから、いつだって、心配で目が離せない。
だから、あの男と同じように。腕の中に収めておきたいと願ってしまう。
そんなこと、絶対に知られてはいけない。知られたら、きっと、スイは失望するだろう。それに耐えられる気がしなかった。アキにとってスイはかけがえのない人で、もう絶対に離すことなんて考えられないから。
本当なら、今すぐにでも、その人の所に走って行って、抱きしめたい。せめて、声を聞きたい。それもかなわないなら、ただのLINEのメッセージでもいい。
スイを感じたい。
でも、何と謝っていいのか、それがわからなかった。
自分自身の醜い感情に気付かれたら、拒絶されたら、どうしていいのか、わからなかった。
だから、こうして毎日その人を思ってため息をつく。
「ため息なんて、あなたには相応しくないわ」
女性にしては低めの声で話しかけられて、アキは振り返った。
そこにはアキの現在の雇い主がいた。レイ。の名で国内外で活躍しているらしいトップモデルだ。
「スマートフォンを私の前で開かないでと最初に注意したでしょう?」
アキはこの女が嫌いだった。警護の仕事についている以上、仕事中は彼女の言うとおり、プライベートのスマートフォンに注意を払っているべきではないと思う。だから、電源も切ってあるし、取りだして確認するようなことはない。しかし、今はもう、任務の時間外だ。雇い主だからと言って、指図される筋合いはない。
「時間外だ。あんたの指図は受けない」
だから、アキは思ったままに答えた。
「綺麗な瞳。不機嫌な顔も魅力的よ」
ふふ。と余裕で笑って、女が言う。それから、アキの髪に手を伸ばす。
「私の隣に映えるわ」
触れられそうになって、アキはすと、その手を避けた。
何度も言うが、アキはこの女が嫌いだった。
まったく、人の話を聞かない。自信過剰でアキの態度もいいようにしかとらない。
確かに美しい容姿はしていると思うけれど、興味もない。
気の強そうな目も、長い爪も、後ろに靡かせたストレートヘアも、長身をさらに際立たせるハイヒールも、長い脚も、香水の匂いも、何の魅力も感じない。勃たせろといわれれば、一応穴はありそうだしヤれなくもないだろうが、正直興味もなかった。
たとえ、スイがいない間の性欲処理係だったとしても、お断りだと思う。
アキの彼女への興味と言ったら、我儘を言いださずに一日事務所でおとなしくしていてほしいということだけだ。
「あなたも選ばれたものなの」
再三言っているが、アキはこの女が嫌いだ。
彼女にとって、その緑の髪や瞳は自慢のようだった。彼女曰く『神にえらばれた』らしい。
同じ『翠』なのに、こんなにも違う。と、アキは思う。彼女の髪や瞳を称して『エメラルド』と言う人がいる。確かにそうかもしれないと思う。しかし、アキはもっと魅力的な翠の瞳を知っていた。もっと、綺麗な翠の髪を知っていた。エメラルドと言われても、アキの目には色褪せて見える。
「ね。今夜はこのまま私を家まで警護してくれない?」
くどくなるが、アキはこの女が嫌いだ。
ただ、ここまで他人の態度に無頓着になれるのも、ある意味才能だと思う。
この図太さの半分でもスイが自分に自信を持ってくれたら。と、思わなくもない。いや。半分では多すぎるので、4分の1ほどでいい。
「オコトワリシマス」
一言だけ言って、アキはレイに背を向けた。
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