遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

06 恋情 03

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 ◇秋生◇

 14日目。

 仕事を終え、スマートフォンの電源を入れる。着信はない。LINEメッセージは数件はいっているが、ユキとセイジで、その人の名前はなかった。
 半ば以上そうであることを確信してはいた。それでも、アキは大きくため息をつく。スイに連絡をとらなくなって、すでに2週間以上たっていた。ナオからは毎日定時連絡があるし、ユキは頻繁に連絡を取っているようだったから、何事もないのは分かっている。けれど、アキ自身はスイの声を全く聞いていないし、LINEにメッセージを送ってすらいない。
 何度も連絡を取ろうとは思った。メッセージを途中まで打ち込みもした。けれど、それを送ることができなかった。

 何と言って、謝ったらいいか分からなかったからだ。

 自分が言ったことが間違っていたとは今も思っていない。けれど、それでスイを傷つけたという後悔は日を追うごとに強くなる。
 スイを傷つけたかったわけではない。ただ、自分を低く見て軽んじるのは、我慢できない。アキにとって一番大切なのはスイだ。少しでいい、アキの忠告を受け入れて危機感を持ってほしい。
 本当は、どんな危険にも会わせたくない。辛い思いをさせたくない。いつでも腕の中に閉じ込めて、守っていたい。そんな自分の願いを余裕がなくなると彼にぶつけてしまう。それが、彼の自尊心を傷つけているのも、彼がいつでも強くありたいと願っているのがアキやユキのためだというのも、分かっている。

 スイは人とのかかわりを避けてきた。それは、彼を施設から助けたという男に監禁される以前からの話だと思う。話を聞く限りでは、学校と名のつくものには通ってはいない。殆どの知識は独学で、十代の時間の大半を図書館の閲覧室で過ごしたらしい。
 他人とのかかわりを最小限にしてきた彼は、同年代の子供との共同生活を送ったことがない。だからこそ、自分が他人と比べてどうなのか。という、単純な自己認識がかなり曖昧で、教科書通りに年齢や性別でしか自分を判断しない。

 でも、それが大きな間違いなのだと、アキは思う。
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