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Internally Flawless
04 同僚 07
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店を出ると、外はかなり冷え込んでいた。今のスイの住所はこの駅前からそれほど離れてはいない。歩いて20分もかからない場所だ。
外に出てすぐにスマートフォンを確認すると、ユキからのLINEが入っていた。
『仕事ご苦労さま。無理してない?』
『明日は早番
スイさん仕事から帰ったら、電話して』
『大好きだよ』
そのメッセージに、ほっと心が温かくなる。直接声が聞けたわけでもないのに、疲れが癒されていくような気がした。
『返事遅くてごめん
明日ははやく帰って電話する』
『俺も大好きだよ』
たったそれだけでも、繋がっていると実感できて幸せだった。けれど、ため息が出る。
やっぱりアキからのメッセージはなかった。出会ってから、こんな関係になる前も含めて、こんなに長く連絡を取らないことなんて一度もなかった。
「……アキ君」
ため息交じりの言葉は白い吐息になって、少しだけ残って消えていく。
「スイさん」
後ろから声をかけられて、はっとして、スイは振り返った。そこに立っていたのは、さっきの居酒屋にいたルイと言う男だった。
「あ……れ? あの、飲み会は?」
呟きを聞かれてしまったのではないかと、声が震える。
「いや。これ、スイさん、忘れて行ったから」
彼の手には、スイの仕事用のスマートフォンがあった。といっても、普段『ハウンド』をしている時に使っているものではない。この仕事用にナオから支給されたものだ。
「あ。ありがとう」
受け取ろうと手を伸ばす。
「スマホ、2台持ちなんだ」
伸ばした手にそのスマートフォンを渡すことはせずに、男が言う。
「え? あ。うん」
背後からの明かりしかなくて、男の表情は見えない。声だけが、暗い路地に低く響く。
「『アキ』って、誰?」
聞かれていた。と。一気に警戒心が高まる。
けれど、スイは、落ち着けと自分に言い聞かせた。別にアキの名前を呼んでいたことを聞かれたからと言って、何の問題もないはずだ。
「ともだち」
努めて冷静を装う。
「そっか。ともだち……か。すごく切なそうな声だったから、恋人なのかと思った」
スマートフォンを受け取ろうと伸ばした手に男が触れる。スイの手を包み込むように下から握りこまれて、ぞっとして手を引こうとすると、その手が強く握りしめてきた。
「……痛っ」
「『アキ君』って言ったよね? 男の人だよね? スイさんってそっちの人?」
握られた手を無理やり引き離す。
「友達だって。そっちってどういう意味だよ」
不快さを声に出すと、男は途端にあたふたとし始めた。
「や。別にそういうことじゃ……その。スマホ返すよ」
その手から奪い取るようにスマートフォンを取って、スイは駆けだした。
「スイさん!」
後ろは振りむけなかった。
走っているからではなくて、鼓動が激しかった。気持ち悪くなって、途中で立ち止まって吐いた。
その日は男が後を追ってきていないか、何度も何度も確かめて、家に帰った。
外に出てすぐにスマートフォンを確認すると、ユキからのLINEが入っていた。
『仕事ご苦労さま。無理してない?』
『明日は早番
スイさん仕事から帰ったら、電話して』
『大好きだよ』
そのメッセージに、ほっと心が温かくなる。直接声が聞けたわけでもないのに、疲れが癒されていくような気がした。
『返事遅くてごめん
明日ははやく帰って電話する』
『俺も大好きだよ』
たったそれだけでも、繋がっていると実感できて幸せだった。けれど、ため息が出る。
やっぱりアキからのメッセージはなかった。出会ってから、こんな関係になる前も含めて、こんなに長く連絡を取らないことなんて一度もなかった。
「……アキ君」
ため息交じりの言葉は白い吐息になって、少しだけ残って消えていく。
「スイさん」
後ろから声をかけられて、はっとして、スイは振り返った。そこに立っていたのは、さっきの居酒屋にいたルイと言う男だった。
「あ……れ? あの、飲み会は?」
呟きを聞かれてしまったのではないかと、声が震える。
「いや。これ、スイさん、忘れて行ったから」
彼の手には、スイの仕事用のスマートフォンがあった。といっても、普段『ハウンド』をしている時に使っているものではない。この仕事用にナオから支給されたものだ。
「あ。ありがとう」
受け取ろうと手を伸ばす。
「スマホ、2台持ちなんだ」
伸ばした手にそのスマートフォンを渡すことはせずに、男が言う。
「え? あ。うん」
背後からの明かりしかなくて、男の表情は見えない。声だけが、暗い路地に低く響く。
「『アキ』って、誰?」
聞かれていた。と。一気に警戒心が高まる。
けれど、スイは、落ち着けと自分に言い聞かせた。別にアキの名前を呼んでいたことを聞かれたからと言って、何の問題もないはずだ。
「ともだち」
努めて冷静を装う。
「そっか。ともだち……か。すごく切なそうな声だったから、恋人なのかと思った」
スマートフォンを受け取ろうと伸ばした手に男が触れる。スイの手を包み込むように下から握りこまれて、ぞっとして手を引こうとすると、その手が強く握りしめてきた。
「……痛っ」
「『アキ君』って言ったよね? 男の人だよね? スイさんってそっちの人?」
握られた手を無理やり引き離す。
「友達だって。そっちってどういう意味だよ」
不快さを声に出すと、男は途端にあたふたとし始めた。
「や。別にそういうことじゃ……その。スマホ返すよ」
その手から奪い取るようにスマートフォンを取って、スイは駆けだした。
「スイさん!」
後ろは振りむけなかった。
走っているからではなくて、鼓動が激しかった。気持ち悪くなって、途中で立ち止まって吐いた。
その日は男が後を追ってきていないか、何度も何度も確かめて、家に帰った。
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